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小説とか詩歌とか

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幻視者になりたい。
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#物語

【短歌】天使が言った 他

【短歌】天使が言った 他

マジカル☆ロリィタ
満月がいちごの色に染まるとき覚醒したるマジカル☆ロリィタ
ミルフィーユみたいにパニエを重ねては午前零時に飛びたつわたし
メイドって呼ぶなお前のためじゃないシャドウもリップも愛想笑いも
大人ってただの仕掛けよ綿あめでお腹をみたしたい日もあるの
お茶会はあなたをずっと待つために開かれてるのはやく見つけて
封蝋がわたしの熱で溶かされてどこにも行かぬ手紙を閉じる
細やかなフリルの海にた

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【短編】父のチェス盤

【短編】父のチェス盤

 父の作ったチェス盤は、知り合いの老紳士のもとに渡り、大酒飲みの彼の息子が質に入れてしまった。たいそうな金額で取引され、息子はがさがさの頬を緩ませながら帰っていった。大金になるのも当然だ。父は屈指のガラス職人なのだ。このチェス盤だって、駒も含めて、全てガラスで出来上がっている。盤の目は互い違いに磨りガラスになっていて、対になっている片方の駒も同じようにきめ細やかに曇っている。
 次の来客にも気がつ

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【短編】先生、お元気ですか。

【短編】先生、お元気ですか。

 先生のところで修行してから、もう五年が経つのですね。早いものです。わたしのほうは相変わらず、ですが、先生はいかがお過ごしでしょうか。そういえば、ここ最近、気がついたことがありまして。人形たちの脈って、それぞれ違った音をしているのですね。いえ、先生に教わったのですから、分かっていたことですけど。以前よりもいっそう、くっきりと聞こえるような気がします。わたしの耳が効いてきたという証なのでしょうか。

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【短編】鳥かごのなかの少年たち

【短編】鳥かごのなかの少年たち

 ……君が人間だったらよかったのにね。って、カケルが言ったから、ぼくはそのとおりになった。夜のあいだだけ、人間になった。どうして昼間は元のすがたのままなのか、考えるまでもなく、彼の言葉が不完全だったからなのだけど、せっかく鳥かごから抜けられたのだ。外へ出てみたい。ぼくはカーテンを引いて、いつもカケルがやっているように窓を開けた。ベランダに足を踏みいれてあたりを見まわす。見わたすかぎり、知らない形ば

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【短歌】青い点滅 他

【短歌】青い点滅 他

ていねいな暮らし

ていねいな暮らしをしたくて花がらの空になったやかんを置いてる
洋服をたたんで捨てる少しでも前のわたしを肯定したくて
行数を埋めては消してく指さきにアンテナみたいなささくれが立つ
鍋のなか絡まるパスタまぜながら茹でる時間を気にするしあわせ
深海にルンバが泳ぐまぼろしをまぶたの裏にうつして眠る

野良傘

雨水がいつかの誰かのなぐさめのなみだとなって光となって
ぼくよりも世界をみて

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【短編】まよなかデパート

【短編】まよなかデパート

 狭いひとり用の寝台のなかで、ふたりの鼓動が響きあっている。おぼつかない指先どうし、私たちはそれぞれの輪郭に触れあっていた。まだ裸になっていないのに、彼の身体は冷たい。冷たくて、しっとりとしている。冬のはりつめた空気みたいだ。
「新しいのにしようかな」
 窓から射す月のひかりを見て、私はつぶやいた。
「なにを」
「カーテンを。一緒に暮らしていくならさ、もっと新しくて特別なものが欲しいでしょ。ふたり

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【短編】茨のドレス

【短編】茨のドレス

 なめらかなトルソーに着飾られた芳しいドレス。上半身には真っ白な幼いばらを、スカートの部分にはそれぞれ濃さのちがう赤いばらをあしらっている、僕の自信作だ。着るときにとげが刺さって痛いんじゃないかと、野暮な記者に訊かれたけど、そんなの当然、取っているにきまっているじゃないか……スカートの部分以外は。
革手袋をして、僕はすりつぶしたトリカブトの根をすくった。スカートの内側にあるばらのとげに、丁寧

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【短編】リリィ

【短編】リリィ

「あの古時計はねじを巻かなくても、ずっと動いているんだ。守り神がいるって話を、じいちゃんから聞いたことがあるよ」
お父さんはそう言っていたけれど、ほんとうは違う。私はちゃんと知っている。あの時計の、ふりこが仕舞われているところには妖精が棲んでいて、その子がいるかぎり、針がまわり続けているってこと。
「でもどうして、あの部屋へ行ったんだ。いろいろ散らかっているから、危ないだろう」
「授業で自分

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【短編】星盗人

【短編】星盗人

 硝子ケースに並べられた星のかけらたちは、夏の日射しのように鋭くひかったり、街灯に照らされた雪のように鈍くつやめいたりしている。ひとつとして同じものはなく、細工職人がノミをいれる場所や角度によって、価値が細かく変わるらしい。星たちは真っ白なベルベットの敷布に、いろとりどりの影を落とす。これも、もうひとつの星をおもわせる。違った明かりだと、また別の顔を見せるのだろう。これほど奥が深いとは……盲点だっ

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