【がん治療記x受験奮闘記】手術前


 2020年8月11日、入院初日、人生初めての入院に臆することなく勉強する気満々で病院に向かった。普段は6時半~7時に起床し23時まで勉強してから寝る僕にとって、6時起床21時就寝には少々不満であった。しかし僕は男子校の生徒であるため、女性がいるというだけでその不満は解消された。
 初めての病院食は想像よりは良かった。病院食は不味いというイメージがあるが、そこまでではないと感じた。美味しいかと言われると首を傾げてしまうものもあったが食べられないものはなかった。
 同日、脳神経外科から手術前の説明があった。入院前の麻酔科の説明では全身麻酔に関して、人工呼吸器をつけることやそれに伴い喉を数日間痛める可能性があること、オムツを必要とすること、当日の朝は水とお茶しか口にすることができないことなどを言われていた。一方で脳神経外科の説明では手術の具体的な内容について話された。まず手術の目的は腫瘍の全てを摘出することではなく一部を採取し組織診断を確定することであるということ。次に点滴で麻酔を打ったあと髪の毛を一部剃り、皮膚を切開、ドリルで頭の骨に穴を開け、その後硬膜を切開、手術用顕微鏡を使い脳の隙間を縫うようにして腫瘍部分に到達した後、その一部を摘出、最後に硬膜を縫合、骨をチタンプレートで再固定、皮膚を閉じて手術を終え一晩集中治療室で様子を見ると聞かされた。
 さらに手術の危険性を聞いた。脳に内視鏡を入れるというだけで危険なのである。軽度から中等程度の障害が起きる確率が5~10%、寝たきりになるもしくは命に関わるような重大な問題が発生する確率が1%未満ほどあると伝えられた。確率はかなり低い。しかし絶対とは言えないそうだ。脳の血管に少しでも触れてしまえば脳の中で出血を起こす危険もある。具体的な起こり得ることは、出血、梗塞、麻痺やしびれ、歩行障害、言語障害、意識障害、けいれん(てんかん)発作、高次脳機能障害、病原体感染、髄液漏、全身麻酔や輸血に関連した合併症、頭痛、めまい、倦怠感などである。また、必要に応じて再手術の可能性があることも伝えられた。確率は低いといえど、恐怖を覚える言葉が続く。医師はリスクをすべて説明しなければならない。しかし、このような説明は患者の恐怖心を必要以上に煽ってしまう。両親はその説明を聞いていくうちに顔を曇らせていった。ただ、その2人とは打って変わって、僕はあまり気にしていなかった。言語障害や高次脳機能障害は勉強に関わるから起きてほしくないなぁぐらいの気持ちだった。
 8月13日、その気持ちは変わらず手術当日を迎えた。快眠だった。目覚めの良い朝、主治医から眠れたかどうかを聞かれよく眠れたことを伝えると「いいね!」などと励ましの言葉を貰った。入院中の担当医から右耳にマーカーをされ、弾性ソックスとオムツを履き、看護師の入念なチェックを受け、緊張するというよりも初めての手術にワクワクしながら僕は手術室に向かった。両親は心配そうな目で僕を見ていたが、あまり重大に捉えていない僕にとってその表情は少し不思議だった。

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