見出し画像

【短歌】青い点滅 他

連作

ていねいな暮らし

ていねいな暮らしをしたくて花がらの空になったやかんを置いてる
洋服をたたんで捨てる少しでも前のわたしを肯定したくて
行数を埋めては消してく指さきにアンテナみたいなささくれが立つ
鍋のなか絡まるパスタまぜながら茹でる時間を気にするしあわせ
深海にルンバが泳ぐまぼろしをまぶたの裏にうつして眠る

野良傘

雨水がいつかの誰かのなぐさめのなみだとなって光となって
ぼくよりも世界をみてきた野良傘のビニール越しに空がふくらむ
みんな散る花びらばかりに笑いかけ水たまりにも声をかけなよ
閉じられたきみの瞼にふれるごと桜吹雪をいいわけにして
木漏れ日が皮膚をつたってゆくときの力加減で生きていけたら

夢の記述

十七時七十七分発のバス乗りこんで、あれ、あのひとはどこ
土産屋にぶら下がってる亀たちがときどき動いてときどきふえる
踏切りをこえたらすぐに山肌をらせんに登ってやぐらで遊ぼう
理科室の分娩台がすばらしいみどりの色でみどり、の、いろで
起きあがりたいのになかなか起きられないわたしをじっとみている課長

青い点滅

またひとつ成し遂げられずここにいる遮光カーテン夜でもきれい
シンクからするどい朝がやってきて私の部屋をかけまわる、夏
看板に犬と書かれている道にはじめて菊の花たばをみる
これからも好きにならないひとだから浜辺で分けるパピコはおいしい
映写機がかたかたかたかた語るべき言葉なんて要らないんだね
死んでいるひとの声が流れてる だいじょうぶだよって歌っている
ほんものが実はなにかを分からずにアンダルシアの犬になりたい
永久に規則正しい信号のいつもより長い青い点滅

(短歌連作サークル誌『あみもの 第三十号』に寄稿)

連作じゃないものたち

屋根裏は部屋がないのに屋根裏の鍵さがしてるパパとママ、夜

生きていて今まで月を見たことがないと云うきみ主任になりぬ

川にいる蝉のことだと思ってた翅をうろこに泳ぐ蝉だと

きみの歯のかたちがほしいほろ酔いの歯科医がさけぶような昼間だ

真夜中を知らぬ僕らが持ちよった月の模型はカプセルのなか

硝子には半透明の僕がいて月の裏側みたいに笑う
(短歌部カプカプのたんたか短歌 秀歌佳作)

音だけの世界ばかりにいられない君の声が君を呼んでいる

おとひかりそれは雨の日昼下がりひとりこっそり君を呼ぶこと

アレクサー、オッケーGoogle、ぼくのSiri、愛のかたちと音を教えて

灯台のあかりのせいで下手くそに君と夜空が区切られている

浴槽の排水溝からせりあがる夜の密度に溺れてしまえ

花束のように抱かれている朝に閉じたまぶたが熱っぽくある

あまりにも蝶にまみれた庭園に私は私のかたちでねむる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?