【がん治療記x受験奮闘記】治療の説明(1)

 手術から9日後、8月22日、脳神経外科の医師から腫瘍とその治療についての説明があった。手術により僕の脳腫瘍は胚細胞腫瘍のジャーミノーマピュアであることが分かった。この腫瘍は人が胎児になる前の段階である胚の時の細胞が原因となって発生すると言われているそうだ。また、10~30歳代の日本人男性に多い腫瘍らしい。この腫瘍は治療が良く効くため10年生存率は90%以上、20年生存率は80%以上とがんの中では高い数値だった。これは不幸中の幸いと言えるだろう。
 治療の方法は抗がん剤治療と放射線治療の併用である。治療法の名前はCARE療法と言い、抗がん剤はカルボプラチンとエトポシドを使うらしい。副作用は全身の脱毛、倦怠感、嘔気、食欲不振などに加え、骨髄抑制という聞きなじみのない言葉が並んでいた。具体的には血球成分が減少するらしい。簡単に言うと、白血球の減少により免疫力が低下し、赤血球の減少により体力が落ち、血小板の減少により血が止まりにくくなるということだろう。生物選択ではないが、ある程度理解できた。ただ、副作用の理解はできてもその辛さを想像することはできなかった。どの副作用も受験勉強には響かないだろうとすら思っていた。ご飯が食べられないとどうなるのか、髪の毛が全部抜けたらどう思うのかなんてわかるはずがない。だから僕は治療中でも受験勉強をするなんて呑気なことを言えたのだろう。
 また、治療をしなかった場合どうなるのかも説明された。この内容は怖かった。腫瘍は大きくなり、脳室から脳全体に転移し、最後には脊髄に転移するのだという。転移先が恐ろしすぎるのだ。もし、頭痛を我慢して病院に行かず受験勉強を続けていたら僕は全身けいれんを起こして死ぬ運命にあったかもしれない。あくまでも最悪のケースではあるが怖すぎると思った。
 治療期間は最短で12週間と言われた。もし違う腫瘍であった場合、治療期間が長くなっていた可能性もあるため、これも不幸中の幸いと言えるだろう。治療を3ヶ月で終わらせることができないと受験にかなり響くのだ。ただ治療開始日は8月31日。つまり順調に治療が進んでも11月23日までは退院できないということである。共通テストは1月中旬であるため、退院して2ヶ月も経たないうちに試験が訪れてしまうことになる。それを考えるとどうしても焦ってしまう。
 結局僕は治療の説明の時も受験のことで頭がいっぱいだった。

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