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【エッセイ】小説家の機能

 小説家とは職業というよりも、「問題を提示する」ことが社会における機能であり、当たり前のことでも無駄に考えすぎて、警鐘を鳴らすタイプの面倒な人種である。
 それを前提に、少し真面目な話をしよう。


この二年間、ただただわたしたちは疲れている。我こそは最も良い眼と耳を持っていると言い合う人たちばかりの声に耳を貸して、右往左往して、疲弊し切っている。


 今、ほかのどんなことより、「信じた価値観がひっくり返る」ことが問題だ。これは個人の信条を、世間が制限し得るという意味で、決して小さな話ではない。また、私たちが言うところの常識を自らコロコロと変えて、何かを盲信的に信じることがいかに危ういかを明確に示している。こんなものに、慣れてはならない。


 私たちは、後生大事に覚えておかなければならない。小さな火種でも世界の進化を止めうること。街の蓋を閉められて文字通り塞がること。指一本動かす暇なく価値観が一変したこと。その価値観に迎合しない人達を排斥したこと。またその急ごしらえの価値観を再びひっくり返され、結局は個人の責任にされることを。


 これは自分の正義を振りかざして他国にミサイルを打ったり、火炎放射すること、それを正当化することと本質的に変わらない。英雄が戦犯として処刑されることと変わらない。


 わたしたちの生活は、これからも続いていく。


だから、よく話すことよりも、よく聞くこと。
正しい眼を持つこと。脳ミソをフル回転して考えることが肝心だ。流れに任せ、あとで考えようでは、救えない未来がある。


あなた同様に、わたしはこれからどう生きていこうか。真剣に。
 あなたの怒りやむなしさや悲しみも、わたしが変換してやる。クスッと笑える物語に生まれ変わらせる。文章を通して提示してみせる。あなたをハッとさせてみせる。
 他ならないあなたに読まれたくて、わたしは、明日からまた小説を書く。


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