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谷古宇 時生
2022年6月30日 22:31
小説家とは職業というよりも、「問題を提示する」ことが社会における機能であり、当たり前のことでも無駄に考えすぎて、警鐘を鳴らすタイプの面倒な人種である。 それを前提に、少し真面目な話をしよう。この二年間、ただただわたしたちは疲れている。我こそは最も良い眼と耳を持っていると言い合う人たちばかりの声に耳を貸して、右往左往して、疲弊し切っている。 今、ほかのどんなことより、「信じた価値観がひっ
2022年6月25日 15:38
初夏の不忍池は、極楽浄土のようだ。敷き詰められた蓮の葉が、風に揺れる。死のうと思っている人は、一度見に来るといい。死に近い場所は、生の喜びに満ちている。
2022年6月19日 12:19
創作には、その完成に至るまでの道程に、いくつかのチェックポイントがある。これはゼロから一をつくる者にとって、必ず越えなければならない難所である。今回、その難所に看板を立てて、登山者へエールを送る。◆【難所①:憂鬱な書き出し】ふわふわとした、実態がなく、脳の中で真空状態の空想をつかまえて、そのまま紙に写し取ろうとするとき、人はその恐ろしさに立ちすくむことになる。断言しよう。間違っても君は新品
2022年6月18日 07:02
文体、というものは指紋である。同じ言語を用いているのに、ひとそれぞれその世界の切り出し方が異なる。捉え方が異なる。そういった点で、文体というものは実にユニークである。◆己の筆跡を他者と判別するものであるはずなのに、実体があるようで無い。その人の文体と呼ばれるものは危ういものであり、常に隣の誰かとくっつき、また離れ、危篤状態の患者の心拍計のように揺らぎ続けている。文体自体には判子のよう