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【短歌】天使が言った 他

連作

マジカル☆ロリィタ
満月がいちごの色に染まるとき覚醒したるマジカル☆ロリィタ
ミルフィーユみたいにパニエを重ねては午前零時に飛びたつわたし
メイドって呼ぶなお前のためじゃないシャドウもリップも愛想笑いも
大人ってただの仕掛けよ綿あめでお腹をみたしたい日もあるの
お茶会はあなたをずっと待つために開かれてるのはやく見つけて
封蝋がわたしの熱で溶かされてどこにも行かぬ手紙を閉じる
細やかなフリルの海にたくさんの少女だったものの情死体
落ちてくる少女のまぼろしあのなかに かつてのわたしもいたのかしらね
洋館という名の牢に仕舞われた人形らしく生きて死にたい
モルフォ蝶ばかりがつどう庭園にわたしはわたしの形でねむる
(短歌連作サークル誌『あみもの 第三十一号』に寄稿)

宇宙に抱かれる
ヴァーチャルの世界にいるひと梨を食み 咀嚼音だけ本物の秋
私たち消毒液にまもられた指先どうしでお喋りしていて
残されたほうはどうなるディスプレイ越しに君の寝息だけする
微笑みもはんこ注射も見せあった あとは一緒に生きてくだけだね
まっくらな部屋に身体をゆだねれば宇宙に抱かれる気がするだろうな
(短歌連作サークル誌『あみもの 第三十四号』に寄稿)

仮装現実
あちこちでカボチャが笑うアスクルの検索窓にもいるのかお前
夕飯を鍋にしたくて割引の肉を買ってる女になりきる
なんでもない日として過ぎるハロウィンに狼男が散髪へ行く
『変身』のどこにも語られないけれどグレゴール・ザムザは美しく飛ぶ
イギリスの博物館で眠らされ故郷の夢を見果てるファラオ
本物の魔女が魔女から人間となってシナモンロールを配る
セロファンのドレスをまとう人魚たちポールダンスを無邪気に踊れ
石鹸の正しい匂いに洗われて成仏してくやさしい幽霊
生きるたびためらい傷が増えてゆく ローズ・セラヴィの口紅(ルージュ)の如き
ままならぬことをこなしてこれからも私は仮装現実のなか
(Twitter企画「ビロォドハロウィン」に寄稿)

天使が言った
夢で会う知らないひとはもうすでに死んだひとだと天使が言った
蜜蜂の言語っぽいなぶろぶろと天使が僕にささやく声は
エレベーター何階ですかと尋ねれば屋上ボタンひとりでに点く
どろどろの真夜中だった眠らないことがどれほど罪かを知った
永久に生え変わってく君の歯が白夜みたいに揃ってくのを
ゴダールの映画は観るよ天使なら誰でも観ると天使が言った
(Twitter企画「ビロォドアドベント」で発表)

連作じゃないもの

金継ぎをするようにまた触れている壊れた心をすべりゆく熱
僕たちはまわり続ける銀いろのたてがみゆらす木馬となって
(短歌の雑誌『flipper』【世界中のいろいろな私】に寄稿)
うつくしい言葉を恨みながら死ぬすすきの夢をみてばかりいる
(短歌の雑誌『flipper』第二号に寄稿)
夢で会う知らないひとは寂しくて私なんかとお喋りしている
あの人があの人のままで残ってる彼岸のようなホームページは
少年の身体となって霧雨に交じる少女を愛したかった
満月のひかりが研磨剤として君のからだを薄らと削ぐ
欲望のままに逃げ込むファミレスの暴力的にあたたかいこと

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