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好きな詩とか(2023)

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#詩

砂時計

砂時計

どうしても 落ちていくしかない
どれだけ上に留まっていたいと願っても
砂は落ち続けている
今も落ち続けている

やがて すべての砂が下に落ちきった時
誰かがまたひっくり返す
それは その直後かもしれないし
数万年後かもしれない

最初に落ちた砂を見ていた砂は
次の瞬間 落ちていった

みんな落ちきったら
またひっくり返って
最初の砂から落ちていく

そんな砂の一握が
念仏を聞いて仏になるという

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詩人

詩人

見上げれば
白い月
満開に広がる
桜の大木

遠くの大銀山に
映える桜

詩人は見ている

大銀山から
届く冷たい風は
桜を揺らす
桜吹雪になる

静かな大銀山の
流れのままに
桜吹雪

白い月へも
花びらは吹く

そんな景色を
いま詩人は
息を飲み
言葉にしようとしている

【詩】顕現

存在の
底方にひらく


あらはれの

穴より来たる風は
形となりて

振る舞へば

現世は実に
神世なり

静謐の尊び
空白の敬ひ

(なにも無い極みにひとは急須より落ちる最後のしづくを待つた)

此処に
あれかし

どこに行けば良いですか

どこに行けば良いですか

精一杯に生きてきた

怠惰と焦燥の二枚舌で
手ぶらのままの指先は
巨大な見えざる掌に
焦らされながら握り潰される

精一杯に追いかけた

あれが私の背中であろうと
時には無謀な賭けに出て
スリルは依存の脱力となり
深夜の地面に幾度も接吻をする

精一杯に逃げてきた

決して弱みを悟らせはしない
おどける飲み屋のカウンターで
相手なんて誰だって構わない
知らない方が救われるのだから

精一杯になりた

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沢の水鏡

沢の水鏡

水面に映る
私の顔は
どこか
歪んでいた

悲しい心が
水面に
見抜かれている

それでも
沢の響きは
私に優しいから

もっと自分に
優しく
生きよう

そう願い
水面に映る私を
すくい上げて
顔を洗う

そしたら
少し違った顔が
水面に見えた

少年のころに見た
私のよう

【詩】始発にて

【詩】始発にて

結露した車窓
心底の神路

指一本の

道を行く
未知を行く

開け

地獄の底の神域の
あるいは天の宮柱

見よ
雨の切先
天の后

蓮の花が咲いてゐる

【詩】新緑

【詩】新緑

わたくしの
否!

個の
否!

この
いのち

ひろがりの


そう

この
新緑
響きあつて
ゐる

生の世界

ここに立つて
初めて
生きてゐる

ポローニアスの娘

ポローニアスの娘

まだ誰にも踏まれていない1日を
彼女は無機質に歩く

けれども白線の上をゆくとき
見えない顔の下側が
朝鳥の歌声のように
愛くるしく揺れているように思えた

ちらと揺れる長いまつ毛の先に
光のかけらが射し込んで
目の下の薄く白い肌を照らす

白線は一層白んで
いよいよ谷底に落とさんとするけれど
そんなのどうだっていい事のように
彼女の脚は嬉しげに
転がるのをやめない

彼女の愁いが何なのか
きっと

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流れる世界

流れる世界

なあ、知っているだろうが
誰も言葉なんて見ちゃいない
知らない音で溢れる世界で
ただみんな話したがっているだけなんだ

生きていく必要が無ければ
君を愛せたかもしれない

夢に縋って
まだ現実は見なくていいだろう

鉛筆で腕を突き刺すような
そんな気持ちを持っていて
共感と恥が流れていく

言葉が溢れかえった世界で
誰も何も見えなくなる
風の音のほうが雄弁かもしれない

静けさを愛せたことはあるだ

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輝きの密度

輝きの密度

ただ

静かに

愛である

果てしのない肯定が

存在という場の

輝きの密度を

増していく
  

それは

繊細で美しく

しなやかで強い

決して

人を威圧することのない

柔らかな力
 
 
 

縁

見つめ合う瞳の奥に
瞬く光を見るのなら
それはご縁の始まり

その手と手を合わせ
温かさが沁みるなら
それは稀有の出会い

Alter Ego

Alter Ego

愛が反逆になった夜
雲が低く横たわり
アスファルトは 太陽なのか
月なのか 全然わからず
海になびく白い憂鬱を
永遠だけが抱きしめている

反逆が愛になった夜
ひとりの空は目指すところなく
天地が分かたれたことを知らない
死と虚構の花弁が
生と真実の萼に包まれている
だが、調和していない!

純粋さの縦糸が
あの夜を覆い尽くした
散り散りに裂けてしまって
それから
生涯を共に行く躾を得る

友よ、

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くろい無花果

波動
声の素子
米を研ぐ手の冷たさ
ガラスは斑に曇っていた
夢中で汚していたから
その啖呵は円です
やさしいきみが
知らない
身体

純粋
よい誤読
みずみずしい唇
あらゆる殺伐を前に、
芳醇をふかめる詩情
音(は)ずれる
ちいさな犠牲
生まれた
憶えが
ない

絶叫
関節をもつ
動物はよろこんで
光になりたがっている

見えないとでも?
影は永眠する
夜明け前に
透過した
果肉


という不足

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