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「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」 第18回 Epilogue Part.1 西武球場コンサート

A LONG VACATION

ナイアガラ・レーベルが日本コロムビアとの契約を終了し、谷川は大滝と頻繁に会うことはなくなった。それでも大滝は連絡をくれた。

『ア・ロング・バケーション』が発売された時にも、大滝から報告があった。
「谷川さんの家まで持ってきました。」
大滝が車を運転するのは、コンサートなどで全国に出かけるのに免許をもっていなかった頃とは、全く隔世の感がある。

「わざわざ、もういいよ。今は、お前はソニーの人間になったんだから。」
大滝がコロムビアを離れて3年経った。
谷川は、担当を外れて大滝の家に出向いた時のことを思い出した。

時には外で顔をあわせる機会もある。
谷川が、いきつけのレストラン・フォンテーヌで兄と酒も交えながら食事をしているところに、たまたま大滝詠一が入ってきた。大滝は、"初めて作った本だ"と、『ALL ABOUT NIAGARA』をプレゼントしてくれた。

大滝詠一の『ア・ロング・バケーション』は、徐々に若い人たちの心をつかんで売れているようだ。


西武球場コンサート

「Ladies and Gentlemen, Settings a mood for this loving Summer Night. We present the NIAGARA Fall of Sound Orchestral…」

小林克也のナレーションに続いて、大滝詠一のステージが始まった。

1983年(昭和58年)7月24日の午後、谷川は大滝からの招待を受けて、西武ライオンズ球場にいた。『ロンバケ』と『トライアングル2』で限定的なコンサートをしていたが、大滝がついに大舞台に登場する。共演はラッツ&スターとサザン・オール・スターズだ。

このコンサートは、アサヒビールが協賛しているが、アサヒビールは三ツ矢サイダーの会社だ。今年の夏のサイダーのCMは大滝詠一が再登板している。『CMスペシャルvol.1』の時に、サイダー瓶を福生の部屋一面に並べて撮影したのも、今では懐かしい思い出だ。

ようやく始まったコンサートは、「夢で逢えたら」、「Summer Breeze」、「Water Color」とオーケストラの演奏が続いた。かたずを飲んで聴く者もいれば、トイレからのんびり戻ってくる者もいる。ラッツ&スターが盛り上げた直後の客席には少し落ち着きがない。

こんどは「青空のように」だ。コロムビア時代とソニー時代の曲が同じ空間に溶け合う。音の厚みは増しているが、音色の下に潜むメロディには、レコード会社ごとの差はない。

それでも、谷川はオーケストラ中心で大滝の歌がなかなか始まらないコンサートの作り方には違和感を持った。谷川は大滝のパフォーマー、エンターテイナーとしての資質に強く期待していた。そのことを直接会って、大滝詠一本人にも伝えた。しかし気持ちは伝わらず、これ以降、年賀状のやり取りもなくなった。

同じ頃、谷川は上司に「現場でもう一度、”自分の人生”をやりたい」と直談判し、1983年に42歳で日本コロムビアの制作部門の編成部長を辞め、自分の会社を立ち上げるという夢の実現のため、渡米した。


Graduation

谷川は、アメリカに自分の会社を作り、いくつかの企画を手掛けた。その中の1つが「日本のニューミュージックの曲を英語で、現地のミュージシャンに歌わせる」という企画だった。

ミュージシャンは、スリー・グレイセスを現地のアメリカ人がやるようなイメージで、オーディションにも立ち会い、ハーモニー、ルックスなどで3人の女性を選んだ。

日本語の歌詞を英語に翻訳するというのは、なかなか難しい作業だ。

たとえば、「さよならの向こう側」を英訳すると、どうなるだろうか。
次のアルバムの曲とは直接関係ないが、山口百恵が引退のときに歌ったヒット曲だ。"さよならの向こう"が何なのか、現地スタッフと話になったが、理屈が伝わらず、日本語の難しさをあらためて感じた。

こうした翻訳作業をFAXでやり取りし、現地のミュージシャンとのやり取りについては現地スタッフに任せながらも、時折、飛行機で往復して確認という形でこなして作業を進めた。

アルバムは、谷川の会社とコロムビアが半分づつ出資し、イニシャル1万5千枚で売り出すこととした。「ともかくすぐに売れて欲しい」という気持ちから、グループ名を「A.S.A.P. (=as soon as possible)」とした。

A.S.A.P.は90年に松任谷由実のカヴァー・アルバム『Graduation』をリリースし、80万枚のヒットにつながった。これが谷川が手がけた中での一番のヒット作品となった。



はい、いかがでしたでしょうか。

今週は、「Epilogue Part.1 西武球場コンサート」 でした。次は、「Epilogue Part.2」を予定しております。

それでは、本NOTEにて、またお目にかかりたいと思います。Bye Bye!

  2022.03.14
  霧の中のメモリーズ

連載一覧は、こちら
「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」(noteマガジン)


(これまでの回一覧)「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」
はじめに <2021.10.25>
第1回 プロローグ(舞台袖の谷ヤン) <2021.11.15>
第2回 コロムビアレコード移籍 <2021.11.22>
第3回 『ナイアガラ・トライアングル』レコーディング <2021.11.29>
第4回 『ゴー・ゴー・ナイアガラ』放送終了危機<2021.12.06>
第5回 『ナイアガラ・トライアングル』レコーディング パート2 <2021.12.13>
第6回 ナイアガラのパッケージ・デザイン<2021.12.20>
第7回 ナイアガラのパッケージ・デザイン パート2 <2021.12.27>
第8回 『ナイアガラ・トライアングル』発売記念コンサート <2022.01.03>
第9回 「ナイアガラ音頭」プロモーション <2022.01.10>
第10回 難産の『ゴー!ゴー!ナイアガラ』 <2022.01.17>
第11回 ついに『GO! GO! NIAGARA』発売 <2022.01.24>
第12回 『SUMIKO LIVE』 <2022.01.31>
第13回 『ナイアガラ担当2年目の谷ヤン』 <2022.02.07>
第14回 『ナイアガラCMスペシャル』発表 <2022.02.14>
第15回 ガール・シンガー、シリア・ポール <2022.02.21>
第16回 『ファースト・ナイアガラツアーと「青空のように」』 <2022.02.28>
第17回 最終回 『カレンダー』と別れの季節 <2022.03.07>

Epilogue
第18回 『Epilogue Part.1 西武球場コンサート』 <2022.03.14>
第19回 『Epilogue Part.2』(Coming Soon!)

【一言コラム】
豊川稲荷 <2021.11.29>
日本コロムビア本社 <2021.12.13>
niagara ✕ COLUMBIA バインダー<2021.12.27>
ABC会館ホール <2022.01.03>
コロムビア・グランド・スタジオ・ロビー<2022.01.10>
TBS "G"スタジオ <2022.02.07>
谷ヤンとヨーロッパ・ツアー <2022.02.28> <UPDATED 2022.03.07>
シャルル・オンブル楽団 <2022.03.07>