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エッセイ:大ちゃんは○○である⑧

歌がうまい人の後に歌うというのは何とも嫌なものだ。
そんなに期待なんてされていないはずなのに、なぜだか勝手に自分でハードルを上げてしまう。
普段はバラードを歌うのが好きなので、バラード系でいこうかなと思ったが、
『いや、ちょっと待てよ。バラードなんてモロに実力分かっちゃうし、何より今のこの雰囲気に合ってないような気がする。』と思い、
12秒ほどの熟考の末、ここは一発ノリで乗り切ろうとブルーハーツの『リンダリンダ』を歌うことにした。
「じゃあ、歌います!」と立ち上がってマイクを持つ。
すると先輩の中の1人がモニターに写し出された文字を見て
「おっ、リンダリンダっ!これ好きだわーー!」とテンションが爆上がりする様子が見てとれた。
イントロがかかり始めると他の先輩達も爆上がりした先輩に呼応するように爆上がりしていく。
『ど~ぶ~ね~~~ずみ』と僕は歌い始めたが、室内を見回すともはや同じ新入生の松岡以外僕の歌を聞いてる人なんていない。
だって、先輩方各々がどんどん服を脱ぎ捨てていって…
どんどんどんどん床とソファーに服が重ねられていって…
どんどんどんどん先輩方の姿が変わっていって…
何て言うんだっけ?えっと、、、
こういうの何て言うんだっけな。
あっ、そうだ!スッポンポンだ!スッポンポン!
本当に嘘みたいな光景なんだが、本当の光景。
スッポンポンですよ!俗に言うスッポンのポンですよ!(何回言うんだって)
20歳を過ぎた5人の男達が、スッポンポンでリンダリンダのリズムに合わせて跳び跳ね狂っている。
アフリカのどこかの部族だって、もう少し隠すところは隠して跳び跳ねるだろうに。
そんな空間の中で、歌い続ける僕とあまり顔色を変えないまま座っている松岡。
地獄絵図である。もしも、このタイミングでチャーミングな女子店員がドリンクを持ってこの部屋来ようものなら
即刻110番しちゃうような地獄絵図である。
そして、、
曲もクライマックスに差し掛かろうという頃だっただろうか。
テンションの上がりきった、先輩方が所狭しと暴れ回りカラオケのモニターは割ってしまうわ、グラスは飛び散るわ、ソファーはひっくり返すわ。
そんな大惨事の結果はというと…
まあ、もちろん出入り禁止になりますよね。
見事なまでに酔っ払いご一行はそのカラオケ店を出入り禁止になった。
その後のことは、、先輩方々が誠心誠意頑張ってくれたんだと思う。
というわけで、僕の記念すべき一人暮らし初日はこうして長い年月が経った今でも鮮明に当時の状況を思い出すことができるような、ワンダフルな一夜になったわけだ。

その時は嫌だなあと思うこと。辛いなあと思うこと。面倒くさいなあと思うこと。
経験してないからこそ分からないことも若い時には、それはそれはたくさんあると思う。
僕もそうだった。まだまだ若輩者の僕だが、きっとその『経験したこと』がどんな種類のものであれ、自分を作っていく糧になるはずだ。
悩みなんて大なり小なり皆が持っているものかもしれないが
失敗したくないから悩むのであって、失敗してもいいんだと考えを変えると大概の悩みはなくなるような気がする。
もちろん周りに多大な迷惑をかけるような失敗は良くないとも思うのだが。
先のことなんて誰にも分からないし、それぞれの人生に答えなんてないのだから
『とりあえずやってみようか』のスタンスで色々な経験をしていけば、またそこで考えることができるんだと思う。
自分がやってみたいこと、誘われて、そうでもないことの2つで分かれるし
はっきりいってこんなことはどっちでもいいっちゃあいいのだ。
でもあえて、『経験すること』に焦点を当てるとして、
例えば、飲み会に誘われた→行きたくない→行かないだと、そこで話は終わってしまう。
例えば、好きな子がいる→付き合いたい→フラれるのが怖いから告白しないだと何も起きない(と思う)。
結果を見てみて、なんでこういう気持ちなんだろう?とかなんでこういう結果になったんだろう?と考えるだけでも、経験値の積み重ねになって
次に進んでいけるんじゃないだろうか。

少し話が逸れたが、この一人暮らし初日に起きた経験もその時は辛かったが、確かに自分の経験値として蓄積されている。
『リンダリンダ』を聴くたびに、この時の光景を思い出し、クスッと笑えるような確かな僕の1ページだ。

つづく

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