見出し画像

「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」 第4回「ゴー・ゴー・ナイアガラ」放送終了危機

画像1

大滝から「ゴー・ゴー・ナイアガラ」放送のスポンサーになって欲しいとの相談が寄せられた。谷川は日本コロムビア社内調整に奔走する。

画像2

波料

大滝から谷川に「自分がディスクジョッキーを担当している深夜のラジオ番組を続けたいが、コロムビア側でその費用を負担してくれないか」という相談が寄せられたのは、1976年1月のことだった。

ラジオ関東で吉見佑子の番組についで1975年6月から始まった番組『ゴー・ゴー・ナイアガラ』は、2月までの電波料については確保されていたが、そのあとが決まっておらず、まもなく改編時期をむかえるとのことである。

ナイアガラ ・エンタープライズには、資金的な余力がなく、大滝としても番組が終了することは覚悟している。

それでも、大滝はラジオ番組のDJに、一方ならぬ思いをもっており、これまで、特に思い入れの強いクレイジー・キャッツやエルヴィスについての特集、細野晴臣や松本隆、山下達郎や伊藤銀次との対談なども実施してきている。大滝は、ラジオが売り上げアップにも貢献できると谷川に力説した。

大滝は、FENでかかるウルフマン・ジャックやジム・ピューターのような50年代から60年代のオールディーズに焦点をあてて、曲をかけて特集する番組を続けたいとの話だが、DJをするにしても糸井五郎さんのようにはできないだろう。

また、波料(なみりょう)は、最初に合意した契約事項には入っていない。口頭での追加について、正直、宣伝部の反応はわからない。でも、大滝にはコロムビアに根を生やしてほしいので、出してあげたいというのが谷川の思いだ。

調整するなら、まず自分のいる文芸部。そして宣伝部、最後に総務だろうか。コロムビア社内調整の苦労は、外からはわからないだろうが、大滝がやりたいことをやれる環境づくりにひと肌ぬいでみようと谷川は考えた。


「いいよ、宣伝に頼んでみる。」
「谷川さん、ありがとう。」
谷川が軽く頷いたとき、大滝は満面の笑みを浮かべ、感謝を述べた。

事務所に戻り、文芸部の宣伝担当に確認をした。
「大滝が、ラジ関で深夜3時からやっている放送なんだけど、あの波料、3月からウチで出すことできるかな?」

担当からは、あまり時間もおかず回答が返ってきた 。
「谷川さん、大丈夫ですよ。ラジ関ですよね。その額なら出せます。電波料は大丈夫です。このラジオ番組の制作費の方はナイアガラ・オフィスでいいんですね?」
「そう。それで十分!サンキュー」
谷川は、お礼を述べて、宣伝部に向かった。

ここまで話が見えてくると、あとは会社全体として仕事の段取りをどうつけるか、宣伝部との交渉である。

宣伝部の人間からすると、TVやラジオなど宣伝に関することは、“自分たち“の予算である。
谷川は宣伝部の部長に宣伝費をもらう仁義をきりに行った。

「今度、うちで面倒を見ることになる大滝詠一。ナイアガラというレーベルでやることになります。つきましては、ラジオ関東の「ゴー・ゴー・ナイアガラ」という番組の波料を出していただけないでしょうか。よろしくお願いします。」
谷川は宣伝部長に頭を下げた。

「ナイアガラ、なんだ、ソレ?こういうこと決めるのは、宣伝部が決めるんだ。そんなことを言ってくるディレクターなんて、いねぇよ!」
宣伝部長から、まくしたてられた。

「ラジオ関東は放送が関東一円に流れますが、価格帯は格安なので、効果が高いと考えています。文芸部としてもこのアーティストは必ず売りたいと思っておりますので、是非6か月分いただきたいと思います。なにとぞ、よろしくお願いします」谷川は、再度、頭を下げた。

「2クールとなると。宣伝費が増すかもしれないだろう」
怒りながらも、こちらの土俵に乗ってくれている。チャンスだと。

「ラジオ関東に値上げはないと思います」
「宣伝費って、そういうもんじゃねぇ!」
畳みかけた発言が逆効果を引き起こしてしまった、と、谷川は、反省した。


FUSSA45スタジオ

谷川が「ラジオ関東の波料は確保できた」と電話で告げると、大滝は意外なほど喜んだ。谷川が福生のジャパマー・ハイツを訪れ、ラジオ録音の様子を見にいった夕方、応接では、FENから、ブッカーTアンドMGズ「Hip Hug-Her」が流れている。

大滝は、自宅とレコーディング・スタジオ、そして応接間兼放送スタジオの3軒を借りている。ジャパマ―ハイツは、もともと米軍兵が住んでいた米軍ハウスだが、下士官ではなく、2等兵や軍属の住むような3LDKの部屋なので、それほど広くはない。

FUSSA45スタジオといっても居住部屋を改装したもので、250㎡もある大きな部屋に衝立がいくつも立つコロムビア第一スタジオなどとは比べ物にならない。


「足りない機具は、また今度、コロムビアから持ってきてあげるからなぁ。」
谷川は大滝に声をかけた。

スチューダーのような最新機器を持ち出してくるのは流石に無理だが、マイクなりなんなりは、払下げなど融通が利く範囲で格安でもってこよう 。

応接横のDJスタジオも4畳半の部屋である。入って向かいに横に長細い窓があり、普段はカーテンをひいているが、窓を開けると時折、米軍飛行機の音が大きく聞こえる。

ターンテーブルは、エレック時代に念願のDJを始めるときに、FM東海の放出品を24万円で買ったものだそうである。窓の下ターンテーブルの横には、4、5段のレコードラックがあり、1列100枚ほどのお気に入りのシングル盤が放送中にいつでもとれるように並んでいる。

放送はティアックのステレオのテープレコーダーに録音する。2チャンネルを、ラジオ用のモノにミックスして、マスターテープをシブイチで作って搬入しているとのことだ。

自分でミックスすることで、低音が生きるし、特性のマイクも使っている。でも、自分の思うことをラジオ番組でしゃべってダラダラやってると、ラジオ番組としての力が弱くなる。スポンサーがいなければ番組は成り立たない。

FENの夕方の生番組『The Kantoh Scene』では、アナウンサーが地域の話題や年代に関係なくヒット曲を次から次へと流しており、2度目のニュースがはじまるところで、再度、ブッカーTの「Time Is Tight」が流れていた。

お前はアーティストだ、まず曲を作って、そしてはやく売れてくれ、と谷川は思った。


画像3

はい、いかがでしたでしょうか。

今週の「「ゴー・ゴー・ナイアガラ」放送終了危機」でした。

次は「『ナイアガラ・トライアングル』レコーディング パート2」を予定しております。 コロムビアスタジオでのミックスについて、ご紹介したいと思います。

それではまた、本NOTEにて。Bye Bye!

2021.12.06 
霧の中のメモリーズ

画像4

「日本コロムビアの谷川恰と大滝詠一」
はじめに <2021.10.25>
第1回 プロローグ(舞台袖の谷ヤン) <2021.11.15>
第2回 コロムビアレコード移籍 <2021.11.22>
第3回 『ナイアガラ・トライアングル』レコーディング <2021.11.29>
第4回 『ゴー・ゴー・ナイアガラ』放送終了危機<2021.12.06>
第5回 『ナイアガラ・トライアングル』レコーディング パート2 (Coming Soon!)

【一言コラム】
豊川稲荷 <2021.11.29>