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看護師という仕事のこと

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精神科看護師として働くなかで感じることや日々の学び、自分が大切にしていることをまとめています。
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#エッセイ

頑張るということ

頑張るということ

「頑張る」という言葉がある。
たいてい私達は皆、誰かに言われたことも、あるいは誰かに向けて言ったこともあるだろう。
中には「いや、初めて聞く言葉です。」という人もいるかもしれないので、念のため言葉の意味を調べてみた。

グワンばっている。

私達は皆グワンばっているのだ。
とくにこの季節。連日じめじめと蒸し暑く、ときに体温よりも高い気温の中で生きているなんて相当なグワンばりである。
加えて学校やら

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凸凹と私

凸凹と私

出勤して私が1番最初にすることは、自分の仕事部屋の掃除である。
前日にも簡単な掃除は済ませて帰るが、朝も必ず掃除をする。
机やイス、パソコンのキーボードにマウス、ドアノブや引き出しの把手も念入りに拭き掃除をしてから消毒する。
最後に患者さんが座る椅子を丁寧に拭く。机を挟んで、私の斜め前に置かれた椅子だ。私の椅子よりも上等で、座り心地も良い。
その椅子に座り、私は部屋をぐるりと見渡してみる。

患者

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箱の中のカブトムシ

箱の中のカブトムシ

「箱の中のカブトムシ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
まず、以下の引用をお読み頂きたい。

ということである。
それでは皆様ご一緒に。
せーの、、、

なんのこっちゃ!!

そう。なんのこっちゃ、なのである。
ウィトゲンシュタインさんは哲学者なので、これを読んだ私達が「なんのこっちゃ」という感想を抱くことはある意味正解なのである。

哲学者でもなく、ただのしがない精神科看護師である私が「箱

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ぼっち散歩

ぼっち散歩

またもぼっちで歩いている。

ぼっちは少し疲れています_:(´q`」∠):_

最近いろいろな事件が世間を賑わせたこともあり、患者さんやそのご家族様はとても動揺していました。
日々その対応に追われていました。

「私の飲んでる薬は大丈夫ですか」
「あの薬もたくさん飲んだら死にますか」
そんな不安にかられる人もいれば
「歌舞伎役者さんが親を手に掛けるなんて何かよほどの事情があるんでしょうね。」
「自

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嘘と365歩のマーチ

嘘と365歩のマーチ

患者さんは時に嘘をつき、看護師はその嘘に騙されたふりをする。
これは必要なことであり、とても大切な看護の1つであると私は考えている。

ある日、外来で何やら一悶着あったらしく受付さんからヘルプの連絡が入る。
「ものすごくお酒臭くてどう見てもベロベロに酔っ払ってるんですけど、本人は飲んでない!診察しろ!て騒いでいるんです。」と受付さんは泣きそうな声を出している。

アルコール依存で治療中の患者さんで

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写真を見て

写真を見て

私の名前はかをちゃんです。
google Pixelを使っています!

フワちゃんのCMのフレーズだ。
私はGoogle Pixelを使っている。

消しゴムマジックで消してやるのさ!

若い頃に泥酔した恥ずかしい記憶も、浮気ばかりくり返していたあのクソ野郎…いや恋人との思い出も、ブリブリぶりっ子なアイツの言動も、お腹にしがみついて離れない脂肪もぜんぶぜんぶ消しゴムマジックで消してやるのさ!!へっ

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雨の日、患者さんと

雨の日、患者さんと

それは私がナース1年目の秋のこと。
まだまだフワフワとした働き方で、何一つ自信も持てずに目の前の業務をこなすだけで精一杯だった頃の話だ。
看護師長と1人のドクターに呼び出され、ある患者さんを受け持ってみないかと打診された。

入院患者さんの受け持ちに関しては、男性患者さんは男性看護師に、女性患者さんは女性看護師に原則として振り分けられていた。

それをわざわざ打診してくるのはおかしい。
それも師長

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新人さん

新人さん

今年もたくさんの新社会人さんがバッキバキのガッチガチに緊張しながら、それぞれの場所でお仕事を始めている頃だろう。

新人さんを迎え入れる側となってから随分たつが、迎え入れる側も新人さんと同じようにこの季節は緊張する。

つらい実習や大量のレポートや難しい勉強を何とか乗り越えて看護師という資格を取り、この職場へと配属されてきたのだ。

看護師の資格を取っただけではまだ看護師ではない。
ここから少しず

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言っちゃダメ

言っちゃダメ

看護師という仕事をしていて何かと疑問や不思議に思うことがある。

皮膚科の部長先生は20年近くずうっと見た目がおじいちゃんだけど、いったい何歳なんだろうか。
医事課のタイトスカートは動きにくくないのだろうか。
真夏にストッキングに履き変えるのはつらくないのだろうか。
売店のオバちゃんのレジ打ちのスピードはどこで鍛え抜かれたものなのだろうか。
ドクターの字は何故こんなにも難解なのか。
小児科のナース

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命に嫌われている

命に嫌われている

若い患者さんが聴いていた曲のタイトルである。
いつもこの曲を聴いているようだ。
「インパクトのあるタイトルだなあ。」
私はそう思った。

私は患者さんが読んでいる本や聴いている曲に興味がある。

どういう本を読み、どういう曲を聴いているのか。
それが好きなのか。
どのようなところが好きなのか。
なぜ好きなのか。
知りたくて仕方ない。

「命に嫌われている」を聴いていた彼にも「この曲好きなの?」と尋

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見えないマスク

見えないマスク

マスクの着用が個人の判断に委ねられることになった。
看護師という職業柄、もちろん私は今後もマスクは着用したまま過ごすつもりである。
病院の方針で患者さん達にも引き続きマスクの着用をお願いしている。

今日はこのマスクではなく「目に見えないマスク」について書いてみようと思う。

精神科で働くなかで「見えないマスク」を着けた患者さんと時々出会う。

見えないマスクとは何か。
「自分の本当の言葉を閉じこ

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とくべつ

とくべつ

「他の人よりも大事に扱われる」といった「特別扱い」を受けたら、やはり嬉しさや誇らしさを感じるだろう。
たとえば飲食店で、あるいは旅館やホテルで
「いつもありがとうございます。こちら店長からサービスのお料理です。」
「本日は当館でもっとも景色の良いお部屋をご用意させて頂きました。」

……良いな……。

もっと日常的なことで言えば恋人やパートナーといった存在も「他の人とあなたは違う」という位置付けの

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心の蓋の話

心の蓋の話

精神科看護師として忘れられない経験はたくさんある。
嬉しかったことも悲しかったことも。
そして、その後の「看護」に大きな影響を与えることとなった出来事がある。

20年近く前の話だ。
当時の私は精神科急性期の閉鎖病棟で2年目を迎えていた。
まだまだひよっこで経験も浅かったが、患者さんとの関係性を築くことを最も大切に考え自分なりに日々奮闘していた。

そんな中、受け持ち患者さんの一人が退院準備として

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患者になった日

患者になった日

去年の4月、職場で急に手足が動かなくなった。あれれ…と思ってるうちに歩けなくなった。

あれよあれよと言う間に勤務先から大きな病院へと運ばれ、あれよあれよと言う間に様々な検査が行われ「入院ね。ギランバレー症候群だから帰せないから。」と南こうせつ似の医師に告げられた。

…ギランバレー症候群…?しまった。ほとんど知識のない病気だ。
看護学生の頃、神経内科の講義に来ていた先生の顔は鮮明に浮かぶ。
なん

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