ショートショート「勝負」


俺の嫁の地元はえらい山奥なのだが、結婚を機に土地をくれるというので引っ越した。田舎ぐらしにも慣れ、知り合いの農家にきゅうりをたくさんもらっての帰り道のことだ。

なんと、川辺で河童と川獺(かわうそ)が相撲をしていた。そういえば、川獺は日本の昔話では妖怪あつかいだ。狸とならんで人を化かす川の妖怪だ。驚いたが、どちらも幼いようだ。小さい河童もかわいいし、川獺は元よりかわいい動物だ。二匹とも俺に気がついたが、相撲に夢中でそれどころではないようだ。

見ていると河童が負けてしまい、しょげて泣き出した。そうそう、と思い出し、持っていたきゅうりを渡してやった。案の定、河童はたちまち元気を取り戻し、また相撲を取り始める。すると、今度は川獺が負けてしまい、やはり泣きだした。すかさず、川獺にきゅうりをやるととたんに泣き止み、また相撲をはじめる。

河童も川獺も一進一退、実力は伯仲している。俺はどちらも応援しているので双方に負けるたび、きゅうりを渡す。小一時間もたったろうか、ついにきゅうりがなくなった。河童と川獺も相撲にあきたのか、俺にぺこり、と頭を下げ泳いで行ってしまった。

その日、嫁の実家で義父と酒を飲んでいるとその話になった。すると義父は
「なんだ、うまくだまされちまったな」
言われてはじめて気がついた。
「しまった、あれは俺からきゅうりをまき上げるための演技か……」
やつらも成功してうれしかったのか、俺に頭をさげてたな。
「でも、可愛かったろう?」
「次回もきゅうりをたくさん用意しなければなりませんね」

おわり





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#小説 #童話

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