記事一覧

『訂正可能性の哲学』東浩紀|人は”間違える”ことができるけど、AIは”間違える”ことができない。

目次はこんな感じ。 第1部 家族と訂正可能性  第1章 家族的なものとその敵  第2章 訂正可能性の共同体  第3章 家族と観光客  第4章 持続する公共性へ 第2部 一般…

BICさん
8か月前
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『怪物』是枝裕和 | 怪物なんかいないのに、僕らは怪物を見てしまう。

職場の女の子に勧められて観た。お盆で暇だから、『万引き家族』と『第三の殺人』を観てから観た。良かった。 全編通じての主人公は小学5年生のみなと君。なんだけど、母親…

BICさん
8か月前
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映画『BLUE GIANT』|自分をこれっぽっちも疑わない人

サックス奏者の大と、ピアニストの雪祈、ドラムの田辺。世界一のジャズプレイヤーを目指して上京した大を中心にして、3人が出会い、ジャズバンドを結成し、日本一のステー…

BICさん
9か月前
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『さみしい夜にはペンを持て』古賀 史健|日記の効用を説く自己啓発。なのにこんなに心打つ。

日記を書く過程で、日々の出来事や自分の心の動きを見つめることで、自分の人生を豊かに開いていく姿勢が身に着くぞ!という自己啓発の本。 なのだけど、中学3年生のタコジ…

BICさん
9か月前
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『街とその不確かな壁』を読んで何を感じたか。

評論は評論として意味がある。自分だけでは気付けなかった過去作とのつながりや、著者が別の場所で語っていた言葉を踏まえた解釈なんかを教えてくれるし、その作品が”一般…

BICさん
1年前
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遠野遥『浮遊』|ゲームと現実

小説内ゲームの登場人物YUKIと、ゲームをプレイする女子高生ふうかの話。 ゲーム内の人生と、現実の人生と、何がどう違うの? 小説に描かれることでのみ存在する(小説の登…

BICさん
1年前
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人を愛するAIに、人が”心”を感じることは出来るか | 『クララとお日さま』カズオ・イシグロ

子どもが人口知能を搭載したAF(artificial friend)と共に暮らす生活が当たり前になった未来を舞台設定に、AFであるクララと主人のジョジーの暮らしと成長を描く作品。AFに…

BICさん
1年前
3

『THE FIRST SLAM DUNK』を見て

この映画を企画してくれた方、作った方すべてに感謝をささげたくなるような映画だった。一番好きな漫画がSLAM DUNKで、SLAM DUNKを超える漫画は出てこないと思っている。観…

BICさん
1年前
2

誰が悪いわけじゃないのに、上手くいかない”家族”という繋がり|『くるまの娘』宇佐美りん

久しぶりにちゃんと本を読んだら、やっぱり本っていいなって感じるな。普通だったら”他人の心の動き”なんて想像するしか出来ないんやけど、「こういう時に、人の心がこう…

BICさん
1年前
2

プリキュアだって辛いことは嫌だ|ヒーリングッドプリキュア42話「のどかの選択!守らなきゃいけないもの」

裏切られたわ。ダルイゼンを助けることを選ぶと思い込んどった。。 癒すことを使命としたプリキュアが、(これまで敵対関係にあったとはいえ)キングビョーゲンという巨悪…

BICさん
3年前
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自分の行動の理由が分からない|遠野遥「破局」

わいは、今の大学生と接する機会はほぼない。やから、これが大学生に共感を持って受け入れられる内容なのかどうか全く分かへんのよな。ただ、この小説の主人公(陽介)を見…

BICさん
3年前
3

推しを推してる間”だけ”は、自分のことを嫌いにならずにいられる。|『推し、燃ゆ』宇佐美りん

おもろかったわ。主人公は(おそらく、明示なし)発達障害で、高校を中退、バイトをクビになり、家族とも良い関係を築けていない17歳のあかり。状況的にはけっこう厳しい状況…

BICさん
3年前
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善良さと傲慢さは似ている「傲慢と善良」辻村深月

1.本の紹介 本屋大賞つながりで、2018年度の大賞辻村深月さんの『かがみの孤城』読もうと思ったのですが、出たばかりということで最新作を手に取りました。出たばかりで本…

BICさん
5年前
1

血のつながりは無くても、子どもは愛されることができる「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ

1.本の紹介 2019年度の本屋大賞受賞作、ということで手にとりました。受賞インタビューとかを読むと、教師としての経験が結構反映されているようです。いくつか映像…

BICさん
5年前
7

むすめがないた

3歳のむすめが泣いた。自分が嘘をついたことに対して「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながら泣いた。 むすめは、リビングの机の上に置いてあった100円玉を、誰も見てな…

BICさん
5年前

鼻下長紳士回顧録 安野モヨコ

これからの安野モヨコの作品が楽しみになる作品だった。 この作品自体のクオリティが高いのはもちろん、(なかなか作品を描けなかった)作者がこれから漫画家として生きてい…

BICさん
5年前
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『訂正可能性の哲学』東浩紀|人は”間違える”ことができるけど、AIは”間違える”ことができない。

目次はこんな感じ。
第1部 家族と訂正可能性
 第1章 家族的なものとその敵
 第2章 訂正可能性の共同体
 第3章 家族と観光客
 第4章 持続する公共性へ
第2部 一般意志再考
 第5章 人工知能民主主義の誕生
 第6章 一般意志という謎
 第7章 ビッグデータと「私」の問題
 第8章 自然と訂正可能性
 第9章 対話、結社、民主主義

東浩紀の本の好きなところを3つ、今作に出てくる記述をつま

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『怪物』是枝裕和 | 怪物なんかいないのに、僕らは怪物を見てしまう。

職場の女の子に勧められて観た。お盆で暇だから、『万引き家族』と『第三の殺人』を観てから観た。良かった。
全編通じての主人公は小学5年生のみなと君。なんだけど、母親目線。担任目線。校長目線。みなとくん目線で、パートが分かれてる。
母親目線の第一部では、みなと君が狂っていくプロセスと、学校対応の不条理・不気味さが伝わってくる。マニュアル通りの対応しかしない校長。常識に欠け、暴力や暴言をして、反省の色が

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映画『BLUE GIANT』|自分をこれっぽっちも疑わない人

サックス奏者の大と、ピアニストの雪祈、ドラムの田辺。世界一のジャズプレイヤーを目指して上京した大を中心にして、3人が出会い、ジャズバンドを結成し、日本一のステージで演奏するに至るまでを描いた映画。

音楽の良さは自分には評価できない。ジャズを聴いたことはほとんどないし、音楽を聴いて、何がどう良かったと説明する言葉を持ってない。
でも、この映画が良かったかどうかは分かる。間違いなくいい映画だった。

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『さみしい夜にはペンを持て』古賀 史健|日記の効用を説く自己啓発。なのにこんなに心打つ。

日記を書く過程で、日々の出来事や自分の心の動きを見つめることで、自分の人生を豊かに開いていく姿勢が身に着くぞ!という自己啓発の本。
なのだけど、中学3年生のタコジローとそれを導くヤドカリさんというキャラクターを使った物語形式になっている。タコジローが悩み、ヤドカリさんに導かれて「日記を書く」プロセスを経ることで悩みと向き合い、変化していく過程を描いている。読者は、日記を書くことの効用が感情を伴って

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『街とその不確かな壁』を読んで何を感じたか。

評論は評論として意味がある。自分だけでは気付けなかった過去作とのつながりや、著者が別の場所で語っていた言葉を踏まえた解釈なんかを教えてくれるし、その作品が”一般的に”持つ意味を教えてくれる。ホンマにありがたいことやわ。
でも、それはワイの人生とはほとんど関係ないんよね。というそのことを教えてくれたのは、村上春樹だった気がするわ。他人がどんなに言葉を尽くして村上春樹について語っていても、自分が村上春

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遠野遥『浮遊』|ゲームと現実

小説内ゲームの登場人物YUKIと、ゲームをプレイする女子高生ふうかの話。
ゲーム内の人生と、現実の人生と、何がどう違うの?
小説に描かれることでのみ存在する(小説の登場人物である)ふうか。プレイヤーがゲームをしている時だけ覚醒する(ゲーム登場人物である)YUKI。
「ひょっとしたら、自分だって、誰かにプレイされてるだけかもしれない。」とまで書くと大げさなんだけど、ゲーム内人物と小説内人物の"存在の

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人を愛するAIに、人が”心”を感じることは出来るか | 『クララとお日さま』カズオ・イシグロ

子どもが人口知能を搭載したAF(artificial friend)と共に暮らす生活が当たり前になった未来を舞台設定に、AFであるクララと主人のジョジーの暮らしと成長を描く作品。AFに対する大人の思惑をサスペンス要素としつつ、物語はクララの語りで進む。
カズオイシグロお得意の語り手の語りから全体像を少しずつ見せていく書き方はやっぱ読んでて気持ち良かったわ。

リックの大学進学

幼馴染でお隣さんの

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『THE FIRST SLAM DUNK』を見て

この映画を企画してくれた方、作った方すべてに感謝をささげたくなるような映画だった。一番好きな漫画がSLAM DUNKで、SLAM DUNKを超える漫画は出てこないと思っている。観る前は少し心配していたけれど、期待を上回る映画だった。本当に、観てよかった。
マンガでも試合のスピード感・緊迫感は表現されていると思ってたけれど、映像によって表現されたスピード感は、特別なものだった。試合のラスト1分、劇場

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誰が悪いわけじゃないのに、上手くいかない”家族”という繋がり|『くるまの娘』宇佐美りん

久しぶりにちゃんと本を読んだら、やっぱり本っていいなって感じるな。普通だったら”他人の心の動き”なんて想像するしか出来ないんやけど、「こういう時に、人の心がこう動く」ということを”言葉で”説明してくれる。映像もええけど、言葉が好きで、言葉で説明したい(映像を作って説明する技術がない)自分にとっては、やっぱり小説って特別やわ。

さて本題。まずはあらすじやけど、、

教育熱心な父の指導を受け、希望す

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プリキュアだって辛いことは嫌だ|ヒーリングッドプリキュア42話「のどかの選択!守らなきゃいけないもの」

裏切られたわ。ダルイゼンを助けることを選ぶと思い込んどった。。
癒すことを使命としたプリキュアが、(これまで敵対関係にあったとはいえ)キングビョーゲンという巨悪の前に傷ついたダルイゼンを突き放す選択をするとは思ってなかった。

42話を見た後は「そりゃそうだよな。これしかないよな。」と思う説得力のある選択なんだけど、見る前にこれを予想することは出来なかった。こういう時にシナリオ力を感じてグッとくる

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自分の行動の理由が分からない|遠野遥「破局」

わいは、今の大学生と接する機会はほぼない。やから、これが大学生に共感を持って受け入れられる内容なのかどうか全く分かへんのよな。ただ、この小説の主人公(陽介)を見て、「これはわいのことを書いているんじゃないか」と感じる部分があったんよ。この感覚は、太宰を読んだときの感じに似てる気がしたんよね。他の人にとってどんな作品かしらんけど、わいにとってはこれは傑作やったわ。

わいは自分の物事の感じ方について

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推しを推してる間”だけ”は、自分のことを嫌いにならずにいられる。|『推し、燃ゆ』宇佐美りん

おもろかったわ。主人公は(おそらく、明示なし)発達障害で、高校を中退、バイトをクビになり、家族とも良い関係を築けていない17歳のあかり。状況的にはけっこう厳しい状況よね。勉強もできひんし、アルバイト先でも迷惑をかけてまうし、自分でもどうして上手くいかないのか分からんけど、とにかく色んなことが上手くできない。あかりはんは辛いわな。

でも、推しを推すことだけは、誰にも迷惑かけずにすることができる。そ

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善良さと傲慢さは似ている「傲慢と善良」辻村深月

1.本の紹介

本屋大賞つながりで、2018年度の大賞辻村深月さんの『かがみの孤城』読もうと思ったのですが、出たばかりということで最新作を手に取りました。出たばかりで本作はまだ賞などとっていませんが、作家生活15周年で22作目の長編小説です。直木賞・本屋大賞を受賞した売れっ子作家です。

2.140字のあらすじ39歳の架と、35歳の真実。婚活を経て出会った二人が結婚するまでを描いた恋愛(??)小説

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血のつながりは無くても、子どもは愛されることができる「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ

1.本の紹介

2019年度の本屋大賞受賞作、ということで手にとりました。受賞インタビューとかを読むと、教師としての経験が結構反映されているようです。いくつか映像化されている作品もありますが、瀬尾さんの小説は初めて読みました。

2.あらすじ

1:実父と再婚相手(梨花さん)との暮らし
まず、小学校に入る前に母親が事故で亡くなる。そして実の父は、娘の健やかな成長を願い、優子の第2のお母さんになる梨

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むすめがないた

3歳のむすめが泣いた。自分が嘘をついたことに対して「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いながら泣いた。

むすめは、リビングの机の上に置いてあった100円玉を、誰も見てないところで自分のポーチにしまった。

ぼくと妻は、無くなった100円玉を探した。どうにも見つからなくて、むすめに知らないか聞いた。むすめは知らないと言ったけど、むすめのポーチには、100円玉がはいっていた。

むすめは、前におばさん

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鼻下長紳士回顧録 安野モヨコ

鼻下長紳士回顧録 安野モヨコ

これからの安野モヨコの作品が楽しみになる作品だった。
この作品自体のクオリティが高いのはもちろん、(なかなか作品を描けなかった)作者がこれから漫画家として生きていくんだという決意表明の作品でもあったように思う。

メインストーリーは、娼館で働くコレットが、イケメンのレオンに惹かれ、「レオンと幸せになりたい」と感じつつも、レオンの死をきっかけに「レオンに消えてほしかった」という自分の本当の欲望に気づ

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