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すべてはゴキブリのことを知るために……【愛しのゴキブリ探訪記】

「こんなところまで来て、なんでゴキブリなんだ?」

 観光名所には見向きもせず、初の海外でもゴキブリ探し。
 まだ見ぬゴキブリを夢見てフィールドを突き進むゴキブリストの山あり谷あり「ゴキブリ探訪記」。

 2024年1月24日に発刊された『愛しのゴキブリ探訪記――ゴキブリ求めて10万キロ』(柳澤静磨・著)から「はじめに」を全文公開します。

愛しのゴキブリ探訪記――ゴキブリ求めて10万キロ』柳澤静磨(ベレ出版)

はじめに

  私はゴキブリが好きだ。

 「ええ、信じられない」
 「物好きだな」
 「なんでゴキブリ?」

 今、皆さんが思ったことは手に取るようにわかる。
 ごく一部、「私も好き」と思ってくれた読者の方もいるだろう。
 ゴキブリは多くの方に嫌われている昆虫だ。それゆえに、「ゴキブリが好きだ!」と言うと、さまざまな疑問が沸き上がってくるのではないかと思う。
 
 私は現在、静岡県にある磐田市竜洋昆虫自然観察公園という、昆虫館と野外公園が併設された施設で働いている。ここで私はゴキブリの魅力を広めるべく、「ゴキブリスト」を名乗って展示や講演会などを行なっているのだが、頻繁に「なぜゴキブリが好きなのですか」と聞かれる。これはゴキブリが多くの方に嫌われているがゆえのことだろう。もし、私が「カブトムシが好きだ!」と言っても、「そうなんですね」で終わってしまうはずだ。


 ゴキブリは世界に四六○○種以上(Beccaloni、二〇一四)、日本では六四種(柳澤、二〇二一)が生息している。毎年多くの新種が発見されており、これからも種数は増えていくだろう。家の中にいる黒くて素早い生き物というイメージが強いと思うが、ゴキブリはじつはとても多様な生き物で、鮮やかな緑色の種もいれば、カブトムシのようにゆったりとした動きの種もいる。多くの方のもつイメージのなかのゴキブリは、ごく一部の種をもとにした、狭い範囲のゴキブリ像なのである。
 

 かくいう私も、最初からゴキブリが好きだったわけではない。むしろその逆、とても嫌いな生き物だった。見るだけで背に汗をかくし、恐怖で動けなくなる。虫好きが高じて昆虫館で働きはじめてからも、ゴキブリは嫌いなままだった。しかし、あることがきっかけでゴキブリの概念が崩れ去り、私は彼らのことを何も知らないことに気づいた。ゴキブリとはどんな生き物なのだろうか。彼らのことが気になりはじめてしまったのだ。


 そしてゴキブリのことを知っていくうちに、その魅力にハマってしまい、ついには彼らを探して旅をするようになった。ゴキブリ展の開催、新種の記載、図鑑の作成などを経て、ゴキブリの世界にどんどん足を踏み入れていき、気づけば、まだ見ぬ魅力的なゴキブリたちに「いつか出会ってみたい」と憧れを抱きはじめた。

 
 本書では、私が憧れのゴキブリたちを求めて旅をし、そこで出会ったゴキブリ、起こった出来事を紹介する。第一章ではゴキブリ嫌いからゴキブリが気になる存在となった話を、第二章では国内でのゴキブリ探しの話を、第三章では海外でのゴキブリ探しの話を紹介する。

 世界には魅力的なゴキブリがたくさんいる。家の中に出てくる「黒くて素早い」彼らだけがゴキブリではないのだ。

 さぁ、ゴキブリの奥深き世界へ、一歩踏み出してみよう。


【著者略歴】
柳澤静磨(やなぎさわしずま)
1995 年生まれ、東京都出身。
磐田市竜洋昆虫自然観察公園職員。ゴキブリ談話会世話役。
幼少期からゴキブリが大の苦手だったが、2017 年に西表島で出会ったヒメマルゴキブリのゴキブリらしからぬ姿に驚き、それ以来、ゴキブリの魅力に取りつかれる。現在はゴキブリストを名乗って、ゴキブリの展示や講演会などを通してゴキブリの魅力を伝えている。
2020 年に35 年ぶりとなる日本産ゴキブリの新種2 種を記載し、その後も複数種の新種を発表している。
著書に『「ゴキブリ嫌い」だったけどゴキブリ研究はじめました』(イースト・プレス)、『ゴキブリハンドブック』(文一総合出版)、『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』(学研プラス、分担執筆)がある。

『愛しのゴキブリ探訪記』好評販売中!

ゴキブリは世界に4600種以上。私はその10分の1も見たことがない。
誰もが知っていて身近にいる昆虫だが、その奥は深く、誰も底を知らない。
人間との距離が近く、文化的にも興味深い。
そもそも、なぜゴキブリは嫌われるのだろうか?
彼らとの毎日は、興味と謎が湧き出て止まらない冒険をしているようだ。


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