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エッセイ:大ちゃんは○○である

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大学時代~役者を経て介護業界に飛び込み、現在までを綴るエッセイ。
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2020年8月の記事一覧

エッセイ:大ちゃんは○○である⑯

エッセイ:大ちゃんは○○である⑯

ガスコンロのつまみに手をかけた。
火をつけるため、つまみを左に回す。
カチッっと音がしたが、火はつかなかった。
『あれ?』と思ったが、まあまあよくあることだ。
「すみません、失礼しました。」と伝え、
気を取り直し、もう一度つまみを左に回して点火を試みる。
しかし…またも火はつかなかった。
『なんでだ?なんで点かないんだ?』
焦りからか、脂汗が頬を伝い脇が湿りだす。
「おいおいおい、大丈夫かよ。しっ

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑮

エッセイ:大ちゃんは○○である⑮

「お待たせ致しました。ご注文お決まりでしょうか?」
3人が待つテーブルに到着した僕は落ち着いた声を意識して問いかけた。
「とりあえず生中が2つとレモンサワー1つ。それから肉は…」
上下ジャージ姿の男はメニュー表を見ながら次々と肉の種類を読み上げていく。
僕はオーダーをとりながら
『おいおいおいおい、まじかよ。。夜中にどんだけの量食べんのよ。。牛2頭食べる気かよ。』と思ってしまったが、もちろん表情に

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑭

エッセイ:大ちゃんは○○である⑭

「少々お待ちいただいてよろしいでしょうか?」
そう言って僕は厨房へと走った。
「店長!今お客様3人来店されたんですが、ちょっと高圧的な感じの方達でして、対応お願いしてもよろしいですか?」
短~い距離しか走ってないのに、少し息が切れていたと思う。
「そっか。分かった。じゃあ、とりあえず15番の席にご案内して。」
店長は言った。
『えっ、案内しちゃうの?店長行ってくれないの?』
と思ったが、あまりあの

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑬

エッセイ:大ちゃんは○○である⑬

焼き肉店でアルバイトする中で印象的だった出来事2つ目は接客関係だ。
飲食店には本当に様々なお客様が来るが、
これがお酒を提供するお店ということになると、バラエティーに富んだお客様はますます増える。
家族の集まり、ユニークな集まり、ひょうきんな集まり、オタクな集まり、スケベな集まり、めんどくさい集まり、これ何の集まり?etc
といったように、まあ様々なグループが来店されるわけだが、
とある日の深夜の

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑫

エッセイ:大ちゃんは○○である⑫

なかなか言葉が出てこなかった。
まさかこんな展開になるなんて想像もしてなかったし、お父様が娘に変わって告白をしてくるなんて聞いたことがない。
そもそも後ろに立ってこちらを見つめている3人の男達は一体何者なんだ。
停まっている車と彼らの雰囲気から察するに、あくまで勝手な想像でしかないのだが
お父様をお慕いしている若い衆3人で、ちょっぴり怖い組織の方々なんだろうか。
もし仮にそうであるとするならば、こ

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑪

エッセイ:大ちゃんは○○である⑪

『えっ…?ぼ、僕?なになになになに?怖いんですけど…』
ドクドクドクと鼓動を早め出す心臓。なぜにこの強面のお父様は僕を探しているのか?
まさか!?あれがバレたのか!?
いやいやいやいや、あれも何もやましいことなんて一切何もない。
さやかとももちろん何もない。お父様が僕を探す理由なんてあるはずがない。
人間、『分からない』ことというのは本当に怖いものだ。
意を決して、お父様に向かって歩を進めてみた。

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑩

エッセイ:大ちゃんは○○である⑩

おそらく外見の変化であり、変化したことで生まれる自信みたいなものが
人生には3度訪れると言われる『モテ期』なるものの1回目を呼び寄せたんではないだろうか。
今はあまり派手な色の髪をした大学生っていないなあというのが僕の印象だが、
僕の大学生時代といったら日本人は一体どこにいるんだと探してしまうぐらい黒髪の生徒は少なかった。
ご多分に漏れず僕もその1人で、入学してすぐに髪の毛をまっ金金にした。
美容

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑨

エッセイ:大ちゃんは○○である⑨

大学生当時、アルバイトにも精を出した。
何せ、生活費やらサークルでの活動費やら交際費やらで、節約しても節約しても何かと出費はかさむものだ。
教科書が異常に高かった記憶もある。
『この講義を受けるのに、教授が書いたこの教科書を買って下さい。教科書に沿って講義は進んでいきますので。』なんて言われると買わないわけにはいかない。
それでまたその教科書というのが、大きな声では言えないがべらぼうに高いのだ。共

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑧

エッセイ:大ちゃんは○○である⑧

歌がうまい人の後に歌うというのは何とも嫌なものだ。
そんなに期待なんてされていないはずなのに、なぜだか勝手に自分でハードルを上げてしまう。
普段はバラードを歌うのが好きなので、バラード系でいこうかなと思ったが、
『いや、ちょっと待てよ。バラードなんてモロに実力分かっちゃうし、何より今のこの雰囲気に合ってないような気がする。』と思い、
12秒ほどの熟考の末、ここは一発ノリで乗り切ろうとブルーハーツの

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑦

エッセイ:大ちゃんは○○である⑦

終電はとっくに終わり、人通りのない駅前。
深夜の静けさで、自分たちの嬌声だけが響く夜の街。
テンションの上がった酔っ払いご一行は、それぞれが千鳥足で足をもつれさせながらカラオケ店へと向かった。
僕が住んでいたのは京都府にある亀岡市という所。
盆地になっており、夏はひどく暑く冬はひどく寒いというファンタジーな場所だ。
少し余談になるが、亀岡は戦国時代、明智光秀が織田信長の命を受けて築上した丹波亀山城

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑥

エッセイ:大ちゃんは○○である⑥

7人で始まった宴は、それはそれはひどいものだった。
乾杯からスタートし、とにかく皆飲むペースが早い。
ビールから始まり、ウイスキーの一気飲み。
挙げ句のはてにはウイスキーにポカリスエットの粉を入れて、じゃんけんの罰ゲームでそれを飲まされるといったことが繰り返された。
僕はお酒が弱いし、当時はまだ未成年。(公に言うことではないのだが)
「もう、飲めないですよ。」と言うと
「いいか、酒っていうのはな、

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エッセイ:大ちゃんは○○である⑤

エッセイ:大ちゃんは○○である⑤

右手にスーパーの袋を持っているイカツイ風貌の男はニヤニヤと笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「新入生?今日から入ってきたんでしょ?俺、岡本っていうの。よろしくね。」
その馴れ馴れしさたるや、板についたものだ。
人見知りなんて彼の辞書にはないのであろう。
一瞬で距離を縮めてこようとする雰囲気にも圧倒された。
よく見るとスーパーの袋には、缶ビールやらウイスキーやらがたくさん入っている。
「これからこ

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エッセイ:大ちゃんは○○である④

エッセイ:大ちゃんは○○である④

上京後のことを書く前に、下宿先でのエピソードも少しだけ書いておこう。
先に記した通り、大学時代に住んでいたのは家賃1万8000円のオンボロ部屋だった。
1棟に6畳の部屋が5つあり、1階に1部屋と共同の台所。
2階に4部屋がそれぞれあるといった作りになっていた。
築年数でいうと、40年ぐらいは経っていただろうか?
そんな棟が3つ並んで建っており、
敷地内には共同のシャワー室が1つ。共同のボットン便所

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エッセイ:大ちゃんは○○である③

エッセイ:大ちゃんは○○である③

サークルでの活動は充実していたが、やはり欲というものが出てくる。
プロの撮影現場とはどういうものなんだろう?と興味をもち、
参加してみたいと思うのは当然のことだった。
そこでエキストラ募集がある時には通知がくるというサイトに登録をした覚えがある。
初めて行った現場はたしか、ユニバーサルスタジオジャパンのCMエキストラだったんじゃないか。
USJがオープンするということで、オープン前の夜中のパークに

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