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エッセイ:大ちゃんは○○である⑭

「少々お待ちいただいてよろしいでしょうか?」
そう言って僕は厨房へと走った。
「店長!今お客様3人来店されたんですが、ちょっと高圧的な感じの方達でして、対応お願いしてもよろしいですか?」
短~い距離しか走ってないのに、少し息が切れていたと思う。
「そっか。分かった。じゃあ、とりあえず15番の席にご案内して。」
店長は言った。
『えっ、案内しちゃうの?店長行ってくれないの?』
と思ったが、あまりあの3人を待たせておくのもよろしくないと思ったので
「わかりました。」
と言って、すぐに3人が待つ出入口へと引き返した。
「お待たせ致しました。ではお席にご案内致します。」
緊張しながら、15番の席まで誘導する。
15番の席、、厨房から一番遠いボックス席。
店長に何か考えがあるのだろうか?そんなことを考えながらフロアを歩いた。
『しかし、席に案内したからにはオーダーをとらないわけにはいかないしなあ。とりあえず飲み物の注文だけでもとっとくか。』
ボックス席の片側奥に夜の蝶。その隣に紳士。
もう片側にジャージ男が1人で座った。
「では、お飲み物お決まりになりましたら、呼び鈴でお知らせ下さい。失礼致します。」
そう言って、僕は厨房に戻り、店長にご案内が終わったことを告げた。
「飲み物の注文すぐに入ると思うんですけど、その後はどうしますか?店長対応していただけます?」
そう言うと店長は
「今、マコさんとも話してたんだけどCLOSEの看板出してきたから、あの3人が最後のお客様としてオーダー通り提供しちゃおう。ちょっと残業になっちゃうけどさ。俺ら2人で厨房やるからホール対応お願いしていい?大ちゃん時間は大丈夫?」
と包丁と皿を並べながら言った。
あっ、ちなみにマコさんとは副店長の愛称だ。
さすがにこの状況で
「時間ちょっと厳しいんですよね~。申し訳ないんですが、2時になったら上がらせていただきます。チョリーっす。」
とはさすがに言いづらい。あの3人の接客は嫌だったがやるしかなかった。
「はい、大丈夫です。分かりました!」と答えると、ちょうど15番の呼び出し音が鳴った。
「じゃあ、オーダー行ってきます。」
「よろしくーー!」
店長とマコさんの声を背に受けながら、僕は15番テーブルへと向かった。

つづく

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