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私が好きな詩

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2021年1月の記事一覧

夕日が美しいと感じるのは

夕日が美しいと感じるのは

菜の花や月は東に日は西に

与謝蕪村

与謝蕪村は大阪の桜の名所、毛馬閘門(けまこうもん)の辺りの人らしい。明治のころ、淀川の洪水に悩む人々のために作られた近代的な水利施設だ。かつて、大阪城の北のこのあたりは農村だった。

蕪村はそこでちょっと裕福な農家とその女中の間に生まれたらしい。だが、母が亡くなると大阪の家を出て、一人で秩序からはずれて俳諧師として生きた。

先日、橋本治の人はなぜ「美しい」

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笑って過ごそう

笑って過ごそう

紅梅や 秘蔵の娘 猫の恋

正岡子規

 正岡子規が好きです。

 わざわざ、小学校の時、「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」が確かめたくて法隆寺に行きました。図書館にあった全集にこの俳句につながる随筆がありました。口減らしにまわりの寺で僧侶になった少年がめそめそと泣いている風景を描写したものでした。まだ、法隆寺のまわりには少年が居そうな刈り取り終わった、広い田んぼが残っていました。明朗で優しい悲しみ。

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夜明けの太陽と月

夜明けの太陽と月

 東の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ
万葉集
柿本人麻呂

 東の方から夜明けの赤みがさしている。そして後ろを見るとに月が沈む様子が見えるっていう歌だ。今は身近には見れない壮大な風景だ。見てみたいなとしんとした気持ちになる。

 この歌はながい七五調が続く長歌の後に続く。なんでも、故天武天皇の孫である文武天皇が祖母である持統天皇と狩りにいったときの始まりを寿ぐために歌われたらしい。

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みんなの歌からひとりのみんなの歌

みんなの歌からひとりのみんなの歌

春の苑 紅にほふ 桃の花 したでる道に 出で立つ乙女
万葉集
大伴家持
 万葉集では、大友家持が好きだというのはこっぱはずかしい感じがしていた。ちょこっと、かじっているだけだし。

 万葉集はまだ、社会が初々しいころの初めての歌集で古代からの民謡、防人、天皇、いろんな立場の人々の歌が集められている。生活の中に歌がある。そして、なにかしらの祈り、思いをあらわしてように思う。
 

 その中でいろんな

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すぎし日は幻 春の夢

すぎし日は幻 春の夢

津の国の 難波の春は 夢なれや 葦の枯葉に風渡るなり 

新古今和歌集

西行

 西行の歌で有名なもののひとつです。
 大阪出身の私としては、淀川河岸の葦は、元の湿地を開発したしめりけのある故郷の原風景です。
 そうか平安時代でも大阪は葦ある土地としてイメージされてたんだな。それと共に思い出したのは豊臣秀吉の辞世の和歌です。

露と落ち  露と消えにし  我が身かな  なにわのことも  夢のまた

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死と共に生き、そして生き抜く

死と共に生き、そして生き抜く

年たけて また越ゆべしと 思ひきやいのちなりけり 小夜の中山
新古今和歌集
西行

白洲正子の本「西行」を手にとった。そのとき、平清盛と同じ時代を生きた歌人、西行が唯一歌論を語ったのは明恵だったと知った。
中学生のころ新聞で同じ年ごろで「心朽ちたり」と墓場で自殺をはかったお坊様を知った。私も性に目覚めてからどんどん自分がコントロールできない混沌にとまどっていたけど、昔から悩んでいる人がいるんだと初

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私が好きな詩6

私が好きな詩6

春よ来い
お正月と云えば
炬燵を囲んで
お雑煮を食べながら
歌留多を していたものです

今年は一人ぼっちで
年を迎えたんです
除夜の鐘が寂しすぎ
耳を押えてました

アルバム「はっぴぃえんど」
「春よ来い」

作詞 松本隆
作曲 大瀧詠一

 今回は歌詞です。記憶に残る歌なら詩なんだと思う。

 YMOがはやっていたのとき大瀧詠一と細野晴臣が結成した伝説のバンド「はっぴえんど」があったと知り、手

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私が好きな詩4

私が好きな詩4

小岩井農場

わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりた
そのために雲がぎらつとひかつたくらゐだ
けれどももつとはやいひとはある
化学の並川さんによく肖(に)たひとだ
あのオリーブのせびろなどは
そつくりおとなしい農学士だ
さつき盛岡のていしやばでも
たしかにわたくしはさうおもつてゐた

春と修羅
宮沢賢治

詩集「春と修羅」のなかの「小岩井農場」の始まり。小岩井農場を今はない軽便鉄道で訪問したとき

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私が好きな詩3

私が好きな詩3

大江山 いく野の道の 遠ければ
まだふみも見ず 天橋立
小式部内侍

年下のふたりの親王の恋愛を描いた「和泉式部日記」で有名な和泉式部の娘である小式部内侍の和歌。これも百人一首のひとつ。

心に残っているのは、昔、まんが日本昔話というアニメの中でこの歌を詠んだいきさつが描かれていたからだと思う。

恋多き女性である和泉式部が袴垂という盗賊をやっつけたされる武勇のひと藤原保昌と再婚し、丹波の国府の赴

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私が好きな詩2

私が好きな詩2

春すぎて夏来るらし白妙の衣ほしたり天の香久山
                        万葉集
                        持統天皇

この歌は高校で覚えさせられた百人一首の二番目だったから今でも覚えてるというのもあるけど、大好きな詩だ。

「ほしたり」と言い切っているの歯切れがよくっていいなって思う。
夏が好きだ。田舎の海辺の砂浜でぼんやり見た青空が好きだ。

梅雨明け

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私が好きな詩1「シカゴ詩集」

私が好きな詩1「シカゴ詩集」

世界のための豚屠殺者

機具製作者、小麦の積上げ手
鉄道の賭博師、全国の貨物取扱い人
がみがみ怒鳴る、ガラガラ声の、喧嘩早い
でっかい肩の都市
(安藤一郎訳、岩波文庫)
シカゴ詩集から
カール・サンドバーグ


初めての詩集は新潮文庫の「カール・サンドバーグ詩集」だった。本屋さんの棚の様子まで覚えている。読んでみると近所の工場のトタンの壁から聞こえてくる機械音が浮かんだ。この抜粋は20世紀初

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