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【短編】有終の美の色

「花買ってきて、その花びらが落ち切るまでなら一緒にいてあげてもいいよって言ったら……、あいつ、何買ってきたと思う?」

「ん?ガーベラとか?」

「ううん……。造花買ってきやがったんだよ。」

彼氏に同棲をせがまれたミッちゃん。アイスコーヒーに刺さっているストローをクルクル回す。

「何でよ。いいじゃん。一生一緒にいようってことじゃん。」

彼氏が喉から手が出るほど欲しい私にとって、羨ましくてたまらない。

「あいつ、終わりがある良さを分かってない。」

氷が溶けたアイスコーヒーを一口飲んだミッちゃんは、先程より熱い口調で言う。

「花が綺麗なのは、いつか散っちゃう儚さがあるからだよ。」

確か同じようなことを、真夏のムッとした部室で、高岡先輩が言っていた。
受験前最後のライブを前に、高岡先輩は念入りにギターのチューニングをしていた。

「勿体無いですよー。大学行っても、バンド続けて下さい!」

私は側にあった楽譜を団扇代わりにひらひらさせながら言った。暑い空気が顔に当たって余計に汗ばむ。

「白石。終わりがあるって言うのは、案外悪いもんじゃない。」

「ん?……そうなんですか?」

暑さで受け答えが雑になっている自分に気づきながら曖昧な返事をする。

「いいか。終わりがあるから人は頑張れる。
目的地があるからカーナビは動く訳で、俺たちはスタートが切れる訳で。
花はいつか散ってしまう儚さがあるから、より綺麗に見えるんだ。」

「ん?最後の方よく分かんないんですけど。」
笑いながら言う私に、高岡先輩はより一層声色を熱くした。

「だからだな、終わりがあるから俺は今日輝くんだよ。」

そう言った先輩の卒業ライブは、決して完璧とは言えないサウンドだったが、私の胸の高鳴りが今にも体から出そうなくらい、確かに熱く輝いたライブだった。
先輩の額から滲む汗。今でも忘れない。それが私の目には銀色にしか見えなかったから。

あの時の先輩の瞳と、ミッちゃんの瞳を比べる。
私はミッちゃんに見つめられ、ミッちゃんのアイスコーヒーの氷と一緒に溶けてしまいそうだった。そしてきっとその熱で、ミッちゃんと彼氏の関係も解けちゃうんだろうな。

私が思う花が綺麗な理由。
銀色に輝く汗を思い出しながら考える。
それはきっと、その短い期間でも「生きてやるぞ」っというギラギラした生気が花を輝かせているんだ。

みっちゃんから見た花は、一体何色なのだろう。

そんなことを思いながら、私は冷め切ったホットコーヒーを一口飲んだ。
まだどこか温かさが残っていた。

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