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短編小説

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短編小説です
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記事一覧

或る日の明智小五郎

『江戸川乱歩』と『明智小五郎』ファンに
或る日の明智小五郎 または 黒蜥蜴外伝

中村警部がドアを開けて突入した時、
まさに明智小五郎に抱きかかえられた女は、力なく明智の手から冷たい床に滑り落ちるところであった。
さしもの明智小五郎も一瞬、呆然としていたようだが、中村警部の部下への指示、
「急げ、救急車だっ!」
の声に我にかえったようである。
「……そうだ、彼女を死なせてはならない」
そうつぶやく

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ショートショート『勇気』

卒業式が終わった一人の帰り道。

彼女についに告白できなかった……、

意識したくなくても後悔が大きくなっていく。

向かいから学生服姿のカップルが歩いてくる。

卒業証書のケースを持っているが、僕とは別の高校のようだ。

うつむいたまますれ違うと、男の子のほうが声をかけてきた。

「これ、あげるよ」

そしてポケットから赤い、小さな星のようなものを取り出した。

「え……!」

ふいをつかれたせ

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短編「ツケマく~る」

朝のTV番組が聞こえてくる。
世界各地にUFOがあらわれたらしい。
アタシは洗面所の鏡の前で、かなり盛り上がっているスタジオの声をBGMにドンキで買った、上まぶた用の ツケマ をなんとか右目につけようと格闘中だった。
『かわいく』て『ラグジュアリー』(どういう意味だろ?)で『クール』で『おしゃれ』と(ほかにも)いっぱい形容詞がついた、とにかくとっても長~いのでとってもつけにくいのだ。

「エリ、な

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短編「むじな」

まだ、江戸に幕府ができる前、関東平野が開かれる前の話である。

街道を急ぐ旅装の僧侶がいた。
年は若い、青年といったところか。
傘をかぶり、手にした錫杖は鋼鉄製のようだ。
後の時代では、関東山地と呼ばれている一帯にある、山を目指していた。

目指す山のふもとには一軒の茶屋がある。
ここは、老夫婦が二人だけで切り盛りしている。
「これはこれは天海様。お久しぶりでございます」
店の親父は愛想よく挨拶す

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短編「首」

「むじな」の続編です。
https://note.mu/applesamurai/n/ne72b0857b0c2?magazine_key=m89b954759225

もう太陽が西に傾き山の峰に隠れようかという夕暮れ時である。
旅装姿の武士が山道を急いでいる。
武士=朝比奈正次は駿府より火急の用件で武蔵の国に向かう途中であった。

夜道を徹して急ぎたいところだが、そこはなれない山道
『もう少し登

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(お話)鳩

小学生のたかしくんはレース鳩を飼っていた。
名前は「はやぶさ」号だ。
のんびり屋のたかし君はときどき、はやぶさをレースに出すが結果は気にしない。
たかし君はとにかく、鳩が大好きなのだ。

はやぶさのレース結果は全くぱっとしなかった。
ビリになることもしばしばだった。
ところが、実ははやぶさは、1000年に一度、生まれるか生まれないかという「スーパーピジョン」だったのだ。

さて、今日も鳩レースの大

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短編小説「願い」

西暦2084年12月24日の夜、聖ニコラスは子供達の願いをかなえ、プレゼントを配る為、トナカイの引く空飛ぶソリに乗ろうとしていた。

天地創造の昔より天使と悪魔は秩序と混沌、正義と悪、あるいはエントロピーの減少と増加を司る物として、それぞれ人間の世界に影響を及ぼしてきた。

天使と聖人達は悪魔と対立し、世界をよりよい方向に導こうとしたが悪魔の勢力……と、いうより人間の本能としての悪の力はすさまじく

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ショートショート「僕とかぞく」

僕は長男なので「太郎」という名だ。
お父さんとお母さんといっしょにくらしている。

僕が三歳になったころ妹ができた。
妹は「さくら」、春に生まれたからだ。
赤ん坊のころはよく泣く子で、僕もよくおもりをしたものだ。
お昼寝の時は僕が横で一緒に寝てやると、安心したのか不思議と寝つきがよかった。
よく赤ん坊はミルクの臭いがする、というが何かほんわりしたやさしい臭いがしたことをおぼえている。

もう一匹、

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(お話)ハロウィン

あまたのUFOを擁し、大宇宙に覇権をとなえようと宇宙侵略を続ける宇宙人、パンプキン星人。彼らの次の目標は、なんと!地球だった。

パンプキン星の指導者、パンプキン王子は自らUFO部隊を率いて地球にやってきた。ところが地球侵略前の調査中、事故で地球に不時着してしまったのだ! しかもハロウィンで人がごったがえす、夕方の東京は秋葉原、歩行者天国のど真ん中……。

「お、王子っ! 修理は絶望的です!!」

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ショートショート『能力』

特別な人間になりたい。
俺は霊山にこもり、厳しい修行のすえついに神様に会えた。

「お願いです! 超能力をくださいっ!!」(必死)
「え~? 気がすすまないなあ」
「なんでもいいのでどうか一つお願いします!!」
……そして得られた能力は、
『人が食べているラーメンをうどんに変化させる能力』だった。

俺が飲み屋でヤケを起こしてあばれていると、
薄汚れた前掛けをした小太りの男に話しかけられた。

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ショートショート「勝負」

俺の嫁の地元はえらい山奥なのだが、結婚を機に土地をくれるというので引っ越した。田舎ぐらしにも慣れ、知り合いの農家にきゅうりをたくさんもらっての帰り道のことだ。

なんと、川辺で河童と川獺(かわうそ)が相撲をしていた。そういえば、川獺は日本の昔話では妖怪あつかいだ。狸とならんで人を化かす川の妖怪だ。驚いたが、どちらも幼いようだ。小さい河童もかわいいし、川獺は元よりかわいい動物だ。二匹とも俺に気がつい

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短編小説「ジャングル人生」

きっかけは三連休だった。地方のさびれたリゾートに一人旅に出よう
と思ったのだ。

リゾートは元は温泉街だったようだ。例によってバブル経済と呼ばれ
る日本に勢いのあった頃、無理な開発をしていろいろな施設を作った
ところでバブル崩壊、推進していた第三セクターも解散、民間に払い
下げ、転売の連続。今、残っている施設も誰が持ち主だか、土地の者
でもわからない。

俺はむしろ、夜の工場や巨大施設の廃墟など、

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短編「それを人は……」(362文字)

巨大隕石の激突で、人類は全滅し、

僕と、美少女の吸血鬼だけが、生き残った。

僕は、美しく、可憐な彼女に魅せられている。

しかし、彼女に近づくと、僕は吸血鬼にされてしまう。

それは、こわいことだし、何より人類が滅亡してしまう。

それは、いやだ。

彼女は、僕の血を吸いたくてしかたがない。

だが、僕の血を吸ってしまったら、人間はもういなくなってしまうのだ。

彼女は、人間ではない僕には興味

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(お話)「月」

人里離れた山奥の小さな山小屋に夜が来た。

小屋の中には一人の男と犬、猫が寝息をたてている。

月が天高く昇り、窓から月のあかりが小屋の中を照らし男は目を覚ました。

「……やけに明るいと思ったら今夜は満月か」

月の光に照らされた男は、たちまち全身に毛が生え、牙が尖り、鋭い爪が伸びる。

男は狼男だったのだ。

狼男は小さくあくびをするとシーツのシワを直し、

犬と猫を抱き寄せ丸くなる。

そし

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