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生活すること

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生きるって何だろう?それは生活することなのではないだろうか────30才で伊東市にある海の街へ移住して感じたことを書いています。
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#新生活をたのしく

不便さの中にしか存在しない美しさと暮らす

不便さの中にしか存在しない美しさと暮らす

先輩移住者として、伊東市が主催する「伊東暮らし移住相談ツアー」へ同行した。先輩と名乗れるほど長く住んでいるわけではないけれど、まだ新鮮さが残っている視点での良さなら伝えられるかもしれない。移住にはたくさんの不安が付き纏う。仕事も人間関係も生活のルーティーンも変わり、人生そのものが変わると言っても過言ではない。現状を変えるためには、移住は手っ取り早いだろう。だから変わることを前提にして、それ自体を楽

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移り住むこと

移り住むこと

YouTubeを見ていたら、移住失敗談のコンテンツが上がってきた。最近では何かと話題に上がる地方移住。毎度、大きく取り上げられるのは悪い話ばかりだ。失敗談の典型例としては、近隣住民とのトラブルや、参加しなければならない催し物の多さ、それほど安くない物価、交通の便の悪さ、医療サービスの不充分さ、虫が多いなど挙げればキリがない。私も物件を探しまくっていた当時は、その街の住み心地が書かれた口コミを読んで

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何もない日が美しいと思えるように

何もない日が美しいと思えるように

コーヒーを飲みながら文章を書くいつもの朝。部屋は少し散らかっている。額装をしているため、大量の額がリビングを占拠中なのだ。展示会の準備もいよいよ大詰め。でもそのわりにはだいぶのんびりしている。いつもならもっと切羽詰まって必死に準備をしているのに、今日はどのタイミングで海を見に行こうかなどと考えている。準備に必要なものを買いに行かなければならないから、午前中に海へ行きがてら買い物することにした。

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心地いいを見つけていくこと

心地いいを見つけていくこと

東京から帰ってきて、まず最初に気にするのが観葉植物たちだ。毎日水をあげなくてもいいものだけれど、最近は暑くなってきたから干からびていないか心配だった。でも全く元気そうな様子で一安心し、風通しをよくするために窓を開けた。風で葉っぱが揺れて、なんだか気持ちよさそう。見ているだけで心が安らぐ。

骨董市で買った秤を包み紙から出した。1500円だったのをさらにおまけしてもらって1000円に。ずっと秤がほし

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小さな交差点

小さな交差点

道端でよく話しかけられるようになった。それは私が変わったからなのか、寄り道ばかりしているからなのか、この街で若者が珍しいからなのか、今までもあったのに気にしていなかっただけなのか、色んな理由があるのだろう。そんなたまたまその場に居合わせただけの出会いから、私はまるで突然もらうプレゼントのように嬉しさを感じるようになった。

私はパンを買って海岸で食べるのをよくやっている。この日もそうしようとパン屋

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繋がりにくくなった現代で

繋がりにくくなった現代で

自宅へ帰ってきた。鳥たちの鳴き声が無限に聞こえてくる。この朝に耳が慣れてしまっているから、他所で迎える朝は静かに思える。鳥の鳴き声はなかなかのボリュームだけど、自然と身体の中へ入ってきて全く嫌な感じはしない。最近窓を開けると会えるようになった猫たちにもご挨拶。

洗濯物を干していると、お隣さんちの屋根の上に猫がたくさんいるのが見えた。よく見ると子猫も3匹いて、みゃーみゃー鳴いている。ご近所さんが言

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自己満足な世界の中で

自己満足な世界の中で

私は部屋のインテリアにかなりのこだわりを持つようになった。お皿一枚、調理器具一つ、やかん一個を選ぶのに時間をかける。気に入った物が見つからなかった時はお店を何軒も梯子したり、メルカリにずっと張り付いたりしていた。だから私とその物の間にはそれぞれストーリーがあり、思入れが生まれて、使う度に毎回いいなあと思えている。キャリーバッグ一つあれば部屋なんていらないとか言っていた人間なのに、極端な変わりようで

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日常の視点を変えてみると

日常の視点を変えてみると

この街へ来て5ヶ月が経った。生活のルーティーンもできてきて、街へ私が馴染み始めていると感じる。この暮らしは老後の夢だったから、叶えてしまったら落ち着いてしまうんじゃないかって心配だったけど、実はかなり忙しい毎日を送っている。でも前より時間はゆっくり流れていて、一つ一つの出来事が丁寧に過ぎ去っていく。忙しいのにゆっくり流れて行くのは、矛盾しているように聞こえるだろう。これは多分、日々の捉え方が変わっ

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戻ってきた五感

戻ってきた五感

朝の5時前にふと目が覚めた。鳥たちの鳴き声が聞こえる。もう陽が昇るのか。鳥の鳴き声をBGMに二度寝した。泊まりに来る人たち皆んなが、鳥の鳴き声がすごいと言う。私は毎日聴いているから当たり前になりつつあるけれど、確かに最初の頃はアマゾンにでも引っ越してきたのかと思った。

ホントこんな感じに聞こえる。

この文章を書いているリビングからは、山に生えている木々が見える。窓の外が緑だなあと気付いたのは最

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ご近所さんたち

ご近所さんたち

海の街へ来て4ヶ月が経った。生活のルーティーンができてきて、大体の場所は地図を見なくても行けるようになり、新しい道を散歩する余裕もできてきた。ご近所さんたちとお話しすることも増えてきて、この街での暮らしを実感している。ある日、この地区での集まりに誘われた。コロナ禍に入ってからはしばらくやっておらず久しぶりに再開するとのことで、カラオケをしたりなんやかんやするらしい。カラオケ…。私はそこで少し身構え

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伝達者として

伝達者として

この街へ来て、綺麗だなあとか、美しいなあと思うことが増えた。それは大自然と、古い街並みが残っているこの場所が好きだからだろう。だけど、どうにもそれだけではないらしい。以前までの私は自然を見ても、他の古い街並みを見ても、さほど何かを感じることはなかった。いいなあとは思うけれど、感情が大きく揺さぶられて作品を作りたくなる衝動までには繋がらない。見ているようで、心は通り過ぎていた。今ではもう何千回と見て

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ただの散歩

ただの散歩

出汁に使うカツオがなくなってしまった。以前までは粉末を入れるだけのスティックタイプを使っていたのだけど、カツオで出汁を取るようになってからその美味しさを知り、もう戻れなくなってしまった。スーパーは高いから、業務スーパーへ買いに行きがてらサイクリングすることに。業務スーパーまでは自転車で約20分。都会だと遠いと感じるけど、ここだともはや近所の感覚。愛車のクロスバイクに乗って、家の前の急な坂道を下る。

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豊かさについて

豊かさについて

今日も朝起きてから、真っ先にコーヒーを淹れる。マグカップはRustというお店で一目惚れしたもの。色や持った時の肌触りがよくて、少し高級感がある。だけど部屋のどこに置いても馴染み、かつ優美に存在する。お値段は2000円くらい。誰かへのプレゼントとして買うには相場で、自分用に買うには少し高く感じた。ずっと自分のグッズとして作ったマグカップを使っていたのもある。そもそも自分用のマグカップを買うという概念

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自然と暮らす

自然と暮らす

大人になってから自然に触れる機会が減った。たまに山登りをしたり、海を見に行ったりすることはあっても、生活の隣に自然がある感じはしない。近くにあっても、もっと遠く、なんなら遠ざけていた気もする。子供の頃は蝉や毛虫を素手で鷲掴みして、草履を脱ぎ捨て裸足で鬼ごっこしていたのに、大人になってからは部屋へ虫が入ってくるのを嫌い、コンクリートで固められた日当たりの悪い部屋にずっとこもっていた。人工物に対して憧

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