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不倫しないための浮気

未来のパートナーのために

その彼がした浮気は将来、不倫しないための浮気であった。「未来の奥さんを傷付けないためだよ!」と男友達に誇らしげにに力説され、不思議と腑に落ちてしまった。浮気の基準が厳格な私にとったら普段なら他人事でも怒り心頭であったはずだ。それがなぜか、とても理に適っているように聞こえたのである。同年代の彼は20代前半まで浮気は無論、日替わりランチかのように女を替え、味変を楽しんでいた。そんな彼も20代半ばに差し掛かる頃から落ち着きを見せ始め、今に至る。

若くして結婚し、一つの蜜の味しか知らない族は男女問わず中年になった途端に燃えるような不倫に陥る傾向がある。子供たちが大きくなったことをいいことに、家庭をおざなりにしてまでだ。若くして幸せを掴んだのは良いものの、それはそれは、たいそう宜しくないことである。浮気は法に触れてはいないが、不倫は法に触れている部分があるからだ。離婚に陥るケースもあれば、多額のお金が動くケースもある。そこまでして、一蜜族には冒険をしたい理由があるのだろう。青春を取り戻したかのようにそうなる者もいれば、夫婦仲の問題でそうなる者もいる。 

あの伝説のアイドルの山口百恵大先生の「夏ひらく青春」という曲にこんな詞がある。

めぐり逢って好きになって
許しあって後で泣いたわたし
きっと夏のせいね
女として男として大人として
認めあった二人あつい出来事
あなたに対して憎しみは
ほんの少しも感じてないけど
美しい想い出がつらいの

この一連の歌詞が書かれた背景は分からないが、不倫の蜜の味がじわじわと伝わってくるような詞である。正しく大人の熟れた男女の青春が突如となく開花し、愛憎が交差しているといった感じだ。「あなたに対して憎しみはほんの少しも感じてないけど」とあるが、そんなはずはなかろうと思ってしまう。秘めた恋愛なのだから、愛憎が交差して当然なのである。もはや、それを前置きしてしまっている時点で、「憎」が前のめりしているようにしか聴こえない。そして、不倫とは愛憎の連鎖信号なのだろうと勝手に思っている。延々と「愛」と「憎」の信号がピカピカと交互に点滅し続け、まるでそれは止まることを知らないような感じだ。もはや、既婚者との恋愛経験もなければ、無論独身の私は想像することしかできない境地なのである。

件の男友達はその愛憎が入り混じった上に変な化学反応を起こさないように、若い時に浮気を「しておいた」ということである。ここまでくると彼の力説に納得させられたと言っても過言ではない。もはや、「超越した遊び人」と褒め称えたいのだ。恋の弄び方にも色んな類があるのだな。これぞ、恋のDiversityである。