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和歌から『とはずがたり』を読む

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『とはずがたり』の和歌を取り上げ、登場人物たちの心情を読み解いていきます。
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和歌から『とはずがたり』を読む7

和歌から『とはずがたり』を読む7

和歌13 著者(父の死を嘆きて) いよいよ著者の父の最期です。
 父は、幼少より仕えていた仲光とともに1時間ほど念仏をしました。まだ念仏の途中で眠ってしまった父を著者は起こします。
 すると、父は目を覚まし著者の目をじっと見て、
「なにとならんずらん(私が死んだ後あなたはどうなるのだろうか)」
と、著者の行く末を案ずる言葉をかけて亡くなります。
 時は文永9年8月3日、午前7時過ぎ。享年50。

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和歌から『とはずがたり』を読む 6

和歌から『とはずがたり』を読む 6

和歌11 大納言(著者の父)→後深草院◯著者が後深草院のことを受け入れた後、後深草院の父の後嵯峨院が病気のため崩御しました。著者の父の大納言は後嵯峨院への忠誠心が大変篤い人物で、後嵯峨院の死を受けて出家することを望みました。しかし、後深草院は許可を出さずにいました。

そんなこんなしている内に、大納言が病気にかかりました。著者は不安にかられている中、後深草院の子を身ごもったことがわかります。しかし

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『問はず語り』を和歌から読み解く5

和歌9 院→著者かくまでは思ひおこせじ人しれず見せばや袖にかかる涙を

(こんなにあなたのことを恋しく思っていても、あなたは気づかないでしょう。ああ、こっそりとあなただけに見せたいよ。涙で濡らした私の袖を。)

前回、初夜のあと著者は後深草院に御所へ連れてこられました。それから10日ほどが経ち、院は毎晩著者を抱くためにやってきました。
著者は「煙の末」などの言葉を贈った恋人の実兼のことを思いつつも

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『問はず語り』を和歌から読み解く4 お持ち帰りされながら

和歌8 作者の心の中鐘の音におどろくとしもなき夢のなごりも悲し有明の月


鐘の音で起きたのではなく、ただただ夢の中のような愛の名残に切なく思うの。有明の月が出てる。

初めて院に抱かれた作者が、院にお持ち帰りされてしまうシーン。そこで作者は自分のことを『伊勢物語』や『源氏物語』に登場する、男性に持ち帰りされてしまう女性キャラに重ねて、この歌を心の中で静かに詠みました。

夜が明け、院に純潔を奪

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『問はず語り』を和歌から読み解く3

和歌7  作者
院におしたおされて心よりほかに解けぬる下紐のいかなるふしに憂き名流さん


心ならずも下紐が解けて院と結ばれてしまった。どんなきっかけで浮いた噂が広まるのだろう。

 
ついに作者は院と結ばれてしまいました。この時の院は「うたて情けなく」(ひどく、思いやりもなく乱暴に)作者を押し倒し、……ました。
一夜明け、浮いた噂が広まるのだろうか、そうしたら実兼のことを傷つけてしまうと、きれ

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『問はず語り』を和歌から読み解く2

和歌4 後深草院→作者あまた年さすがに馴れし小夜衣重ねぬ袖に残る移り香


長年連れ添ってきた仲なので、ともに寝ることができなくても自然と私の袖にあなたの香りが移ってきたよ

実は、作者は4歳の時から院のもとで育てられていました。院は、作者が幼い頃から接しており、「あまた年さすがに馴れし」(長年連れ添ってきた仲)と自負していたのでしょう。作者と実兼との関係を知らず…。

この歌を贈る前日、院は作

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男女の情愛を暴露した『問はず語り』を和歌から読み解く①

『問はず語り』について作者は、源雅忠の娘。昔の女性の名前が分からないのはよくあることです。
書名は「誰も尋ねていないのに語る独り言」というような意味。聞かれたくないような聞いてほしいような、複雑な思いを感じます。結びには「そのおもひをむなしくなさじばかりに、かやうのいたづらごとを、つづけ置き侍るこそ。」(寵愛を受けた後深草院への思いを儚く散らしてしまうのも忍びないので、このような無駄でみだらなこと

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