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エッセイ:大ちゃんは○○である⑫

なかなか言葉が出てこなかった。
まさかこんな展開になるなんて想像もしてなかったし、お父様が娘に変わって告白をしてくるなんて聞いたことがない。
そもそも後ろに立ってこちらを見つめている3人の男達は一体何者なんだ。
停まっている車と彼らの雰囲気から察するに、あくまで勝手な想像でしかないのだが
お父様をお慕いしている若い衆3人で、ちょっぴり怖い組織の方々なんだろうか。
もし仮にそうであるとするならば、ここでお断りをした僕はどうなってしまうんだろうか。

頭の中を良からぬ思考がぐるぐるぐるぐる回っている。
「すみません!大変ありがたいお話ではあるんですが、今お付き合いをしている彼女がいまして。
本当に申し訳ないんですが、お断りさせていただきます。」
お父様の顔色がさーっと変わる。
「あ?断る?どういうこと、それ?わざわざワシが出てきて、こんな時間に可愛い可愛い娘の願いを代弁してんのに、断るってどういう神経してんだ、お前!そんなもん、今付き合ってる彼女だかなんだか知らねーけどよ、別れてウチのさやかと付き合えばいいんじゃねーのか?そうだろ?」

「本当に申し訳ありません。でも、それはできないです。」

「できねーだー?ふざけんじゃねーぞ!お前よぉ、こんだけワシらに恥かかせといてタダで済むとは思ってねーよな?おい、お前ら!」
その一言で若い衆3人が僕に向かって突進してくる。
「ナメたこと言ってんじゃねーぞーコラーっ!」
3人から殴る蹴るの暴行を受け続けた僕は、地面に突っ伏したまま、意識を失い朝を迎える。

なーんて、良からぬ妄想は走り出したら止まらないわけだ。
どうなっても仕方がない。僕は腹を括って切り出した。
「すみません!大変ありがたいお話ではあるんですが、今お付き合いしている彼女がいまして。
本当に申し訳ないんですが、お断りさせていただきます。」
すると、3,4秒の沈黙の後お父様は少し笑いながら口を開いた。
「そうか。そうかそうか。彼女がいるんじゃしょうがねーな。さやか、そういうことだ。諦めろ!
いやいや、バイト終わりのこんな夜中に悪かったなぁ。気ぃ悪くしないでくれ。でも、こいつの気持ちも分かってやってくれな。俺もでしゃばって出てきちゃったけど、俺に打ち明けてくるってよっぽどのことだと思ったからな。1人で悩んでたみたいだからよ。まあ、ちゃんと言ってくれてよかったわ!
彼女のこと大切にしろよ!」
さやかの方に目をやると、さやかは泣いていたが「ほら、行くぞ。」とお父様に肩を抱かれ車へと乗り込んでいった。
結局若い衆3人のことはよく分からなかったが、そんなことはもうどうでもよかった。
ホッとしたのと、傷つけてしまったなあという気持ちと、怖かったーという気持ちが入り交じって
口では説明できない何とも言えない感情になったのを思い出す。
本当に人生というのは思いもよらないことが起きたりするものだ。
好意を抱いてくれた女の子の親御さんから本人の代わりに告白を受けるなんて本当に吃驚仰天の出来事なわけで。
自転車に跨がっての帰り道。
真っ暗で静かな静かな中距離の帰路は、ちょっぴりセンチメンタルな匂いがした。

つづく

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