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エッセイ:大ちゃんは○○である⑪

『えっ…?ぼ、僕?なになになになに?怖いんですけど…』
ドクドクドクと鼓動を早め出す心臓。なぜにこの強面のお父様は僕を探しているのか?
まさか!?あれがバレたのか!?
いやいやいやいや、あれも何もやましいことなんて一切何もない。
さやかとももちろん何もない。お父様が僕を探す理由なんてあるはずがない。
人間、『分からない』ことというのは本当に怖いものだ。
意を決して、お父様に向かって歩を進めてみた。
「あ、あの。大門は僕ですが、何かありましたでしょうか?」
店長をはじめ、バイト仲間達も皆手を止めてこの状況を見守っている視線が僕の背中にビンビンに伝わってきた。
「おー、君が大門くんか。いやあ、他でもないんだけどね、ちょっとお話したいことがあるから、仕事終わった後にちょっとだけ時間作ってくれないかな?」

「えっ、終わった後ですか?今日のシフト2時までなので終わってからだとかなり遅くなっちゃいますけど。」

「大丈夫大丈夫。じゃあ、2時半ぐらいに○○に来てもらってもいいかな?分かる?そんなに時間はとらせないから。」

「は、はぁ。大丈夫ですけど…分かりました。では終わりましたら、○○に向かわせてもらいます。」

「悪いね。じゃあ、よろしく頼むわ。さやか頑張れよ。店長、うまかったわ。ごちそーさん。」
お父様はさやかに声をかけ、店長にお礼を伝えた後、肩で風を切るような歩き方で店を出ていった。
僕は「ふぅ~~~っ」と一つ大きな息を吐いた。
それから、さやかに目を向け問いかけた。
「なになに?お父さん、俺に話ってなんなの?さやかちゃん何か言ったの?」
さやかはややうつむき加減で首を横に振り
「分からないです。」と言った。
分からないわけないでしょー!と思ったが、それ以上追及するのはやめた。
いずれにせよ仕事終わりにはお父様の指定された場所に行かなければならないし、嫌でもそこで呼び出された理由が分かるから。
とってもとっても怖かったが、すっぽかす方がよっぽど怖いので、覚悟を決めて僕は仕事に集中した。
忙しさと共に時間は流れていく。
高校生のさやかは先に仕事を上がり、更に時間は流れていった。
ラストオーダーの1時半を回り、片付けと掃除を始める。約束の時刻が近づいてくる現実にまたも心臓は駆け足を始めた。
全ての仕事を終え、着替えを済ました僕は
「では、失礼します。お疲れさまでした。」と店長に挨拶をし、店を出た。
約束の時間まであと15分。少し急ぎ足で指定された場所まで向かった。
2時半になる少し前に到着した僕は驚いた。
お父様はもちろんのことだが、その場所には真っ黒な車が3台停まっており、眼光鋭そうな若い男の方が3人ほど立っていて
なんとお父様の隣にはさやかも立っていたのだ。
『なに…この状況…』そう心で呟いてから、僕は声を絞り出した。
「こんばんは。遅くなってすみません。」
そう言うと、お父様が
「おー、お疲れさんお疲れさん。悪かったなあ、こんな時間に呼び出して。」と笑いながら僕に言葉を返してきた。
この時間の強面の笑いながらの詫びめいたものも、また怖いんだ。。
「いえいえ!あの、それで、用件というのは何なんでしょうか?」
恐る恐るお尋ねすると、お父様は笑みを浮かべながら
「こういうことを俺が言うのもどうかと思うんだけどな、こいつが大門くんのことを好きになったらしいんだわ。最初聞いた時はどうしたもんかと思ったんだけどな、自分から言えないなんて言うもんだから可愛い娘の為に一肌脱いでやるかと。びっくりしたかもしれないけどよ、大門くん娘と付き合ってやってくれねえか?」
お父様の後ろに立つ謎の3人の男。さやかに、お父様。そして僕。
どんな状況なのよ、これ。とツッコミたくなるくらい、おかしな状況だった。

つづく

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