ヤギの本屋さん・テンガイ

リアル書店で10年店長をやってました。お店はなくなってしまいましたが、読みたい本を探す…

ヤギの本屋さん・テンガイ

リアル書店で10年店長をやってました。お店はなくなってしまいましたが、読みたい本を探すお手伝いがしたくてとりあえず書評というには拙い個人的感想文を書いていこうと思います。あなたの読みたい本が見つかりますようにーーー

記事一覧

読書感想『彼女が生きてる世界線!』中田永一

普通のサラリーマンだった『僕』は交通事故で命を落とした。 …はずなのだが、全くの別人として意識を吹き返してしまった。 それも、生前に好きだったアニメ「きみといっし…

読書感想『六月のぶりぶりぎっちょう』万城目 学

今から20年ほど前、大学生になった私は京都で女子学生寮に入った。 そこは今考えるとちょっとおかしい古い言い回しが横行しており、寮生は女御(にょご)と呼ばれ、相部屋…

読書感想『魂婚心中』芦沢 央

未婚で死んだ場合、死後結婚が執り行われることが一般的になった。 今ではKonKonというマッチングアプリまで普及し、死後結婚で理想の相手と結ばれることが出来ると若者の…

読書感想『トヨタの子』吉川 英梨

日本企業最大利益を誇るトヨタ自動車。 そんなトヨタ自動車を立ち上げたのは、豊田喜一郎の情熱だった。 紡績工場の二代目として生まれ、自動機織機を完成させた喜一郎は、…

読書感想『ペンギン・ハイウェイ』森見 登美彦

小学四年生であらゆることに研究熱心なぼく(アオヤマ君)。 毎日熱心にノートを取り、たくさんの本を読み、身の回りの疑問点を解き明かそうとしている。 ある日、彼の住む…

読書感想『愚か者の石』河崎 秋子

明治18年初夏、自由民権運動に参加していた瀬戸内巽は国事犯として捕縛され、懲役13年の判決を受けてしまう。 家族にも見放され、許嫁だったはずの女はあっさりと自分の兄…

読書感想『笑う森』荻原浩

ASD児であり意思の疎通が普通の子のようにできない真人が、小樹海とも称される神森の森林で迷子になった。 シングルマザーである岬は、真人をわざと森林に置き去りにしたか…

読書感想『城崎にて 四篇』森見登美彦 他

奈良県ゆかりの作家4人が大和八木駅近くの焼鳥屋に集まり、しょうもない話を繰り広げていた。 その中で森見登美彦氏の何気ない一言をきっかけに、彼らは城崎温泉へ遊びに行…

読書感想『沙を噛め、肺魚』鯨井 あめ

世界が沙嵐に襲われて、すべてが沙に埋まりゆく世界。 どこにでも入り込む沙のせいで、世界は大きく展開できなくなってしまった。 通信は途切れ、交通は乱れ、それでも人々…

読書感想『悪いものが、来ませんように』芦沢 央

不妊治療に励むも子供に恵まれない紗英。 何も長続きがせず、うまく回りとも溶け込めない紗英だが、彼女にはなんでも共有できる親友・奈津子がいた。 なっちゃんがいてく…

読書感想『一番の恋人』君嶋 彼方

何事でも一番になれるように、そんな父親の想いをこめて名付けられた道沢一番。 男らしく生きろと説く父親に失望されないように、ずっと努力をしてきた一番はそれで人生が…

読書感想『東京ハイダウェイ』古内 一絵

大手の通販会社に勤め念願のマーケティング部に配属されたのに、仕事のやり方が同期の直也と折り合わず息苦しさを感じていた桐人。 直也に馬鹿にされ疲弊していた昼休み、…

読書感想『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』白石 一文

89歳までの健康長寿を保証する世紀の発明"Timer" 現在88歳のカヤコは、目前に迫る死について疑問を持っていた。 その日が来たら私の心と身体はいったいどこへ行くのか?  …

読書感想『カフネ』阿部 暁子

法務局に務める野宮薫子は、12歳年下の弟・春彦が急死したことで悲嘆に暮れていた。 まだ29歳という若さで亡くなった弟が遺言書を残していたことに疑問を感じながらも…

読書感想『震える天秤』染井 為人

高齢男性ドライバーの運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員が死亡する事故が起きた。 アクセルとブレーキを踏み間違えたと語る運転者には認知症の疑いがかけられ…

読書感想『なんどでも生まれる』彩瀬 まる

一羽のチャボが巻き起こす、人の出会いと再生の物語 外敵に襲われ逃げ出したところを茂に助けられたチャボの桜。 まだ幼い桜を大事に守ってくれた茂だが、茂は仕事がうま…

読書感想『彼女が生きてる世界線!』中田永一

普通のサラリーマンだった『僕』は交通事故で命を落とした。
…はずなのだが、全くの別人として意識を吹き返してしまった。
それも、生前に好きだったアニメ「きみといっしょに歩きたい」の悪役・城ヶ崎アクトとして…
アニメとして描かれた数年前に目を覚ました『僕』は、ヒロイン・葉山ハルが白血病で死ぬエンディングを変えることを決意する。
設定資料集まで読み込んでいた僕なら、葉山ハルを救うことが出来るはずだ―――

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読書感想『六月のぶりぶりぎっちょう』万城目 学

今から20年ほど前、大学生になった私は京都で女子学生寮に入った。
そこは今考えるとちょっとおかしい古い言い回しが横行しており、寮生は女御(にょご)と呼ばれ、相部屋の仕切りは御簾とされていた。
学生の間しか住めないその寮には、いつからいるかわからないお局様的存在「きよ」がいた。(三月の局騒ぎ)
京都で研修旅行に訪れた滝川は、気づけば見知らぬホテルで密室殺人事件に巻き込まれてしまう。
銃で撃たれた死体

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読書感想『魂婚心中』芦沢 央

未婚で死んだ場合、死後結婚が執り行われることが一般的になった。
今ではKonKonというマッチングアプリまで普及し、死後結婚で理想の相手と結ばれることが出来ると若者の間で爆発的に普及をしている。
ある時私は、自分の推しのリア垢をKonKonで見つけてしまう。
もし今推しが死に、速やかに自分を殺すことが出来たなら、推しとマッチングされるのは自分かもしれない。
推しが死ねば、推しと死後結婚できるかもし

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読書感想『トヨタの子』吉川 英梨

日本企業最大利益を誇るトヨタ自動車。
そんなトヨタ自動車を立ち上げたのは、豊田喜一郎の情熱だった。
紡績工場の二代目として生まれ、自動機織機を完成させた喜一郎は、日本に一大産業を築くべく国産自動車の開発に乗り出した。
その孫として生まれた豊田章男。
トヨタのボンクラ御曹司と揶揄され、どこに行っても何をしても個人としては見てもらえない章男は自分の境遇に打ちのめされていた。
そんな二人は不思議な遭遇を

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読書感想『ペンギン・ハイウェイ』森見 登美彦

小学四年生であらゆることに研究熱心なぼく(アオヤマ君)。
毎日熱心にノートを取り、たくさんの本を読み、身の回りの疑問点を解き明かそうとしている。
ある日、彼の住む郊外の町にペンギンたちが現れた。
このおかしな現象に、どうやら歯科医院のお姉さんが関わっているらしい…
早速ぼくは謎の研究を始める。

日本SF大賞を受賞し、アニメ映画化もされた森見登美彦氏の代表作の一つである(登美彦氏の場合、なんだかん

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読書感想『愚か者の石』河崎 秋子

明治18年初夏、自由民権運動に参加していた瀬戸内巽は国事犯として捕縛され、懲役13年の判決を受けてしまう。
家族にも見放され、許嫁だったはずの女はあっさりと自分の兄に嫁ぎ、その薄情さに恨みの塊となっていた巽は北海道の樺戸集治監に収監された。
沸々と沸き起こる恨みを抱え、自分が捕まったのは冤罪だ、俺は人を殺したりしたわけじゃないと腐っていた巽は、女の話や食い物の話など囚人の欲望を膨らませる夢のような

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読書感想『笑う森』荻原浩

ASD児であり意思の疎通が普通の子のようにできない真人が、小樹海とも称される神森の森林で迷子になった。
シングルマザーである岬は、真人をわざと森林に置き去りにしたかのような誹謗中傷に晒される。
一週間という絶望的な日数が過ぎ、諦めムードが漂ったが、奇跡的に真人は発見された。
見慣れぬマフラーを巻き、あまり体重減少もみられない真人は『クマさんが助けてくれた』としか答えない。
秋深い森で迷子になった一

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読書感想『城崎にて 四篇』森見登美彦 他

奈良県ゆかりの作家4人が大和八木駅近くの焼鳥屋に集まり、しょうもない話を繰り広げていた。
その中で森見登美彦氏の何気ない一言をきっかけに、彼らは城崎温泉へ遊びに行くことに。
宿は川口屋城崎リバーサイドホテル。
カニ料理のフルコースに舌鼓を打ち、遊技場でスマートボールや射的に興じ、ロープウェイに乗って温泉寺に詣で、城崎文芸館を訪問した…そんなユカイな旅程の思い出からできた、作家四人による「城崎にて」

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読書感想『沙を噛め、肺魚』鯨井 あめ

世界が沙嵐に襲われて、すべてが沙に埋まりゆく世界。
どこにでも入り込む沙のせいで、世界は大きく展開できなくなってしまった。
通信は途切れ、交通は乱れ、それでも人々はそれぞれのコミュニティに集まり営みを続けている。
護られた街の中で、安定した仕事で稼いで、どこに遠出することもなく、安全で快適に暮らすことが至上となってしまい、芸術は機械任せで享受するものであり、人が時間を割いて生み出すものではなくなっ

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読書感想『悪いものが、来ませんように』芦沢 央

不妊治療に励むも子供に恵まれない紗英。
何も長続きがせず、うまく回りとも溶け込めない紗英だが、彼女にはなんでも共有できる親友・奈津子がいた。
なっちゃんがいてくれれば大丈夫…何もかもうまくいかなくてもなっちゃんが味方だから耐えられると本気で思っている。
奈津子は奈津子で所属するボランティア団体にはうまく馴染めず、今ここに紗英がいてくれればいいのに、と心の支えにしていた。
べったりとお互いに

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読書感想『一番の恋人』君嶋 彼方

何事でも一番になれるように、そんな父親の想いをこめて名付けられた道沢一番。
男らしく生きろと説く父親に失望されないように、ずっと努力をしてきた一番はそれで人生がうまくいってきた。
普通の結婚をして、普通に子供を育てて…何の疑問もなくそう思ってきた一番は、交際が2年目になり30歳になった恋人・千凪にプロポーズをする。
喜んでくれると思った一番に対して、千凪は予想外の返事を返した。
「私には恋愛感情が

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読書感想『東京ハイダウェイ』古内 一絵

大手の通販会社に勤め念願のマーケティング部に配属されたのに、仕事のやり方が同期の直也と折り合わず息苦しさを感じていた桐人。
直也に馬鹿にされ疲弊していた昼休み、無口で真面目な同僚の璃子が軽快に歩いていくのを見かけ思わず追いかけてしまう。
彼女の行く先にあったのは、プラネタリウムだった…
現代を取り巻く様々な歪みの中で疲弊した社会人たちが見つける、ささやかな息抜きの連作短編集。

真面目に、自分のこ

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読書感想『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』白石 一文

89歳までの健康長寿を保証する世紀の発明"Timer"
現在88歳のカヤコは、目前に迫る死について疑問を持っていた。
その日が来たら私の心と身体はいったいどこへ行くのか? 
知らないままにその日を迎えることに疑問を持ったカヤコは、Timerを開発し失踪したサカモト博士を探すことにする。
装着したTimerを外すことが出来れば不老不死にもなれるという噂まであり、その秘密を知りたいと願うカヤコは夫婦で

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読書感想『カフネ』阿部 暁子

法務局に務める野宮薫子は、12歳年下の弟・春彦が急死したことで悲嘆に暮れていた。
まだ29歳という若さで亡くなった弟が遺言書を残していたことに疑問を感じながらも、彼が残した意志を叶えてあげたいと彼の恋人だった小野寺せつなと会う約束をする。
ところが待ち合わせに遅れてやってきたせつなは、春彦の遺言にある遺産の受け取りを拒否するという。
せつなのことをいけ好かない小娘だと思いながらも、何とか春彦の意思

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読書感想『震える天秤』染井 為人

高齢男性ドライバーの運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員が死亡する事故が起きた。
アクセルとブレーキを踏み間違えたと語る運転者には認知症の疑いがかけられた。
フリーライターの後藤律は、高齢ドライバーが運転をする実情を書くため加害者の住む村・埜ヶ谷村を訪れる。
奇妙な風習の残る閉鎖的なその村で、律は奇妙な手ごたえを感じる。
この村は、何かを隠している…
取材を進めるうちに暴かれる、事故の真相

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読書感想『なんどでも生まれる』彩瀬 まる

一羽のチャボが巻き起こす、人の出会いと再生の物語

外敵に襲われ逃げ出したところを茂に助けられたチャボの桜。
まだ幼い桜を大事に守ってくれた茂だが、茂は仕事がうまくいかず心に深い傷を負ってしまい部屋から出ることさえできなくなってしまう。
茂の力になりたい桜だが、如何せんチャボの桜は何もできず弱りはてていた。
そんな茂と桜を助けてくれたのは、金物店を営む祖父母だった。
東京下町の商店街の金物屋の二階

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