悠楽古典

某神社の神主。神主として古典(古文・漢文)を研究。「古典」は叡智の結晶。 古文・漢文の…

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某神社の神主。神主として古典(古文・漢文)を研究。「古典」は叡智の結晶。 古文・漢文のみにこだわらず、様々なジャンルの古典的名著も取り上げていきたい。

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『問はず語り』を和歌から読み解く5

和歌9 院→著者かくまでは思ひおこせじ人しれず見せばや袖にかかる涙を (こんなにあなたのことを恋しく思っていても、あなたは気づかないでしょう。ああ、こっそりとあなただけに見せたいよ。涙で濡らした私の袖を。) 前回、初夜のあと著者は後深草院に御所へ連れてこられました。それから10日ほどが経ち、院は毎晩著者を抱くためにやってきました。 著者は「煙の末」などの言葉を贈った恋人の実兼のことを思いつつも、院に抱かれている優柔不断な自分に対して自己嫌悪になってしまいました。 そして

    • 吉田松陰と論争した朱子学の大家 山県太華『非聖弁』3

      太華は、聖人の行いは天の理と同じであるので、これを批判することなどできないと主張しています。これは、吉田松陰から見れば「聖賢に阿(おも)ねる」=聖人の言行に迎合するものでした。 松陰にとっての聖人とは、あくまでも人間であり無条件に崇拝する対象ではありませんでした。 原文 易の繋辞中庸の書など皆天と聖人とを合はせ説くこと弁別し難きが如し。此れ実に聖人の徳天と斉しきゆえに後の聖賢よく是れを知りてかくの如くは説き玉へるなり。然れば聖人の為し給へることは一毫も天理に違ひたることある

      • 原典(情報源)を読む大切さ 吉田松陰「夢なき者に理想なし。…」は本当に松陰の言葉か? ―フェイクニュースに騙されないために―

        原典=情報源(ソース)にあたるべし吉田松陰の言葉としてビジネスの研修でよく取り上げられるものがあります。それは、 「夢なき者に理想なし。理想なき者に計画なし。計画なき者に実行なし。実行なき者に成功なし。故に夢なき者に成功なし。」 です。 聞いたことがある方も多いかと思います。 では、この言葉の出典はなんでしょうか。 答えられる方はいらっしゃらないはずです。 紹介している本や記事等にも出典先は書かれていません。出どころがどこか示されないまま紹介されています。 この言葉

        • 吉田松陰と論争した朱子学の大家 山県太華『非聖弁』2

          一日客余を芸窓に訪ひ、一篇の文を出して是を示して曰、「此れ我が邦近世の人の著作にして堯舜湯武より孔子に至るまで群聖人を歴詆せる文なり。我れ聞く、聖人は道徳の宗万世の師にして其の聡明睿智類を出萃を抜き得て間然すべからざる者なりと。然して今口を極めて是れを醜罵するは、実に非議すべき所あるにや。子は聖人の道を以て教へとする者なり。庶幾は我が為に是れを明弁せんことを。」 余が曰く「我れ聖人に非ず。いかんぞ能く聖人を弁ぜんや。中庸に聖人の道を説き是れに継で曰く、『苟も固とに聡明聖知天の

        『問はず語り』を和歌から読み解く5

        • 吉田松陰と論争した朱子学の大家 山県太華『非聖弁』3

        • 原典(情報源)を読む大切さ 吉田松陰「夢なき者に理想なし。…」は本当に松陰の言葉か? ―フェイクニュースに騙されないために―

        • 吉田松陰と論争した朱子学の大家 山県太華『非聖弁』2

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        • 山県太華『非聖弁』
          2本
        • 問はず語り
          4本

        記事

          保守の源流 山県太華『非聖弁』 吉田松陰と国体論争した大先生1

          山県太華 萩藩校明倫館の学頭。朱子学者。徂徠学派だった明倫館を朱子学に転向させた。養子の山県半蔵(のち宍戸璣)は吉田松陰とともに玉木文之進の松下村塾で学んだ。吉田松陰と国体論で論争。 幕藩体制の維持を模索した人物で、吉田松陰とは皇室・幕府のあり方等で意見を異にしたが、その識見と人格には吉田松陰も敬服していた。 保守とは…保守とはなんなのか。一体何を保持し守るのか。時代によって変わるものなのか。 太華は幕藩体制の維持を模索した点で、幕末当時の保守派といえる。また吉田松陰は

          保守の源流 山県太華『非聖弁』 吉田松陰と国体論争した大先生1

          『問はず語り』を和歌から読み解く4 お持ち帰りされながら

          和歌8 作者の心の中鐘の音におどろくとしもなき夢のなごりも悲し有明の月 訳 鐘の音で起きたのではなく、ただただ夢の中のような愛の名残に切なく思うの。有明の月が出てる。 初めて院に抱かれた作者が、院にお持ち帰りされてしまうシーン。そこで作者は自分のことを『伊勢物語』や『源氏物語』に登場する、男性に持ち帰りされてしまう女性キャラに重ねて、この歌を心の中で静かに詠みました。 夜が明け、院に純潔を奪われたけれどもなぜか愛おしい。しかも自分には実兼という恋人がいる… 作者は自分の

          『問はず語り』を和歌から読み解く4 お持ち帰りされながら

          『問はず語り』を和歌から読み解く3

          和歌7  作者 院におしたおされて心よりほかに解けぬる下紐のいかなるふしに憂き名流さん 訳 心ならずも下紐が解けて院と結ばれてしまった。どんなきっかけで浮いた噂が広まるのだろう。   ついに作者は院と結ばれてしまいました。この時の院は「うたて情けなく」(ひどく、思いやりもなく乱暴に)作者を押し倒し、……ました。 一夜明け、浮いた噂が広まるのだろうか、そうしたら実兼のことを傷つけてしまうと、きれいな有明の月を眺めながらこの歌を詠みました。 大変なことがあったのに、どこか冷

          『問はず語り』を和歌から読み解く3

          【書評】岡本隆司『教養としての中国史の読み方』 物知り博士と専門家

          岡本隆司『教養としての中国史の読み方』PHPエディターズ・グループ 2020年10月1日中国古典を読むのに中国史は知っておきたいと思い、買ってみました。 読みやすい文体(ですます調)で、また思想の話もされており、そんなに詳しくない私にとってとても役に立つ本でした。 本文の内容はさることながら、私の心に響いたのは「おわりに」に書かれていた次の言葉です。 「おわりに」より 教養と専門について「教養のない専門ではタダのオタク、専門のない教養ではタダの物知り。」 (353頁)

          【書評】岡本隆司『教養としての中国史の読み方』 物知り博士と専門家

          『問はず語り』を和歌から読み解く2

          和歌4 後深草院→作者あまた年さすがに馴れし小夜衣重ねぬ袖に残る移り香 訳 長年連れ添ってきた仲なので、ともに寝ることができなくても自然と私の袖にあなたの香りが移ってきたよ 実は、作者は4歳の時から院のもとで育てられていました。院は、作者が幼い頃から接しており、「あまた年さすがに馴れし」(長年連れ添ってきた仲)と自負していたのでしょう。作者と実兼との関係を知らず…。 この歌を贈る前日、院は作者に一緒に寝る(性行為…)よう誘いましたが、作者は頑なに拒否しました。院にとって

          『問はず語り』を和歌から読み解く2

          男女の情愛を暴露した『問はず語り』を和歌から読み解く①

          『問はず語り』について作者は、源雅忠の娘。昔の女性の名前が分からないのはよくあることです。 書名は「誰も尋ねていないのに語る独り言」というような意味。聞かれたくないような聞いてほしいような、複雑な思いを感じます。結びには「そのおもひをむなしくなさじばかりに、かやうのいたづらごとを、つづけ置き侍るこそ。」(寵愛を受けた後深草院への思いを儚く散らしてしまうのも忍びないので、このような無駄でみだらなことを綴っていく)と述べています。 鎌倉時代の日記文学における傑作の一つです。

          男女の情愛を暴露した『問はず語り』を和歌から読み解く①

          古典ってなんだろう。

          はじめまして、悠楽古典です。 このアカウントでは、「古典」をテーマにして取り上げていきます。 まずは簡単に自己紹介から。 私は、某神社にて神職(権禰宜)としてご奉仕しております。 神職という仕事柄、古事記や日本書紀を始め、古文・漢文を読んでいます。そこで、私が今まで培ってきたものを皆様にお伝えし、ともに学んでいけたら楽しいのではと思い、投稿を始めました。 古文・漢文を中心にしつつ、広い意味での「古典」(外国の古典や、とあるジャンルにおける古典的名著など)を扱っていきたいと

          古典ってなんだろう。