【読んでみましたアジア本】台湾が混乱を経て積み上げた知見から学べること:栖来ひかり『日台万華鏡』(書肆侃侃房)

わたしがかつて住み慣れた中国から、次々と知人が抜けていく。これまで会ったことはないけれども、ツイッター(「X」ではなく、本当に「ツイッター」だった時代)では親しかった人からもダイレクトメッセージが届き、「東京に移住するメドがついたので、機会があったらぜひ会いたい」という連絡をもらった。

さらには今も足を向けずにはいられない香港からも、どんどん人がいなくなっていく。ひょっこりとフェイスブックに顔を出したかと思うと、居場所がイギリスだったり、カナダだったり。そして、「やっと落ち着いた」の一言で、ああこの人も……と気づくことになる。

だが、この8月に、そうやって国を跨いで移動したまだ若い友人2人の死を伝えられた。どちらも移住先に引っ越してまだ1年あまり、そしてそのどちらもが病気によって周囲が驚くほどの速さで死に至った。これから新天地で新しい生活を夢見ていた最中の2人の人生に、なぜ彼らはこんな目に遭わなくてはならなかったのだろうとなんども思いを巡らせた。

2人とも住む世界は違えども、それぞれに友人の多い人だった。もし何事もなく、彼らが生まれ育った土地で、昔ながらの仲間たちに囲まれてにぎやかな生活を続けていれば、病気とはいえ異国で苦しまずにすんだのではないか。その彼らを彼らが愛する土地から離れざるをえなくしたのはいったいなんだったのか……訃報を聞いて嘆き悲しむ故郷の友人たちの姿を見ながら、ぐるぐるぐるぐると答えのない問いが頭にもたげてくる。

わたしは自分が国境を跨ぐことで、いろんな経験を身に着け、思考を転換し、視野を広げるチャンスをもらったことに感謝しているので、そのこと自体がこれほどまでに、そして取り返しのつかないほど一人の人生を変えてしまうというもうひとつの現実に、とにかく今は言葉がない。

その最中に、今回ご紹介する、栖来ひかり著『日台万華鏡』を手に取った。ここにも、国を跨ぐ人の眼差しが詰まっている。


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