マガジンのカバー画像

読書感想文

24
読書好きとつながろう!
運営しているクリエイター

記事一覧

ひとなみ/ひとなみ(藤波えりか、金森人浩)

ひとなみ/ひとなみ(藤波えりか、金森人浩)

フォロワーの藤波えりかさんが携わっているというので、探してゲットした歌集。藤波えりか、金森人浩の短歌ユニットで「ひとなみ」というらしい。名前からとったユニット名だろうか、等身大で生きている感じが出てとてもよいですね。東京の文学フリマで買ったのですが、その時は可愛い栞や冊子もついてきてうれしかったです!

内容は自由詠やテーマ詠、相聞歌やいちごつみなどを含む140首。なかなか面白く読ませていただきま

もっとみる
やわらか視線論/完全にもうやめた

やわらか視線論/完全にもうやめた

前回に引き続き、おしまいさんと笹沼鹿さんのユニット「完全にもうやめた」の歌集をゲットしたので、感想を書こうかなと思います。まず表紙が美しい。ビルの影になった歩道橋に、淡いイラストの女の人が立っている。写真の上から絵の具を落としたような色が重ね合わさり、柔らかな景色を幻出させている。目を引いた歌をすこしピックアップして見ていこうと思います。

目の前の喧嘩に目を奪われて、日常の感情部分を置き去りにし

もっとみる
完全にもうやめた/完全にもうやめた

完全にもうやめた/完全にもうやめた

 文学フリマの会場で、短歌のブース辺りを歩いていてふと表紙が目に留まったので購入。20頁で8篇の65首を掲載。このブースをお二人でやっていらしたが、その二人(笹沼、おしまい)がユニットとして活動されているらしい。

 あ、いいな、と思った短歌がいくつかあったので紹介。

 この生きることと死ぬことの境を曖昧にする表現に惹かれました。補充は生きるための行為、それはそう、しかしそれは酔うためで、入眠を

もっとみる
天国一丁目/水庭まみ

天国一丁目/水庭まみ

 文学フリマ東京35で購入。
「天国一丁目」、筆者は水庭まみ(@njamena22)

 14篇の詩と、20首余りの短歌が収録されています。
 詩集なのでページ数は40頁と少なめですが、14の詩の14の世界がいちいち新鮮で、緻密に選ばれたその語彙の連なりが、1篇の詩に充分なふくらみと豊かさとかおりと音を吹き込み、夢の球体のようになっていて、たくさんの夢を通過する、そんな感じの読書体験でありまして、

もっとみる
僕らのスキスキ読書クラブ #3 ~『かわいそ笑』~

僕らのスキスキ読書クラブ #3 ~『かわいそ笑』~

課題本:「かわいそ笑」(梨、2022年)

<導入~ちっぽけなプライド>

夜空「こんばんは」
かみしの「こんばんは」
夜空「かみしのさん、気づいちゃったんですよ」
かみしの「おっ、気づきました?」
夜空「怖いね……」
かみしの「怖いよ?」
夜空「生きるって怖いね……笑」
かみしの「生きるのが怖いのは、まあそう」
夜空「これからもそう?」
かみしの「これからもそう。ずっとずっと」
夜空「ええ、そん

もっとみる
中村文則『遮光』、読書メモ

中村文則『遮光』、読書メモ

以下、『遮光』読書会(https://note.com/yozora/n/ne60c2af7326c )時のメモです。

冒頭のサルトル、エロストラートと銃
が、カミュも
太陽が眩しいから殺した、というカミュの異邦人が想起される。ペストのような細かな心理描写。講演で意識してないとは言うものの、その講演でもカミュを扱っており、彼とフランス文学の親近性が窺える。

見られている感覚
悲しいからなくのか

もっとみる
僕らのスキスキ読書クラブ #2 ~『遮光』~

僕らのスキスキ読書クラブ #2 ~『遮光』~

課題本:「遮光」(中村文則、2004)

<演技と感情>夜空「えっと、第二回僕らのスキスキ読書クラブをやります」
吉田「はい!」
夜空「今回は中村文則の『遮光』ですね。遮る光と書いて、『遮光』をね。やっていこうと思うんですが。えっと、どんな感じでした? 読んで幸福になる小説とそうでないものがあるとして、楽しくなったりとか、どうでした、読後感は?」
吉田「読後感……まあ、そうだよな、と思いました(笑

もっとみる
僕らのスキスキ読書クラブ #1 ~『パーク・ライフ』~

僕らのスキスキ読書クラブ #1 ~『パーク・ライフ』~

課題本:「パークライフ」吉田修一

〈東京の片隅〉夜空「始まりました、僕らのスキスキ読書クラブ。第一回目ということで」
吉田「いぇい!」
夜空「吉田修一の『パークライフ』をね、やります」
吉田「はい」
夜空「あのー読みましたか? っていうか覚えていますか、内容を」
吉田「読みましたよ」
夜空「なんかね、こう、印象って言うか、どんな感じすかね、これは」
吉田「印象?」
夜空「そう、どんな印象を受けま

もっとみる
読書記録015「廃屋の幽霊」(福澤徹三)

読書記録015「廃屋の幽霊」(福澤徹三)

ホラーを読もうプロジェクト。筆者である福澤氏は、『残穢』(小野不由美)の作中に平山夢明氏と並んで出てきたキーパーソンの一人でもあった。本作の解説も平山氏であり、界隈での横の繋がりを感じる。

表紙はこれぞホラー!という風だが、いい意味で予想を裏切られた。

短編集だが、どの話も泥臭く生活の厭な臭いが染み込んでいる。実話ホラーで脱色されがちなリアリズムが心地良い。それでありながらオチは見事にホラー調

もっとみる
読書記録014「鈴木ごっこ」(木下半太)

読書記録014「鈴木ごっこ」(木下半太)

一つ屋根の下、一軒家にそれぞれ見知らぬ四人が集められ、「鈴木」を名乗ることに。四人には多額の借金があり、それを返済するには一年間「鈴木」として暮らすだけでいい……。

集められたのは四人だ。主人公の小梅、大学生くらいの青年、三十前半のスーツの男、そして五十過ぎの中年の男。主人公の小梅に母、青年に息子、スーツの男に夫、中年男におじいちゃんという役割が割り振られ、共同生活がスタートする。

突飛な設定

もっとみる
「エモーショナルきりん大全」雑感、幻視者としての悔悟

「エモーショナルきりん大全」雑感、幻視者としての悔悟

『エモーショナルきりん大全』(上篠 翔、書肆侃侃房 、2021)

フリッツ・ラングを引くまでもなく、ましてや西田幾多郎を引くまでもなく、あまつさえヘラクレイトスを引くまでもないし、もちろんパスカル・キニャールを引くまでもない。別にだれの言葉も引用も必要がない。なぜならここには彼の文字があるのだから。上篠翔の文章がある。だからそれについて語ろう。それ以外のすべては必要ない。少なくとも今は。

なん

もっとみる
読書記録013「山ん中の獅見朋成雄」(舞城王太郎)

読書記録013「山ん中の獅見朋成雄」(舞城王太郎)

舞城王太郎の作品を読むのは、「スクールアタックシンドローム』以来、約一年ぶりだった。定期的に摂りたくなる癖の強い料理のような、そんな魅力を舞城作品は持っている。
獅見朋成雄(しみともなるお)という高校生が主人公なのだが、彼は背中に先祖由来の獣のタテガミを生やしていて、それをコンプレックスにしている。
舞城の魅力の最たるものはその文体にある。(本作では、それはもちろん音の描出として表現される。)舞台

もっとみる
読書記録012「ハイドラ」金原ひとみ

読書記録012「ハイドラ」金原ひとみ

 新宿に住むモデルが主人公であり、舞台設定としてはかなり華々しいものである。が、それと対照をなすかのように、モデルをしている主人公早希の内面はあまりにも暗い。早希は、有名なカメラマンである新崎と付き合っているものの、新崎の淡白な態度やほかの女に乗り換えられてしまうのではないだろうかという不安に絶えず脅かされている。恋愛という実感は薄い。またそこには仕事上の不均衡、新崎はほかの女優やモデルも撮るが、

もっとみる
読書記録011「感情教育」フローベール

読書記録011「感情教育」フローベール

 金持ちで学識もある主人公フレデリック君のアプローチにヒロインたちはしばしば気を許し、イベントも発生するのだが、肝心なところでフレデリック君の優柔不断やその場の感情に流されてしまう性格が裏目に出てしまい、関係は思うさま上手く結実しない。言ってみればこれは、「複数のヒロインに目移りしていてたら正規ルートを逃してしまう青年の物語」なのである。フレデリック君は子供っぽく場当たり的で、誠実さもなく思いやり

もっとみる