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三年目

33
2021年の詩まとめ
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#詩のようなもの

「   」

「 」

美術館の企画展示室
いちばん広い展示室の中央に置かれているベンチに腰掛けて
目の前の作品だけを静かに見つめる時間
あの時間をつくれるひとが羨ましかった
そのうち作品を見ているのは瞳だけで
きっと今晩の夕食の献立なんかを考えていたり
玄関に飾る植物を選んでいたりする
ゆるやかに現実が混じっている
いつも埋まっているベンチはおとなだけの特権で
あとすこし詰めてくれたらひとり座れる微妙な空白は
おとなた

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ふとん

ふとん

こどもの頃、掛け布団から足先がはみでていると
おばけやなんだか怖いものに引っ張られるって
根拠もない恐怖に怯えていた
暗闇に紛れてやってくるそれらに恐怖して
夜が怖かった
暗いことが怖かった
純粋な恐怖はいつのまにか居なくなって
夜に
暗闇に
安心しているおとなのわたしたち

当たり

当たり

アイスの当たり棒がでた
こどもの頃はいくら願っても当たらなかったのに
興味が薄れた頃にやってくるなんて意地悪ね
もうすこし暑ければ午後のおやつに引き換えてしまいたかったけれど
君との約束がなくなってしまったついでに買っただけだから
ほんとうは当たりなんてほしくなかったよ
神様が味方してくれないのはいつものことなのにね
遠くで蜩が鳴いてる
すべて汗になって流れたわたしのなかの水分は涙になれなかった

夏

アスファルトに濃い影ができる夏

生きてるんだなぁって実感してしまう夏

眩しい笑顔をむけてくる君はいつだって消えてしまいそうで
向日葵畑がこわくなる夏

熱中症の一歩手前で君の幻をみた夏

蜩の鳴く帰り道は世界にひとりぼっちになった気分で

××

××

愛されなかった幼少期
同級生からのいじめを制服と大人から隠していた十代
うっかり魔が差したリストカットぽたぽた垂れる真っ赤な血液に興奮と安心感
恋した相手はとんでもない甲斐性なしで捨てられたのは自分で
そんなわかりやすい壮絶な過去がひとつでもあるとわかりやすく周りが食い付いてくるね
オマケでいまの自分は幸せですって顔してさ
悲劇って美談にしやすいでしょ
そういう人間って違う世界のいきものみたいで

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PM4:15

PM4:15

下駄箱からスニーカーがなくなった放課後
廊下の蛍光灯がつく前の夕方未満の校内
踊り場にたまる影はどこまでも深い闇で
職員室からおとなとこどもの境界線をつくる珈琲の香り
音楽室の窓から吹奏楽部の未完成な曲が校庭にゆるやかに響く
校舎と体育館を繋ぐ廊下を脱線して、上履きのまま裏庭にでる
生活の時間に植えた朝顔が眠っていた

※※※

また人の死を美化してる、美談にして語り継ごうとしている、苦しくて死にたくて辛かっただろう人の死を、わたしたちは解釈違いして、心に残そうと必死だ、きっと天使たちは空からわたしたちのつむじを見ながら笑ってる、あの人も笑っているかな、もしも笑っていたら嬉しいです、あなたの笑顔がだいすきだから、死が不幸なのはこの世に残ったわたしたちの価値観で、4回生まれ変わることが本当ならば、次の人生で、この世で笑い合い

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6時間目

午後の道徳の授業
命や死について学ぶとき
きまって同級生の親友の死を語ってくる先生がいた
名前も顔も声も知らないその親友の最期を聴かされるわたしたち
不慮の事故だって
わたしたちは話の中盤にはもう飽きていて
途中から涙ぐみながら語る先生はいつだって不気味で
感動ポルノ監督気分で教壇に立つ
死にたいクラスメートは窓際の席からグラウンドを見つめて
下級生の持久走を眺めていて
一周遅れのあの子は世界の理

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はる

春がそこまできているにおいがします
暖かいひざしはすきなのに
春のにおい、胸がざわざわして向き合えません
桜吹雪に巻き込まれて消えてしまえたら素敵なのに
足元に散った花弁を踏んで進むしかないわたしたち
綺麗なものはいつか必ず朽ち果てて
わたしたちは見て見ぬふり
綺麗な春だけ思い出にしましょ
そうすれば来年の春も待ち遠しくなるでしょ
桜吹雪に巻き込まれて笑顔のあなたは春の妖精

そら

そら

忘れている誰かを永遠に待つ駅前の噴水広場
高くあがる水たちは空になれなくて
キラキラと
一瞬で死んでいく
その瞬間に目が合ったわたしたちは永遠を感じて恋に落ちる

無言の住宅街を歩けば世界にひとりぼっちになれるような気がして

真夜中の交差点で白い息吐きながら見上げた月はすこしぼやけて
月が綺麗ですね、と言える相手はもういなくて
死んでもいいのはわたし

天国ってなんとなく青空の雲の上にあるイメー

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とくとく

とくとく

こんなにも表面は冷たいのに
わたしにもあなたにも
燃えるような血が流れているということ
ぎゅっ、と
手を握りしめたら感じる
鼓動に眩暈がして
きょうも生きていることを突きつけられる冬の寒空

思い出の詩

思い出の詩

思い出には勝てない
過去は
日々都合よく美化されてしまうから
思い出のなかに生きられたら
きっと現在から居なくなりたい感情と衝動と
永遠にお別れできるのだろうけれど
それができないから
せめて昨日の自分より元気だよ、って
言い聞かせながら生きて
今日を生きてるうちは明日に期待なんてしなくていいから
明日も明後日になれば過去で
思い出は勝手に更新されていく
タップミスで上書きしてしまった日記アプリ

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悪役の詩

悪役の詩

悪役にだって愛はあって
誰かを愛し
かつては愛されていたはずなのに
最後に愛は勝つって
誰かが言ってたよね
正義の愛しか勝つことが許されない世界
愛って曖昧で
誰にも断言できないから
なんでもかんでも愛のせいにして
まろやかにして忘れてしまうんだね
愛は勝たない
愛を守れた人だけが勝つんだよ

清らかな

清らかな

涙をながせば
純粋にみえますか
朝日に
夜のコンビニの外灯に
駅前のスターバックスの照明に
きらりと光るその粒は
心の汚れを丁寧に濾過してできた
最終兵器
頬をつたう生暖かいわたしの一部は
あなたにちゃんととどくまえに蒸発してハンカチを濡らさない
未練だけがチェック柄を濃くして
あなたはわたしを理解したつもりで微笑むの
純度100%は神様でもありえなくて
神様未満のわたしたちは
祈りを捧げるふりし

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