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財務モデル作成 Tutorial③ - 3 Statement model to DCF/AVP

今回は引き続き財務モデル作成のTutorialのうちStep3にあたるControl tabの作成である。Control tabはモデル作成上プロジェクションの仮定に必要なキードライバーをケースごとにインプットし、事後的な分析を可能にするために作成されるので重要なパートである。

財務モデルの作成では、インプット→アウトプットをレビュアーやモデルの使用者にとって分かりやすくすることが肝要であるため、主要な変数は分散させずにControlタブにまとめるのが望ましい。

基礎的なAssumption設定

Control tabでは人によって作成スタイルの差異はあるものの、以下のようにプロジェクト名(今回はFlowerとしている)、バリュエーション基準日(Valuation date)、直近決算日(Last FY ending as of..)、税率、通貨、単位、モデル上設定するケースのスイッチセルをトップに持ってくることとする。

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ここで、税率(Tax rate)はPLにおける純利益(Net income)の計算時やDCFによるバリュエーションでも使用するため、セルに"tax"というように名前を付しておくことで、モデルの計算式で E25*tax というように示せば絶対参照を使用せずとも計算できるようになるので、使用頻度の高い変数は名前を付しておくことがポイントである。

同様に通過の単位をunit, ケースをcaseと名前を付すことで、モデル内の数式が複雑かつ長くなるのを防ぐことができる。caseという名前を付し、かつ1=Base case, 2= Upside case, 3 = Downside caseと数字とケースを対応させることでOperating model, DCFシートにおいて関数式を用いてケースを表示させることが可能になる。
具体的には、例えばE4セルに1~3でケースが数値で示されている場合には以下の関数式にすることで、別のセルにBase, Upside, Downsideのケースを明記できる。

=IF(E4=1,"Base case",IF(E4=2,"Upside case","Downside case")) 

PLおよびBSに関するAssumption整理

ケースを設定する際は、前回の財務モデル作成 Tutorial②にて説明した過去の財務数値等の整理において行ったように、利益率やBSに関する基礎的な指標(既存の借入金の返済スケジュール、利率)などの水準を検討する

Modelerにより手法の差異はあるものの、まずはPLを中心としたProjectionを整理していくのは必ず行う。下記が前回作成したKey statsを改めて整理したものである。

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グレーアウトしている項目は、モデル作成上直接仮定を設けなくても、他の主要なAssumptionから導かれるもの(EBITDAや純利益など)、PLの営業外や特別損益項目で一過性のものでProjection期間では発生しないと仮定して問題ないもの、BSの固定項目で運転資本に含まれないものはケース別にシナリオを設けずに作成することとしている。

逆にいえば、グレーアウトされていない項目は、ケース別に数値が変わるようにして分析できるようにする必要がある。

ケースの設定

ケースの作成の際は、案件によるもののベースケース、アップサイドケース、ダウンサイドケースの3つを作成し、最終的に利益率やBSの主要なレシオ(DEレシオ、DSCRなど)の感応度分析に役立てることが一般的である。

実際のM&Aの案件では売手FAからインフォメーションメモランダム(CIM: Confidential Information Memorandum)が配布されるので、CIM記載の事業計画をベースにモデルを回した場合をCIM case, CIM caseに対してストレスをかけたケースをBase caseにすることもあったりと、ケースの内容についてはチーム内で合意を取っておく必要がある。

前回の記事では、Key statsというように財務諸表の主要な利益率やレシオ等をまとめているが、モデル作成上およびバリュエーション上重要な指標を改めて検討していく。

売上高年成長率(YoY)

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売上高は年間成長率(YoY:Year on Year )で成長率をインプットすることになるが、ここでは簡便的に、過去20年、10年、5年のCAGR(年平均成長率)を計算し、それらを参考に各ケースにおいて採用することとしている。上記のテーブルでSelectedとあるのは、先ほどのcaseを入力することで採用される数値を表示するという意味である。後ほどOffset関数を使用して説明していく。

またStepというのはProjection初年度の数値に対して、一定の割合で増分ないし減少を刻む場合に入力する。ここの数値がゼロの場合はProjection初年度の数値がProjection期間全体において継続するということになる。

BS面では売上債権回転日数(DSO:Days Sales Outstanding) を例にとって見てみると、以下のようになる。

売上債権回転日数:DSO

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過去のDSOの数値を中央値等を参照し、過去5年及び10年間の中央値が77日、78日と80日弱であることから78日をベースケースで置いている。

また固定資産関係で言えばCapexおよびDAの売上高に対する比率があるが、本ケースでは以下の通り整理している。

DA as a % of revenue(償却費対売上高比率)

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Capex as a % of revenue(設備投資対売上高比率)

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固定資産に関しては、実際には対象会社には無形資産やのれんがある場合も多いが、CF計算書において、Amortization of intangibles and goodwillという項目で区分して表示されているのであれば、その数値を無形資産のスケジュールに反映させればよい。今回は便宜的にDAを有形固定資産(PPE)のスケジュールに載せることになるだろう。

Offset関数・Choose関数の利用

ケースは先ほど設定したコントロールタブのものをそのまま使用するが、各ケースにおいて上記で定めた主要Ratioが関数式で自動的に参照される必要がある。

そこで、Selectedと表記された行でOffset関数を使用して、ケースに応じて数値を参照する。Gross margin(粗利)で例をとると以下のようになる。数式では=OFFSET(K24,case,0)と表示されている

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選択した参照元セルを0行目として、Caseで1 = Base caseであれば参照すべき行から1行したの数値を自動的に引っ張ってくるということである。Case=2 (Upside case)を選択した場合には下記の通りUpside caseで採用した数値が反映されていることが分かるであろう。

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Choose関数を使用しても下記の通り同じ結果を得ることができるが、セル内の式が長くある傾向にあるのでシンプルに分かりやすくモデルを作成するのであればOffset関数がお勧めである。=CHOOSE(case,K25,K26,K27)というように数式で表示される

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式をシンプルにすることはレビューのしやすさやモデルのミス発生を未然に防ぐことにつながるので意識していきたい。

次回はここまで作成した過去の財務数値の整理とケースの設定により財務3表をつなげる(=Operating model作成)へと進んでいきたいと思う。

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