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#連載小説
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第72話-梅雨が来た〜サタデー瑞穂フィーバー
6月11日土曜日。まだ世間に梅雨入り宣言は出されておらず、空は快晴だった。
2年前に紗霧に告白した日付が迫っている。
貴志はペダルを漕ぐ足にいっそう力を入れた。目の前の急坂に意識を集中し、自転車と一つになる。息は上がり、脈拍もフル回転で時を刻む。
やがて峠に至り、景色が開けてくる。それでも足は止めない。この長い坂を下って帰らなければならない。
大きく深呼吸して、貴志は流れる景色を堪能した
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第71話-梅雨が来た〜告白…そして
1年1組の教室は音のない世界だった。しんと静まり返った放課後の教室に、今は貴志と紗霧の二人だけ。
止まったような時の中で、その流れを感じさせてくれるのは自らの呼吸と鼓動のみ。鼓動は痛いくらいに早い。呼吸は荒く、何度も酸素を求めて息を吸い込むのに、まるで高い山の上にでもいるかのように苦しくて、満たされない。
音のない教室で、自分の呼吸と鼓動だけが、やけにうるさく感じる。
貴志と紗霧はお互いの
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第70話-梅雨が来た〜胸騒ぎの放課後
貴志が登校すると、1年1組の教室にはすでに裕が待っていた。
「放課後、自習するんだろ?オレも付き合うよ」
今日貴志は坂木紗霧に告白するつもりでいる。裕には昨夜の間にそう告げていた。
まさか告白に立ち会おうというわけでもあるまいに…親友の意図が掴めずに貴志は困惑していた。
「貴志が思ってる以上に、女子たちがお前の想い人を勘ぐってるんだ。
好意が攻撃に変わると怖いから、あからさまに坂木さんを待
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第69話-梅雨が来た〜それぞれの夜
今日は木曜日。北村貴志は自室で一人勉強していた。内科医の母が夕食を作ってくれるのは午後診療のない木曜日だけだった。
夕食の準備をしなくても良いことよりも、母の作った料理が食べられることが嬉しかった。貴志と言えど中学1年生。まだまだ母の味は恋しいものだった。
「貴志、母さんには言うなよ?」
PCの画面越しに父が訴えかけてくる。言うとか言わないではない。
「言えないよ」
リモート通話で父から告
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第67話-梅雨が来た〜少女たちの闘い
梅雨が近い。日に日に気温が上がり、蒸されるような湿気がシャツを、スカートを肌に貼り付けてくる。厳密に言えば如月中学校の制服は袴スタイルのパンツなのでスカートに見えるだけなのだが。
坂木紗霧は学校近くの緑地公園でベンチに腰掛け、本を読んでいた。
木漏れ日の光量は読書にちょうど良く、暑さも軽減してくれている。湿気とは裏腹に風は爽やかだった。
もう半月もしたら読書を外でするのは厳しくなるだろう。
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第65話-梅雨が来た〜理美と裕
修学旅行から帰って以来、貴志は元気がない。瑞穂への態度が軟化しているのは、貴志が心を開き始めたと言うよりも…。
無愛想、毒舌、冷酷無比の仮面を維持するだけの集中力がなくなっている気がする。
今までは不信や憎しみ、そして後悔が彼を支えていた。しかし修学旅行を境に貴志から感じるのは、虚無と寂しさ。理美は貴志を目で追うたびに逡巡していた。
実力テストの結果は上々だった。公立高校では一番の進学校
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第64話-梅雨が来た〜瑞穂はめっちゃ頑張った
貴志の地獄のような課題を、 瑞穂は健気にもこなし続けていた。
貴志は普段の瑞穂の表情や言葉尻の中から、精神状態を推察し、けして限界は超えさせ無いように課題の量を調整している。
漢字に関しては、中学必修範囲どころか漢検準2級レベルまで読み書きできるようになった。英単語も高校生レベルまで進めている。
暗記の課題に関しては、社会と理科に移行しても問題ない様子だった。
要した時間は2週間。6月の
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第62話-夏が来る〜貴志と紗霧の2年前②
北村貴志の朝は早い。4時半に起きて、1時間ほど自転車トレーニングをしたら、母と弟の朝食を準備する。コーヒーは豆から中細に手挽きして、ハンドドリップでゆっくりと抽出する。この至福の時を終えると、洗い物を済ませてさっさと登校してしまう。
今はそのための準備時間。心をコーヒーでしっかりと整えていく。
昨日は良いことがあったので、今日はマイルドなブレンドにしてみる。甘めの豆を中心に酸味が薄くなるよう
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第61話-夏が来る〜紗霧の2年前
住宅地の明かりがかき消した星空を窓から眺めながら、紗霧は炭酸水を飲み干した。
炭酸の刺激が駆け抜けた喉から、恍惚のため息が流れるように吐き出された。右肘をそっと撫でる。つい数時間前、北村貴志に触れそうになった右肘を。
そして次は落胆のため息をついた。
国語の解釈を教えて欲しい。そんな貴志のお願い事を今日果たしてしまった。
貴志があの講義で満足してしまえば、もう彼に頼ってもらうことはなくな
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第60話-夏が来る〜二人の協定
親友と好きな人が同じだった。そんな時、どうするのが正解なのだろう。
恋を取るのか、それとも友情を取るのか。そもそも自分でそれを選ぶのは傲慢なのかも知れない。
「協定を結ぼうぜ」
裕は貴志をまっすぐ見つめて、そう言った。貴志は固唾を飲んで、協定の詳細が語られるのを待った。
友情と初恋を天秤にかけているなら殴るぞ。裕の言葉が重い。
でも確かに裕の言うとおりだ。大切な想いを天秤にかけること
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第59話-夏が来る〜貴志と裕の2年前
坂木紗霧の短い授業を終えて、貴志は大満足だった。国語の理解が進んだし、何よりいつもの机の間隔よりも近くに紗霧がいたのだ。すぐそばに、いたのだ。
裕にバレないように、余韻にひたる。
裕は隣で、紗霧が雑談交じりに話していたポイントをマーカーで強調している。その姿を貴志は片眉を上げて観察していた。
俺が教えても、メモひとつ取らないくせに。そう思いつつも、裕が教えたことをちゃんと覚えてることは