見出し画像

戻ってきた五感

朝の5時前にふと目が覚めた。鳥たちの鳴き声が聞こえる。もう陽が昇るのか。鳥の鳴き声をBGMに二度寝した。泊まりに来る人たち皆んなが、鳥の鳴き声がすごいと言う。私は毎日聴いているから当たり前になりつつあるけれど、確かに最初の頃はアマゾンにでも引っ越してきたのかと思った。

ホントこんな感じに聞こえる。

この文章を書いているリビングからは、山に生えている木々が見える。窓の外が緑だなあと気付いたのは最近だから、きっと新緑が芽吹き始めたのだろう。近所のおばあちゃんが家の裏に生えている木々を指差しながら、桜が咲き始めたよとか、藤の花があそこにあるよと教えてくれる。その時間がとても好きだ。山から散ってきた桜の花びらが、窓の外をヒラヒラと舞っている光景は美しかったなあ。この街の人たちは巡ってくる季節にただ順応しているのではなく、楽しんでいるように見える。本人たちは当たり前すぎて無意識なのだろうけど、外から来た私からしたら会話や生活の節々に感じる。

ここは違う世界なんじゃないかって思うことがある。前までは聞こえていなかった音が、見えていなかった景色が突然出現し始めたからだ。これは単純に住む場所が変わったという意味ではない。確かに前住んでいた場所で鳥の鳴き声はこんなに聞こえなかったし、山もなかったけれど、麻痺していたあらゆる感覚が回帰していると感じる。部屋へ差し込む陽の光、雨に濡れる街の色、風に乗って時折り香る海の潮、朝一に獲れた魚の風味、水々しい野菜をまな板で切る音。生活を通して知る情報が全身へと伝わって、また自然へと返っていく循環の中で、自分はこの世界のほんの一部なのだと感じられて安心する。言葉では表現しきれないのだけど、今まではずっとモヤのようにかかっていたフィルターが吹っ飛んでしまったみたい。自然に近い場所で暮らすと五感が戻ってくるらしいのだけど、本当にそうだと思う。今までは何も感じていなかったとさえ思うくらい、今の方が遥かに情報量が多い。以前までは情報量が多いのではなく、刺激が強すぎて処理しきれずにフィルターがかかってしまい、大量の情報を流し込まないと通り抜けられず自分まで届かなくなっていた。だから感じていたのは、そのフィルターを通り抜けられた強すぎる刺激だけだったのだろう。世界が変わったのではなく、私が変わったのだ。でも私は私でしかこの世界を認識できないから、世界が変わったように感じる。この新しい世界を、今日もまた感じて作品にしていきたい。

この記事が参加している募集

#新生活をたのしく

47,953件

#この街がすき

43,736件

頂いたサポートは活動のために大切に使わせていただきます。そしてまた新しい何かをお届けします!