「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」 第15回 ガールシンガー、シリア・ポール登場
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「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」 第15回 ガールシンガー、シリア・ポール登場

霧の中のメモリーズ


大滝が『CMスペシャル』の次に手がけたのはガール・シンガーだった。
ニッポン放送の亀淵昭信に取りついでもらい、シリア・ポールのレコーディングが実現した。谷川は、またしても産みの苦しみに付き合うとともに、薄紫のヴェールのかかった『夢で逢えたら』のジャケット作成を手伝った。

シリア・ポール起用

フィル・スペクターが手がけたようなサウンドで女性シンガーのアルバムを作りたいとの企画を、大滝は以前からもっていた。

来年作成する4枚のアルバム・ラインナップの1つとして、具体的な相談があったのは、1976年の秋のことだった。

女性シンガーは誰を想定しているのか谷川が尋ねると、
「シリア・ポールのことを、なんとかしたいんですけれども。」
大滝から答えが返ってきた。

谷川のシリア・ポールに対する印象は、モコ・ビーバー・オリーブの中で"一番明るい女性”というもので、歌い手という意識はもっていなかった。

「シリア・ポールのどこがいいんだ?」
「可愛いじゃないですか。」
シリアに惹かれた原因を尋ねた谷川に、大滝は顔をみながらこたえた。

よく聞いていたニッポン放送のラジオ番組『パンチ・パンチ・パンチ』のキャスター、モコ・ビーバー・オリーブの中で一番可愛いシリア・ポールを歌手に起用したいとのことだ。

「シリア・ポールの声でやりたいんですよ。美奈子に歌わせた、アレを歌わせたいんです。谷川さん、どう思いますか?」
大滝は、「夢で逢えたら」を挙げて、谷川に確認した。

谷川は「夢で逢えたら」を高く評価していた。よくこういう曲を作れたなと思っている。

谷川は10年ほど前に、高峰三枝子の再発盤を手掛けたことがあった。10万枚を超えるヒットになった。「夢で逢えたら」が「湖畔の宿」のように音楽ファンに愛される曲になれば、大きなヒットとなるかもしれない。

「いいんじゃない。」
谷川は、少し考えながら答えた。

「で、それを誰に言うつもりなのよ?シリア・ポールを口説き落とすのは簡単だろうけど、まずはルールを通さなかったら、簡単にはいかんぞ。あれは、ニッポン放送だろう。」
「そうです。」
大滝は、谷川の質問にうなずいた。

「パンチ・パンチ・パンチ」のアシスタント・プロデューサーを務めた、亀淵昭信とは旧知の間柄である。
彼に話をしておけば、うまく進むだろう。

ニッポン放送・亀淵氏への依頼

「俺、これからカメちゃんのところに行ってくるわ。」
谷川は、ニッポン放送に出かけようと、大滝に声をかけた。

「自分から、亀淵さんに言いたいです。」
「じゃぁ、一緒に行こうか?」
谷川は、「直接、依頼したい」といった大滝の思いは大事にする。

「カメちゃん、やっほぉー。」
谷川は亀淵に会うなり、いつもの通り、明るく挨拶をした。

「谷川さん、どうもでした。どうしました、今日は。」
亀淵は少し怪訝そうな顔である。

「大滝が『シリアに歌わせたい』って言っているから、カメちゃん、シリアと会わせてやってくれない?力貸して。」 
「俺、シリアになんて言えばいいの。」
「シリアに『大滝がプロデュースをするから、お前も1回シングル盤ぐらい作ってみないか』って、言ってほしいんだけれど。」
「レコードですか。」
「そう。こちらからは、シリアから「イエス」と返事があってから行くからさ。」
これまでのつきあいをいかして、少し図々しい仲介の依頼だ。

「よろしくお願いします。」
大滝も亀淵に頭を下げた。

後日、赤坂のコロムビア本社近くで大滝詠一とシリア・ポールとの初顔合わせがセットされることとなった。

谷川は、直接、顔合わせには入らず、いつものレストラン、フォンテーヌで昼ご飯を食べながら面談が終わるのを待っていた。

大滝は、明るい顔で戻ってきた。話が弾んだのか、面談は1時間を超え、話はまとまったとのことだ。(*)

「よかったねぇ。たぶんニッポン放送でしか、かからねぇんだから、オールナイト・ニッポン以外のところでもかけてもらおうぜ。]
谷川は、大滝に声をかけた。

他局とも付き合いはあるが、まずはニッポン放送だ。糸居五郎や高崎一郎などにも話をしておこうと、谷川は思った。


*註)『夢で逢えたらVOX』」(2018)のブックレットには、シリア・ポールのインタビューも掲載されており、アルバムを作ることとなったきっかけについて、次のように答えている(インタビュアー:萩原健太)
・最初大滝さんと朝妻さんとお会いして、こんな曲を歌ってみませんか?という話だったと思(う)
・私も即答はせず、しばらく考えたと記憶しています。


再ミックス

『夢で逢えたら』には、「The Very Thought Of You」などのカヴァー曲が並ぶ。福生45スタジオにあるジューク・ボックスには、こういうスタンダード曲も入っている。アルバムに入れる曲は、大滝に好きに選曲してもらい、曲順の流れだけは確認した。

大滝は今回のアルバムの弦アレンジを山下達郎に依頼したが、時間はかかる。

谷川は、一晩何曲のようなアレンジャーとも仕事をしていた。「俺が書いてやるか。早いよ。」とも、うそぶいたが、待つことにした。

アルバムのレコーディングは2月に開始し、3月19日のONKYOスタジオのミックスで完パケとなった。

『CMスペシャル』の発売もはじまり、思った以上に好調なスタートである。

「CMを集めたレコードなんて、売れっこない。」と決めつけていた幹部に対しても、面白いことを徹底すれば、結果は後からついてくるんだ、と見せつけ、谷川は大いに面目をほどこした。

「6月1日にシリア・ポールのシングル、6月25日にアルバム、そして、コンサート・ツアーだ。」と谷川が意気込む中、大滝から連絡が入った。

コロムビアでカッティングしたTEST盤の音が気に入らないので、もう一度ミックスし直したいとのことである。

CBSソニーやサウンド・シティーといったフリースタジオで、ミックスやボーカル差し替えをしたいとのことだ。

音が気に入らず、やり直すのは、『CMスペシャル』が売れて、製作費に余裕が出そうだと感じたことも一因だろう。

谷川は、発売延期が繰り返されていた昨年の一連の憂鬱な月日を思い出して、またかと、ため息をついた。

レコードの制作スケジュールが変わり、2度目の発売延期となることだけは、なんとしても避けたい。シリアの歌のピッチ調整をしていた大滝のコダワリを評価したい気持ちもあるが、納得いくまで作業をしだすと、ゆうに1か月はかかるだろう。

「連休前の4月には終わらせるぞ。」と声をかけ、ジャケット制作や印刷準備は止めずに進めていくこととした。


紫紗のイメージ

今年は、エジソンが蓄音機を発明して100年になる。

コロムビアでは、この機会を記念して新レーベルを立ち上げようかという話も出ているが、世界のレコード会社が「100 years recorded sound 1877-1977」というロゴマークをレコードにつけており、シリア・ポールのアルバムのタスキにも100周年記念マークを添えることとなった。

このタスキに入れる文字のパターンは、これまでの『ナイアガラ・トライアングル』や『GO! GO! NIAGARA』のように題名を白抜きで印刷したものではなく、シリアのイメージにあわせて、丸い文字で強調したものとすることにした。 

ジャケットは、シリア・ポールの写真をメインにすることとし、ライナーには録音風景なども沢山写真を入れた。

ジャケット・イメージは、「テーマは紫で、色っぽく」という注文どおりに仕上がった。

谷川は、いつも「青~!」とか「海の色~!」とか、色で指定することが多いが、今回は紫がイメージカラーとなった。

また、写真の上に少し"紗"をかけて、北米のアーティストとしても通用するような、ソフトな演出をするよう指示をだした。

シリア・ポールにも「この方が綺麗に見える。」と説明し、紫の夜のとばりに星が瞬く中、靄の向こうでシリアが柔らかに微笑むジャケットができあがった。

大滝によるリミックス作業も終了し、ドリーミーなサウンドが完成した。

こうして予定どおり、6月1日には「夢で逢えたら」のシングルが発売された。


はい、いかがでしたでしょうか。

今週は、「ガールシンガー、シリア・ポール登場」 でした。

次は「移籍後初のナイアガラ・ツアー」を予定しております。大滝詠一のコンサートの様子などについて、お送りしたいと思います。

それでは、本NOTEにて、またお目にかかりたいと思います。Bye Bye!

  2022.02.21
  霧の中のメモリーズ

連載一覧は、こちら
「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」(noteマガジン)



(これまでの回一覧)
はじめに <2021.10.25>
第1回 プロローグ(舞台袖の谷ヤン) <2021.11.15>
第2回 コロムビアレコード移籍 <2021.11.22>
第3回 『ナイアガラ・トライアングル』レコーディング <2021.11.29>
第4回 『ゴー・ゴー・ナイアガラ』放送終了危機<2021.12.06>
第5回 『ナイアガラ・トライアングル』レコーディング パート2 <2021.12.13>
第6回 ナイアガラのパッケージ・デザイン<2021.12.20>
第7回 ナイアガラのパッケージ・デザイン パート2 <2021.12.27>
第8回 『ナイアガラ・トライアングル』プロモーション <2022.01.03>
第9回 「ナイアガラ音頭」プロモーション <2022.01.10>
第10回 難産の『ゴー!ゴー!ナイアガラ』 <2022.01.17>
第11回 ついに『GO! GO! NIAGARA』発売 <2022.01.24>
第12回 『SUMIKO LIVE』 <2022.01.31>
第13回 『ナイアガラ担当2年目の谷ヤン』 <2022.02.07>
第14回 『ナイアガラCMスペシャル』発表 <2022.02.14>
第15回 ガール・シンガー、シリア・ポール <2022.02.21>
第16回 『移籍後初のナイアガラ・ツアー』(Coming Soon!)

【一言コラム】
豊川稲荷 <2021.11.29>
日本コロムビア本社 <2021.12.13>
niagara ✕ COLUMBIA バインダー<2021.12.27>
ABC会館ホール <2022.01.03>
日本コロムビア・グランド・スタジオ・ロビー <2022.01.10>
TBS "G"スタジオ  <2022.02.07>

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