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なんでもない。

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記したつもりが消えていくもの。
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#父親

ある嫉妬について。

ある嫉妬について。

 父と2人で、暮らしていた小学ニ年生の頃、よく駄菓子屋に通った。子供の夢の国。めんこや、麩菓子、よっちゃんイカ、のらくろのチューイングガム、チューブに入ったカラフルな飲料、思い出すと、一瞬であの記憶が瞬き出す。手に握りしめた100円玉が世界の全てだった日々。
記憶とは輝きと痛みを同時にファイリングするようにも思う。

 ある日、いつも通りにお菓子を選び、いつも通りに100円玉を、椅子に座り雑誌を読

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多面体。(父の夢をみたから固定)

多面体。(父の夢をみたから固定)

 夏が過ぎ、秋へ向かう。

 季節の変わり目は、いつも高校2年の夏休みを思い出す。
精神は湖のように深くゆれ揺らぎ、全身を浸した水面で手足を掻き続けて底が濁る。濁らせたい訳ではないが動けば動くほど濁りは広がってゆく。同時にいつ沈むのか推測不能な不気味さに体が冷え切る。常に水の中に浸っているからか手先足先が痺れる。一歩進み出したら一瞬で溺れてしまうかもしれない恐怖と緊張と裏腹に、陸に上がり自分の体温

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始まりは、赤。

始まりは、赤。

 「どうしたい…?」彼が、ポツリと言った。
暗闇の空間が色づく。欲望の色は、"赤"だ。

 お互いに友人と訪れていた"wanna dance?"という六本木にあるクラブで、声を掛けて来たのが彼だった。ソムリエというだけで、何故、こんなにも格好良く小慣れているのだろう?大人への憧れが、そのままが実在する人物として、目の前に現れたのだから夢のようだ。夢で終わらせたくない。

 「これから、どうしたい…

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