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エッセイ:大ちゃんは○○である④

上京後のことを書く前に、下宿先でのエピソードも少しだけ書いておこう。
先に記した通り、大学時代に住んでいたのは家賃1万8000円のオンボロ部屋だった。
1棟に6畳の部屋が5つあり、1階に1部屋と共同の台所。
2階に4部屋がそれぞれあるといった作りになっていた。
築年数でいうと、40年ぐらいは経っていただろうか?
そんな棟が3つ並んで建っており、
敷地内には共同のシャワー室が1つ。共同のボットン便所が1つ。共同の洗濯機が2つ。共同の洗濯干し場が1か所あり、まあ当時を考えてみたとしても
なかなか素敵な所に住んでいたんじゃないかと思う。
共同トイレが1つしかないは、さすがにどう考えても足りないと思っていたが。。
そんなひしめき合った住居に18~22,3歳ぐらいまでの元気な男達が15人前後も住んでいるわけだから騒がしくないわけがない。
僕が入居したのは入学式の前日だった。
隣の部屋にも新しく1人入ってきたようで、挨拶をしに行くと、
北海道から今日来たという僕と同じ新入生だった。

親元を離れ、初めての一人暮らし。誰もが最初は抱く期待と不安。
『自由だ~~~~~』という爆発しそうな感情。
人口2万人弱の小さな町から出てきた僕には、翌日から起こるであろうこと全てが刺激的だったし、ワクワクしていた。
荷ほどきも一段落し、お腹も空いてきたので小さなコタツテーブルの前に座り1人で夕飯を食べた。
何を食べたのか覚えているもんだから自分でもスゴいと思うのだが、
記念すべき一人暮らし初の夕飯は冷凍のエビドリア。
それまではありがたいことに母親が食事を用意してくれ、洗い物をしてくれ、全部をやってくれていたわけで。
これからは全部自分でやらなければいけない。
片付けなければ部屋は散らかったままだし、洗わなければ食器は汚れたままだ。
エビドリアのチンも、容器を捨てるのも、スプーンを洗うのも全部自分でやらなくてはいけない。
何言ってんだ、当たり前だろとツッコミが聞こえてきそうだが。何せ1人なのだ。
そんなわけで、電子レンジと格闘の末出来上がったエビドリアを食べ終えるとホッとしたのか急に睡魔が襲ってきた。
朝から動き通しだったし、ガラッと変わった環境の変化からくる疲れもあったんだろう。
まだ時間は早いが、明日は朝から入学式もあることだし、このまま寝てしまおうかと思った。
他の部屋の方々には明日挨拶に回ろう。シャワーも…明日の朝でいいやと。
布団を引っ張りだし、横になる。
電気を消して目を閉じる。
『他の部屋にはどんな人達が住んでるんだろう?
先輩達は優しいだろうか?隣に入ってきた奴以外にも同じ新入生はいるのかな?』
みたいなことを考えていると、自然と眠りの世界に堕ちていった。

……と思ったら
ドンドンドン!!ドンドンドン!!
誰かが扉をノックしている!
慌てて時計に目をやると、時刻は22時40分。
『誰だ……』
入居初日の夜にこの時間の謎の来客者、そして謎の来客者のこのノックの仕方は恐怖でしかないのだが、仕方がない。
再び電気をつけ、恐る恐るドアの方に足を進めた。
「ど、どちらさまでしょうか?」
絞り出すように声を出して問いかける。
するとドアの向こうからは、やけに低い声で
「こんばんは~。ちょっと開けてよ。」との声が返ってきた。
嫌な予感がしたが、いや、嫌な予感しかしなかったが
ガチャっと鍵を開け出入口のドアをスライドし、夜の訪問者を確認した。
そして対象者をはっきりとこの目で確認した瞬間、
『開けなきゃよかったー。。狸寝入り決め込めばよかったー。。』と強く強く後悔した。
目の前にいたのは、金髪のオールバックに濃いめのサングラス。
派手なネックレスにミンクのコートを羽織ったイカツさ100点満点の男が、俗に言うヤンキー座りでピースしており笑っていたのだ。
「チ~~~~~っす!」
静かな夜にメリーゴーランドに乗る夢を見るのは無理かもしれないなと僕は思った。

つづく

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