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和歌から『とはずがたり』を読む7

和歌13 著者(父の死を嘆きて)

わが袖の涙の海よ三瀬川に流れて通へ影をだに見む

『とはずがたり』佐々木和歌子訳     
光文社 2019

 いよいよ著者の父の最期です。
 父は、幼少より仕えていた仲光とともに1時間ほど念仏をしました。まだ念仏の途中で眠ってしまった父を著者は起こします。
 すると、父は目を覚まし著者の目をじっと見て、
「なにとならんずらん(私が死んだ後あなたはどうなるのだろうか)」
と、著者の行く末を案ずる言葉をかけて亡くなります。
 時は文永9年8月3日、午前7時過ぎ。享年50。

 著者は、最期の最期で声をかけてしまったことを後悔します。念仏を唱えながら安らかに往生させてあげれたら…私のことを案じながら未練を残して死なせてしまった、と。これは仏教の教えが色濃く影響した考え方です。(いつか取り上げてみたいと思います。)

そして、著者は父を見送った後家に帰り、先程まで父がいた部屋を眺めながら今回の歌を詠みます。

「わが袖の涙の海よ三瀬川に流れて通へ影をだに見む」
―私の涙でできた海よ。三途の川へ私を流して父の姿を見せてください。―

その歌は「むなしきあと(空っぽになった部屋)」に響いたことでしょう。

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