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穂村弘さん「現代短歌ノート二冊目」に短歌を引用していただきました。
『群像』の2023年11月号(リンクは文末)、穂村弘さんの連載する「現代短歌ノート二冊目 #037 何故、どうして・その2」中の一首に、以下の歌を取り上げていただきました…
『かりん』2024年2月号掲載作品
平日の続きにむかえた誕生日 準備をしない年越しのよう
さくさくと紅いベリーのタルト食み話しはじめる姪っ子のこと
アールグレイ香らせながら頷いて瞳は飾らずまっすぐ笑う
コロナ禍をこえて六年ぶりの時間(とき)私の決めたこれからのこと
気が付けばガラス越しにさす陽は強く席を空ければ待つ人もいて
じゃあまたと自転車を押す明日からはお互い静かに自分を生きる
『かりん』2023年11月号掲載作品
受け取った電話はすこし遠い声久しい響きに時間が色づく
交差点 右折できずに回り道窓の景色は遠くしずかに
取り壊しすんだ空き地の空が見えかすかに青みが深くなってる
クーラーの結露かなしく見上げれば東京メトロの想い出ぽとり
テラスから眺めたオフィスの通行人横顔だけを魚のように
金曜の夜美術館は混んでいて ひそかな熱を集める宇宙
『かりん』2023年10月号掲載作品
大きめの消しゴムがよく消してゆく書き込みされた本の傷跡
差し出してお気持ちだけでとかわされる宴会芸のような瞬間
使えないちから此処では持て余しやっぱり咲ける場所を求める
世の中に多くの色があるなかでいっときだけでも光らせたい色
映し合う二重の虹の大きくて淡いひかりは夢の広さで
パシャパシャと顔に浴びせる雪肌精ほのかに甘く夏がはじまる
『かりん』2023年9月号掲載作品
新緑の乾いた風が吹き込んで夕焼け色の薔薇の花咲く
次々と要らなくなった本を抜くこころの窓に風が舞い込む
濃紺の明けてゆく街見やりつつ あなたがいたらと思うまどろみ
見おろしたビルの谷間を渡ってく薄墨色の鳥の淋しさ
あの頃は彼が一番好きだった それより好きな人を待ちのぞんで
ときどきは一冊もない部屋で寝るそういう自分が「本」かもしれない
『かりん』2023年7月号掲載作品
実際は動かないままバーチャルに吸い上げられた無邪気なこころ
ひとさじの残った夢は掬われてヨーグルト色 朝のひかりに
忙しさ惑星直列レベルだと書いてきた友 ボロネーゼ食む
訊ねたいことはあるけど今はまだ林檎並べるような週末
望まずに貴方に向かうまなざしが私の軸を取り戻すとき