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映画「トランセンデンス」 未知なものへの向き合い方を学ぶ

死んだ人間の知能をコンピュータにアップロードできたとしたら…?

そんな近い将来起こるかも知れない未来を題材にしたSFサスペンス映画が『トランセンデンス』。
エンターテイメントでありながら、近い将来、科学技術が高度に発展した世界で起こり得る問題に警鐘を鳴らすエンタメに収まらない深さのある映画。2014年の映画なので6年も前の映画ですが、改めて今観る価値のある一本です。

果たして我々の未来にトランセンデンス(超越)は起こるのでしょうか?その時、どうすればいいのでしょうか?

映画「トランセンデンス」とは

SFサスペンス映画『トランセンデンス』は、過度に発達した科学技術が暴走する世界を描いています。もはやただのフィクションだと笑って済ますことのできない状況を、独特の映像技術をふんだんに使用して現実味たっぷりに描いたのがこの映画。

劇中ではAI科学者のウィル(ジョニー・デップ)によるAIに関する最先端のプレゼンテーションからはじまります。

「人工知能が様々な問題を解決する。病気だけでなく、貧困や飢餓もなくし、人類に明るい未来を届けてくれる。自我を持つAIがネットで繋がれば人類を超える。」

人工知能が人間と同じ意識、感情、自我を持ったなら?それを一般的にはシンギュラリティ(技術的特異点)と表現されますが、この映画の主人公は「トランセンデンス(超越)」と表現しています。

プレゼンの観客からは「あなたは神を作りたいのか?」と問われるウィル。それに対し「人類はいつもそうして来た」と答えます。その直後、ウィルは質問者の銃弾に倒れる事になります。死の間際に妻エヴリンによってウィルの知能はスーパーコンピューターへアップロードされます。ネットの中で意識だけの存在となったウィルは、世界中のあらゆる情報を手に入れ、さらに究極的な進化を遂げていく。果たしてトランセンデンスが起こった未来はどうなってしまうのか。

トランセンデンスは起こり得るか?

ストーリーだけでなく、映像も美しく、SF映画として非常に引き込まれる本作。さすがクリストファー・ノーランが製作総指揮に入ってるだけあります。非常に素晴らしいエンターテイメント作品に仕上がっています。

映画では過去、リアルとバーチャルの間をテーマにした『マトリックス』がありますね。主人公のネオがはじめてヴァーチャル空間に連れて行かれるシーンで「これは現実なのか(is this real?)」と話す。これに対し、モーフィアスは「現実とは何だ(what is real?)」と質問を質問で返します。とても有名なシーンですね。この映画ではリアルもヴァーチャルもすべては脳の電気信号であるという前提に立っています。非常に複雑な設定を抜群の映像美で描いたマトリックスシリーズはエンターテイメントとしても優れた作品です。

しかし、「トランセンデンス」も「マトリックス」も映画のお話。こうした映画が描く、シンギュラリティ(技術的特異点)は実際に起こり得るのでしょうか?

「ムーアの法則」は集積回路の密度が18カ月から2年で倍増するという有名な予測。人工知能の性能が人類の知性の総和を越える「シンギュラリティ」が、2045年に来るとの予測もあります。このため「シンギュラリティ」は「2045年問題」とも呼ばれています。

ただ、専門ではない人間からすると、どこまで本当かは疑問です。「AI」という言葉には人間には到底できないことを実現可能にするという夢の技術という側面がある一方、人間の仕事を奪っていくのではないか、というネガティブな情報が付随します。

AIは生まれるのか?

一方で、こんな書籍がベストセラーになっています。2019年のビジネス書大賞を受賞した『AI vs 教科書が読めない子どもたち』。AIに対する、ぼんやりとしたイメージをばっさり一刀両断する軽快な語り口が痛快な一冊です。

この本は、世間に広まっているAIのイメージが、実態とかけ離れていることに危機感を持ったAI研究の第一人者の著者が書き上げた意欲作です。

この本によると、「AIが神に代わって人類に楽園をもたらすことはないし、逆に人類を滅ぼすようなこともない」、と説きます。そして、現代においてAI(人工知能)はまだどこにも存在していないと解説します。

この本の言う「AI(人工知能)」とは、人間の一般的な知能と同等レベルの能力を持っている知能を指します。それには現代の技術は遠く及ばないレベルとのこと。現在のコンピューターがしていることは基本的に「計算」であると説明します。そして、この本の結論として、「近い未来に人工知能が誕生することはないだろう」と断言されています。ここが痛快で、読んでいて面白いポイントです。

Siriは「AI」ではない

私達は「AI」と「AI技術」を混同しがちです。「AI」を実現するために開発されているさまざまな技術のことを「AI技術」と呼びます。それは、AIそのものではありません。たとえばiOSに搭載されているSiriも、厳密にいうと「AI技術」です。「AI技術」をAIと呼ぶことによって、私たちはAIが既に存在していると錯覚してしまっていますが、厳密にいえば「AI」はまだ存在していないということです。

シンギュラリティとは、AI技術ではない真の意味での「AI」が人間の能力を超えることを意味しています。しかし、真の意味での「AI」が生まれる可能性は、この著者によれば限りなくゼロに近いとのこと。なぜなら、コンピューターがやっている今のAI技術は全て「計算機」だからです。

この著者はコンピューターが東京大学に合格できるかにチャレンジした「東ロボくん」プロジェクトの責任者の方です。2011年に人工知能プロジェクト「東ロボくん」は始まりました。しかし、このプロジェクトで東大に合格することはありませんでした。原因は英語と国語で点数が取れなかったから。要するに「意味を理解する」ということがコンピューターにはできないのです。過去のデータから、「確からしい解」を確率論で計算することができます。それはあくまで「計算機」の機能。「意味を理解する」のは全くの別次元のお話。

例えばSiriにこんな質問をしてみてください。「Siri、この辺りで美味しくないラーメン屋を教えて」。結果は、驚くことに、美味しいラーメン屋がヒットします。つまり「美味しくない」という意味をSiriは理解しているわけではないのです。「この辺り」「ラーメン屋」「教えて」の過去の検索データから「計算」して、候補を表示しているに過ぎないのです。

計算機は意味を理解しない。ゆえに、「シンギュラリティ」は到来しない、とこの本は結論付けます。

しかし、ディープラーニング含め、高速計算できる「計算機」としてのコンピューターの進化は止まりません。それにより、今の仕事の多くが、今後AI技術に代替されるのは間違いなく起こりえます。そしてその未来はすぐそこまで迫っているとも言えます。

まとめ

映画「トランセンデンス」はテクノロジーの進化を人類が扱い切れるのか?という問いを突き付けてくる作品です。

この映画にこんな言葉が登場します。

「人類は未知のものを恐れる」

主人公のウィルは超絶に発達したテクノロジーで、人類が抱える様々な問題を解決しようとします。しかし、他の技術者はあまりの変化の大きさに、恐れ、それを阻止するように動いてしまいます。

どんな技術も、目的と使い方次第だと改めて考えさせられます。

そして、『AI vs 教科書が読めない子どもたち』を読めば、必要以上にAIに期待したり、恐れる必要もないことが分かります。


改めて、これらの作品に触れ、未来の世界を想像するのもよいのではないでしょうか。人が生きていく上で便利になるために技術が利用されていく未来が来ることを願います。。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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