ショートショート『能力』


特別な人間になりたい。
俺は霊山にこもり、厳しい修行のすえついに神様に会えた。

「お願いです! 超能力をくださいっ!!」(必死)
「え~?  気がすすまないなあ」
「なんでもいいのでどうか一つお願いします!!」
……そして得られた能力は、
『人が食べているラーメンをうどんに変化させる能力』だった。

俺が飲み屋でヤケを起こしてあばれていると、
薄汚れた前掛けをした小太りの男に話しかけられた。
「にいちゃん、どうしたんだい?」
俺が事の次第をまくしたてると、男にガッと肩をつかまれた。
「そいつはすごい!! ぜひ俺に協力してくれっ」
「???」
そのおやじは近所のラーメン屋『覇王』の店主なのだそうだ。
なんでも、ラーメン好きが高じて親の遺産が入ったとかで念願のラーメン店を開業、以来20年もの間まったく客が入らない。
さすがに遺産も尽きてきてピンチだという。
元凶は向かいに、すごく人気のライバル店があるためだそうだ。
なんでこのおやじはそんな立地に出店したんだ……と思ったが、ライバル店の方が後からできたそうだ。
ライバル店、ラーメン事情に詳しくない俺でも知っている人気店だ。

「ヤ、ヤツらのしょうもないラーメンのせいで俺の究極のラーメン『バナナ』ラーメンが売れないんだっ!!」
「え?、バ、『バナナ』!?」
「なんだとうっ!? 『レモン』や『トマト』入れてる店があるのにバナナをばかにするのかああ~!!!」
「い、いえ」
俺はしどろもどろになりながら、答えると
「とにかく君の力でライバル店をつぶすのだっ!!」
目が血走っている。
俺は彼の尋常でない迫力におされ、報酬1万円で引き受けてしまった。

1週間もしないうちに、ライバル店はつぶれた。
なにしろ、注文して食べているうちに麺がどんどん太くなって『うどん』になってしまうのである。
あまりの怪奇現象に逃げ出す客続出(中には平気で完食する猛者もいたが)客足が遠のき、なにより店主の気力がなくなったのである。

だが、成功したとはいえ俺はむなしさを覚えていた。
「戦いは何も生み出さない。これが『能力者』としての悲哀か……」
一万円を握りしめながら一人感慨にひたっていると、おやじがやってきた。
「おい、これで終わりじゃないぞ。他の店もつぶすのだ!!」
「ええ~!? ちょ、ちょっとまってくれ」

ちなみに、俺たちの住む〇〇市△△町は全国屈指のラーメン激戦区で、
町内に100軒ものラーメン店がひしめいている。

「100軒もつぶすのか!??」
「そうだっ!! ほかの店も軒並み『バナナ』ラーメンをバカにしやがって!! ヤツラには『死』あるのみっ!!」
『北斗の拳』か、このおやじは。
まあ、1軒1万で100万円もらえるからいいか……。
「ちなみに数が多いから1軒につき千円だっ!!」
「ええっつ~~?!!」


こうして3か月後……、△△町のラーメン屋は1軒を除いて全滅した。
ちなみに『覇王』には、あいかわらず客は入っていない。



(了)

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