マガジンのカバー画像

Word only or story

92
比較的文字量が多いもの
運営しているクリエイター

#宇宙

卵顔の女

卵顔の女

卵顔の女を知っているか、いやいや、そうじゃないお前の生活圏三km以内の、鼠の縄張りよりも狭苦しい、ごく限られた世界にいる、のっぺりとした顔をなんとか化粧で立体的に誤魔化している、つまらない人間の女ではない。
おれが言っていることは、本当に卵の殻のかんばせをもった女のことだ。
なんでも、鶏卵と同じ成分の、炭酸カルシウムと諸々のもので作られた女の顔は、なうての占い師が、両手で念波を送り、運命の女神に少

もっとみる
胎児の夢、─軟質な死、及び硬質な死─

胎児の夢、─軟質な死、及び硬質な死─

《胎児の夢、黄金の胎児と水蛭子の視る、正夢の創造史、反復説の取り成した垢、自の繁栄と他の蹂躙と名付けられた玉座に居すると勘違いした破滅の連鎖、生きている「もの」を知る前にそれらを流し込まれれば、恐ろしいと思えるのか、不可視の泡のそれぞれが一つの宇宙の雛形を成型する》

─軟質な死─
それ即ち生かす(活かす)為の死、古い層を押し上げ、新しい雛の魂を宿した糧の、模範となるもの、いつしか己が剥がされても

もっとみる
エルバベインの虎

エルバベインの虎

エルバベインの虎は、かなりの横暴者だった。
龍仙郷の谷間に降りて、霧の吐息を吐き、濃度の高い雨雲を呼んで、弦のような髭の摩擦で雷を
落とすのが、何よりの楽しみだった。
坊主が木炭と山羊の唾液と鼠の血を混ぜたもので、檀家の家の前に招副と拒禍の呪形を描いていると、必ずそれを鞭のような尾で拭い消し去って、錨よりも鋭い鉤爪で坊主を指さして、命ずるのだ。
「やい、そこのお前。天に轟く雷鳴よりも、千年生きた古

もっとみる
空の宇宙・硝子の胎内

空の宇宙・硝子の胎内

赤ん坊が、こちらを見ている。

私の目の前に、ひとつの不可思議な像が見える。
聖母マリア像を模したような、加えて観音か如来を足したような、古今東西の地域で崇められてきた地母神のような、表情の妊婦の像。
頭の髪先から、脚の爪先に至るまで、全身の全てが硝子で造られている。
その妊婦は、阿修羅像のように、手が二本に収まっていなかった。
一対の手は、それこそ天に人々の祈りを伝える聖母のように、嫋やかな指を

もっとみる
星を採る少年

星を採る少年

今夜も、少年のひと仕事がはじまります。
月長石の河原を、三日月を模した小船を少し頼りない腕で押しながら、天乃河(あまのかわ)へと進みます。
少年の仕事は、宙の星を採ることです。
少年はいつどこで生まれたのか、親は誰なのか、
一体何故この仕事をしているのか誰も知りませんでした。
少年自身も、それは知るところではありませんでした。
ただ気づいたら此処にいて、子羊が生まれてからすぐに自然に立ち上がるよう

もっとみる