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2024年1月の記事一覧

散開

血と鉄の雨が
降り止んだなら
戦場で踊らないか
バシールみたいに
ここにいる理由なんて
誰も考えない
ただ敵に向けて
機関銃を撃ち捲るだけ
気違いみたいに
声を上げながら
照明弾に晒された
仲間の體が吹き飛んだなら
迫撃砲を撃ち返す
さよならを告げるより早く

硝子の心は砕けない

イタリア製の
革張り椅子に腰掛ける
ゴッドファーザー
幾つもの裏切りに合い
死を運ぶ天使に
背中まで抱かれても
彼の硝子の心は
砕けなかった
彼が信仰を捨てた時
その魂も死んだのだから
彼は何も感じやしない
見えない絶望に
延々と使役するだけ
沈黙を続ける
か弱き羊の群れの様に

カトリック・グラマー

Ⅿ87の六角ボルトを
捩じ切るブルーワーカー
セクシーな修道服を着て
夜の街に立つカトリック
貴方の様に為りたくないと
憎んだ父親の様に変わる
政治家の隠し子
世界の終わりを歌いながら
オレンジマフィンを焼く
グラマーなあの娘
俺は全てを愛している
心から本当にさ

ドクター・カリガリ

白衣を着込んだ
医者に神を見い出す
病める人達は
己の意志でしか
善悪を正せない
そしてまた違う神を求め
新しい医者を探す
夢遊病の様に
何かに取り付かれて

憐れみのエンドロール

校内の音楽室で
ピアノを弾く少年
月光が鳴り響く中を
ハーフライフルの音が
不協和音の様に
重なり続けて
生徒達は倒れ逝く
悲鳴も懇願も
大人に届く事など無く
憐れみのエンドロールが
何処からか溢れ零れた

傷付け合う獣

夢の帳が降りた頃
獣達はただ傷付け合う
菖蒲の花が枯れても
その歯牙が崩れようとも
生き残った者にしか
神は振り向かないと
生まれる前から
體で知っていたから
今宵も何処かで
獣達は傷付け合う
無常の森に優しく抱かれて

リキュール

メロンミルクを
口から零して
貴方は笑う
窓を眺めながら
私は誰の物でもないのよ
呪文の様に
何度も呟いて
メロンミルクを口にする
さよならなんだと
僕は思って
バーのマスターに
支払いを済ませ
独り店を出た
外は吹雪きで
何もかもが凍り付き
時間すら
止まっていたんだ

サーカスの子供達

幾ら體を揺らしても
心は棚引かずに
枯れて逝くだけなんだ
サーカスの子供達みたいに
客を呼べなければ
捨てられるだけ
皆がそうだろう
世界は冷血なのだから
見返りを求めてはいけない
例え理不尽だったとしても
無理やり飲み込んで
知らない振りをするのさ
そうすればほら
巧くやれる筈だから

溺れる勇魚

神楽火が風にそよぐ季節
深海で溺れる勇魚
誰にも気付かれる事無く
少しだけ季節は廻り
僕は貴方を忘れる
もっと生きやすいよに
その声だけが
安い體に染み付いて
未だに剥がせやしない
それは深い傷口のまま
僕を蝕み続けるだろう
呪詛の様に重く暗く

何者にも為れない者達へ

私達は必ず
老いさらばえて逝く
何かに為れても
何者にも為れなくても
何にも成さずに
ただ指を咥えて
私達は生き過ぎた
今報いを受けるならば
誰にこの心を打ち明けよう
そんな相手など
探せる訳も無いまま
私は今日も彷徨う
生命と言う名の檻を

ノーベアハンター

戦場から帰還した兵士は
二度と熊狩りには戻れない
獣は地雷も手榴弾も
機関銃すら撃たないのだから
人が考えた最新で
最高の悪意をぶつけ合う
それが戦争の背骨だと
徴兵されるまで
彼は知らなかった
そして知ってしまった
地獄の中で生き残った者は
地獄の淵を彷徨う事しか
叶わないのだと

脆弱な時計

左手に嵌めた
脆弱な時計が
退屈な朝を告げる
隙も無い程正確に
やりたくも無い仕事へ
皆が同じ顔をして
鉄の形をした箱に
無理やり押し込まれ
それぞれの職場へ向かう
夢遊病の様に
見えない糸に操られて