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月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(…
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#台湾

【読んでみましたアジア本】「知っている」からこそもっと「丁寧に知る」:野嶋剛『台湾の本音』(光文社新書)

日本社会にはあまりインパクトを与えるニュースではなかったものの、華人社会ではここ2年ほど注目の的になってきた台湾総統選挙と立法院議員選挙が終わった。
特に総統選挙はこれまでさまざまな紆余曲折を経て、一時は野党・中国国民党(国民党)が有利とも言われたけれども、とうとう与党・民主進歩党(民進党)が政権3期目入りに成功した。

1996年に始まって4年毎に行なわれてきた総統選挙では、これまで国民党と民進

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【読んでみましたアジア本】2024年を前に読んでおきたい、お薦めアジア本

今年最後のアジア本は、恒例の年始年末お薦め本。今年、「読んでみましたアジア本」でご紹介した本の一覧を書き出したところ、なかなか収穫の多い1年であったように思われる。

特に、今後アジア情勢を観察する際に、基礎的知識を身につけるための「教科書」として何度か読み直すだろうと思われる本が数冊入っており、きっと将来、「読んでてよかった…」と思えるときがくると感じている。というか、すでに感じている。

ただ

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【読んでみましたアジア本】台湾が混乱を経て積み上げた知見から学べること:栖来ひかり『日台万華鏡』(書肆侃侃房)

わたしがかつて住み慣れた中国から、次々と知人が抜けていく。これまで会ったことはないけれども、ツイッター(「X」ではなく、本当に「ツイッター」だった時代)では親しかった人からもダイレクトメッセージが届き、「東京に移住するメドがついたので、機会があったらぜひ会いたい」という連絡をもらった。

さらには今も足を向けずにはいられない香港からも、どんどん人がいなくなっていく。ひょっこりとフェイスブックに顔を

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【読んでみましたアジア本】 日本にもいる、歴史と政治に翻弄される人たち/陳天璽『無国籍と複数国籍 あなたは「ナニジン」ですか?』(光文社新書)

香港からの人材の流出が止まらない。そしてその動きは、香港のさまざまな面に影響を与えている。

最近もっとも注目されているのが「教師不足」だ。今年は7月に入っても新聞の求人欄に「教師募集」の広告が出ているとメディアが報じた。これはそれだけ読むと何を意味するかわからないだろうが、9月から始まる新学期を前に7月に入ってもまだ教師陣を固められない学校が、それも校名を見るとかなりの著名校が複数ある、というこ

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【読んでみましたアジア本】巨匠が語る観察眼、表現するということ/侯孝賢(著)・卓伯棠(編)・秋山珠子(訳)『侯孝賢の映画講義』(みすず書房)

ここ数日、「生命力」について考えている。「生命」ではなく「生命力」。

きっかけはたぶん、7月1日の香港主権返還25周年だった。わずか数ヵ月前にわたしが現地で実際に見聞きし、帰ってきてからも伝わってくる現地の生々しい感情や人々の思い、そういったものがばっさりと抜け落ちた日本メディアの返還25周年報道の数々。もちろん、その記事はそれを伝えているつもりだろうが、どちらかというと、記者たちが現地入りする

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【読んでみましたアジア本】細やかな感受性と落ち着いた視野が印象的な天才ハッカーの言葉/アイリス・チュウ、鄭仲嵐『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』(文藝春秋)

「オードリー・タン」あるいは「唐鳳」という名前を言われても、日本ではまだまだ「だれ?」という人のほうが多いだろう。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大後、広くメディアに取り上げられつつはあるが、それでもその名前はかなり一部の人たちの間で語られているに過ぎない。日本における最大情報拡散ツールである、テレビ局のニュースワイドショーでまだ本格的に取り上げられていないからだ。

でも、だからといって、

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【読んでみましたアジア本】「同じ」と「違う」、そんなのあって当たり前じゃん?:温又柔『魯肉飯のさえずり』

子どもにとって、最初の社会との接触は幼稚園、そして小学校だ。幼稚園は最初に家族以外の人たちと一緒に過ごすチャンスで、小学校からはだんだん1日のほとんどを外で過ごすことになる。子ども同士の社会も形成されるが、精神的には完全に親離れしていないから、家庭のルールが自然に子どもたちの社会にももたらされる。

そうするうちに、だんだん「自分たちの言葉で話そうとしなくなった」という話をあちこちの親たちから聞い

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【読んでみました中国本】巣立つ息子たちに捧げる台湾人作家父の中国うんちく学:呉祥輝『君と共に中国を歩く』

◎『君と共に中国を歩く』呉祥輝・著/東 光春・訳(評言社)

アマゾンができて便利になったわぁー、と思ったりもするんだけど、それでもやっぱり自分で書店の書棚を眺めてみたりもする。でも、そこに並ぶ主観バリバリのタイトルにアテられてさっさと撤退したくなる。

なぜ、人は中国について述べる時、自分の結論をまず押し付けるのか? そんな本がずらずら並んだところで、素直に自分が体験できない、あるいはまだ触れた

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【読んでみました中国本】30年前のあの日は人々にとって何を意味するのか:安田峰俊「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」

◎「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」安田峰俊(角川書店)

「八九六四」。なんと刺激的なタイトルにしたものだ。

一般の日本人はほとんどぴんとこないだろうが、中国語のネット情報に触れている者なら一目見ただけで説明はいらない。1989年6月4日、あの天安門事件の日を意味している。

改革開放派だったが失脚したまま亡くなった胡耀邦・元中国共産党総書記の死がきっかけになって、政治改革を求めて天安

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