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読書記録015「廃屋の幽霊」(福澤徹三)

ホラーを読もうプロジェクト。筆者である福澤氏は、『残穢』(小野不由美)の作中に平山夢明氏と並んで出てきたキーパーソンの一人でもあった。本作の解説も平山氏であり、界隈での横の繋がりを感じる。

表紙はこれぞホラー!という風だが、いい意味で予想を裏切られた。

短編集だが、どの話も泥臭く生活の厭な臭いが染み込んでいる。実話ホラーで脱色されがちなリアリズムが心地良い。それでありながらオチは見事にホラー調となっている。印象として、ホラーはホラーなのだが、文章の書き方の見事さの方に、つまりは生活の質感に目を奪われがちである。雰囲気を楽しめる、といえば伝わりやすいだろうか。

特によかったのは『市松人形』、題名のホラー感とは裏腹に完全なプロレタリア作品である。先日読了した花村萬月『守宮薄緑』を彷彿とさせる。書き方として、私の好きな藤沢周や車谷長吉なんかとも近い趣きがある。

生活の困窮により、心霊のことにはさほど興味を向けられない、その余裕のない作中人物がそれでも極限の恐怖体験に巻き込まれる。自らハードルを設け、それを力強く飛び越えていく筆力に驚かされる。

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