ふたごやこうめ

小説を色々書き散らかしています。処女作「いぬじにはゆるさない」は、大昔の実体験が元ネタ…

ふたごやこうめ

小説を色々書き散らかしています。処女作「いぬじにはゆるさない」は、大昔の実体験が元ネタ、半分フィクション/初の100%創作「だけど願いはかなわない」→メフィスト賞『印象に残った作品』/「親愛なる子殺しへ」→note創作大賞2023中間選考通過 など

マガジン

  • 短編集『のどに骨、胸にとげ』

    どこから読んでも、『いや〜な話』の、詰め合わせ。 短編小説集。

  • 短編小説『親愛なる子殺しへ』一覧

    前・中・後編の短編小説です。実際にあったショッキングな事件が元になっています。繊細な方はご注意下さい。

  • あいかわ双子は恋が下手

    高校の入学初日、五十音順に並んだ教室の席。隠キャの合川秋生(あいかわ あきお)の高校生活は、帰国子女の双子の姉弟、相河朱里(あいかわ あかり)と相河旭(あいかわ あさひ)に挟まれる形でスタートした。 クスっと笑えてちょっぴりジーンとなれる、青春ラブコメディ!!

  • 眠りの森の植木屋さん 各話一覧

    『大人って、一種類じゃない。』 ライターの花は思考性の多動さん。 独身、恋人無し。それよりも、自分の世界が大事。 ひょんな事から同い年の植木屋・高虎(たかとら)と出会うが、強面な見た目に反して自分に自信が無い高虎と、自分の世界に籠もりきりの花は、すれ違いにすれ違っていく。 三十六歳、微妙に絶妙なお年頃。 奇人変人、発達グレーな大人達のラブコメ小説!!

  • だけど願いはかなわない

    ※メフィスト賞『印象に残った作品』選出作品 この小説の登場人物達は、皆、それぞれの願いを抱きながらも嘘をついて生きています。 身分を偽って出会った相手を好きになってしまった「ハルキ君」。 どこかミステリアスな「スミちゃん」。 嘘つきな大人達の複雑な恋愛のお話…かと思いきや、物語は意外な方向に…。

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【短編集】のどに骨、胸にとげ/さいしょのおはなし 「あの子」

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 仕事帰り、思いがけず空いていたバスの中で手持ち無沙汰になり、スマホでニュースサイトの流し読みをしていると、出身高校のテニス部が今年も全国大会で優勝した事を知った。

 地元を離れて、もうすぐ二十年。出身校どころか、自分の実家や両親がどうなっているのかも知らない。同級生の連絡先だって一つも知らないし、特に会いたいと思う人も居ない。

 けれど時折、ただ一人、ふとした瞬間に思い出す女の子が居る。

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【短編集】のどに骨、胸にとげ/いつつめのおはなし 「同棲日記」 

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四月 一日
 リョータと映画に行った帰り、一緒に住もうと言われた。
 てっきりエイプリルフールだと思って笑って流していたら、本気なのにとスネられた。何で、よりにもよって、こんな大事な話を今日するんだろう。
 まあ、リョータらしいけど。
 うちの返事は、もちろんOK!!
 ゆくゆくは結婚かな。なんて、気が早い?
 でも、リョータの所はパパもママも優しそうな感じの人だし、二人居る妹ちゃん達は齢が離れて

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【短編集】のどに骨、胸にとげ/よっつめのおはなし 「モンスターハウス」

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「性別、知りたいんでしたっけ?」

 まだ年若い担当医は、私のお腹にエコーを当てながら、まるでいたずらっ子のようにわざと焦らして言った。

「前から言ってるじゃないですか、早く知りたいって。女の子希望なんです。もちろん、長男のおかげで男の子の可愛さも充分知ってますから、男の子でも嬉しいですけど」

 性別なんてどっちでもいい、元気に産まれてくれさえすれば。建前としては、そうだ。いや、違う、本音だっ

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【短編集】のどに骨、胸にとげ/みっつめのおはなし 「山口店長」 

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 結婚二周年もまだ迎えていないのに、引っ越しはもう五回目になる。全国規模のチェーン店の、新店舗立ち上げ責任者という特殊な立場の人と結婚したため、転勤続きになる事は最初から覚悟していた。

 律儀に毎回ついて行く必要も無いのだけれど、子どもが出来たら単身赴任一直線になるのだろうからと、せめて最初のうちは二人で一緒に居られる時間を大事にしようと決めたのだ。

 そうは言っても、半年も待たずに次の土地に

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【短編集】のどに骨、胸にとげ/ふたつめのおはなし 「家族」

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 時計の長い針が「12」を指すと、家の二階から目覚ましの音が聞こえて、そしてそれはすぐに消える。「1」になると、今度はお母さんが二階に向かって声をかける。それが「2」になって、「3」になって、お母さんの声がだんだん大きくなっても、空お兄ちゃんは全然起きて来ない。

 だから、お兄ちゃんの部屋まで行って起こすのは、私の毎朝の仕事だ。

「お兄ちゃん、朝だよ。学校に遅刻しちゃうよ」

 私がそう言いな

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『親愛なる子殺しへ』Twitter感想まとめ 2023

『親愛なる子殺しへ』Twitter感想まとめ 2023

 私は普段Twitterでnoteを紹介しているので、そのままTwitterの方で感想をいただく事が多いです。
 しかし、Twitterのリプライは次から次に流れて消えていくので、そちらでいただいた『親愛なる子殺しへ』への感想の一部をこちらに貼る形で残すと共に、皆様にもご紹介させていただきます。
 本来ならいただいたもの全てをご紹介したいところですが、量的な問題もありますのでご了承下さい。
 no

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【短編集】のどに骨、胸にとげ/さいごのおはなし後編 「親愛なる子殺しへ③」

【短編集】のどに骨、胸にとげ/さいごのおはなし後編 「親愛なる子殺しへ③」

 いつから千里さんと話をしなくなったのだろう。

 両親があの町に家を買ったのは、私が幼稚園に入るタイミングに合わせての事だったらしい。だから、私の記憶はほとんどあの家で始まっている。

 幼稚園までは、徒歩ですぐ。坂を下る途中に馬淵家の前を通り、時々そこから千里さんとお母さんが出てくるタイミングと重なった。母親同士が話していくうちに、お互い同じ市の出身で年齢も近いと分かり親しくなっていき、私も千

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【短編集】のどに骨、胸にとげ/さいごのおはなし中編 「親愛なる子殺しへ②」

【短編集】のどに骨、胸にとげ/さいごのおはなし中編 「親愛なる子殺しへ②」

 『世間』という曖昧な定義の界隈で、数多くの母親に一方的に押される、『母親失格』の烙印。

 その烙印を押された者達の中でも、一番の頂点に君臨すると言うべきなのか、それとも最底辺に属すると言うべきなのか。とにかく、とりわけ究極の存在である、子殺しの母へ。

 私は知りたい。あなたと私、何が違って、どこまで同じなのか。

 だから、貴方について考え続ける事を、どうか許して下さい。

 それが私の贖罪

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【短編集】のどに骨、胸にとげ/さいごのおはなし前編 「親愛なる子殺しへ①」

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 第二駐車場から保育園まで、大人の足なら片道四分。幼児連れの場合でも、順調にいけば十分足らず。

 それでは、順調にいかなければどのくらい時間がかかるのか。その答えは、むしろ私が教えて欲しいところだ。

 園庭に隣接した第一駐車場を使用していいのは、ベビークラスと一歳児クラスだけ。それ以外の保護者は、園から離れた第二駐車場を利用する事になっている。田舎出身の私は、この街の駐車事情に未だ馴染めない。

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あいかわ双子は恋が下手・夏 後編

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 見た目が良いというのは、生まれながらに授けられたとんでもないチート能力だろう。

 金持ちの奥さんは美人と相場が決まっているし、男の場合でも顔に自信がある奴とそうで無い奴とでは人生の伸びしろは天と地の差だ。アメリカの裁判では、被告人の見た目の良し悪しが陪審員の心象を大きく左右するとすら言われているらしい。

 貧乳美少女の相河朱里は、俺が今までの人生で出会った三次元の女の子の中で、頭一つ抜けてい

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あいかわ双子は恋が下手・夏 中編

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 俺はその日、名も知らないお姉さんのおっぱいを見ていた。

 長年のコンプレックスであるニキビ治療をするため近所のジジイがやっている皮膚科の門を叩きかけた俺は、どうせ通学用の定期があるのだからと思い直し、駅二つ先にある評判の良いスキンクリニックに通い始めた。

 もうすぐ夏休みというある土曜日、受診を終えて帰りの電車に乗り込むとちらほらと空席はあったが、俺はどうせ二駅だからと自分に言い訳をしながら

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あいかわ双子は恋が下手・夏 前編

あいかわ双子は恋が下手・夏 前編


このお話はこちらの続編です↓

 チィチィーと、小さく可愛らしいニイニイ蝉の鳴き声には、我慢が出来た。

 ジージジーとやかましいアブラ蝉の鳴き声に、思わず意識が逸れる。

 そして、チュイーン・ギリギリギリギリ…という聞き慣れない機械音を放つ虫の音の登場に、クラス委員の鈴木がボソリと呟いた。

「お前っ…本当に虫なのかよ…。」

 その言葉に、鈴木の両側で座禅を組んでいた女子二人が吹き出し、釣

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眠りの森の植木屋さん 第四話「答え合わせ」

眠りの森の植木屋さん 第四話「答え合わせ」

 小学生男子にありがちな夢物語だと思われるだろうが、卒業文集の『将来の夢』の寄せ書きにはJリーガーと書いた。

 地元のジュニアチームで向かうところ敵無しだった俺は、強豪クラブのジュニアユース(中学生部門)に合格し、いつか自分はサッカー選手になるのだと本気で信じていた。けれど、ジュニアユースの二年目、早くも気付いたのだ。ジュニアの頃に敵無しだったのは単に周りの子どもより体格に恵まれていたからで、ど

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【短編小説】私の恋人

【短編小説】私の恋人

 真っ暗な部屋の中、唯一明かりを放っているのは、薄ピンク色のノートパソコン。去年の恋人の誕生日に、私が贈ったものだ。

 五歳年上の恋人は、本当は可愛いものが大好きなのに自分で買ったりするのは気恥ずかしいらしく、私がこの色を選んで贈った時には苦笑いしていたくせに、今ではすっかりお気に入りだ。マウスやプリンターまで、同じ色で揃えている。

 私は今、そのノートパソコンの画面を無断で覗き込み、そこに表

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眠りの森の植木屋さん 第三話「茂みの中の迷子達」

眠りの森の植木屋さん 第三話「茂みの中の迷子達」

 ああ、また思考が逸れた。

 私は財布を差し出しながら、焼き肉屋であずみちゃんに言われた言葉を思い出していた。

「花。白髪、一本ピーンと立ってるよ。」

 三十六にもなれば、自分の肉体に老化を感じる事も少なく無い。初めて白髪が生えたのはここ一年程の話で、慌てて周囲に聞いてみたらむしろ私は遅い方らしかった。

 つまり、たかが一本だけ白髪が立っているくらい優秀な部類だし、そしてそれは普通なら気付

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眠りの森の植木屋さん 第二話「落葉樹(らくようじゅ)の王子様」

 植木屋の繁忙期は、大きく分けて二回。

 一つは、梅雨明けからお盆前。雨で栄養を蓄えた草木が一気に成長する季節で、そしてお盆の来客に備えた需要が多い時期だ。

 もう一つは、秋から年末にかけて。次々と枯れ葉をまき散らす落葉樹の剪定と、正月に向けての依頼、それらをこの短期間に集中してこなす事になる。

 もちろん請け負っている仕事はそれぞれなので一括りには出来無いが、少なくとも兄弟二人だけのこの小

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