読書感想『震える天秤』染井 為人

老人の運転する車がコンビニに突っ込んだ…
よくある事故だと思った…

高齢男性ドライバーの運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員が死亡する事故が起きた。
アクセルとブレーキを踏み間違えたと語る運転者には認知症の疑いがかけられた。
フリーライターの後藤律は、高齢ドライバーが運転をする実情を書くため加害者の住む村・埜ヶ谷村を訪れる。
奇妙な風習の残る閉鎖的なその村で、律は奇妙な手ごたえを感じる。
この村は、何かを隠している…
取材を進めるうちに暴かれる、事故の真相とは?

今や社会問題にもなっている高齢ドライバーによる事故を題材にしたミステリーである。
当初律が調べようとしたのは、事故を起こした老人が認知症の自覚はあったのか、その車は普段から運転されていたのか、ということである。
そしてそこから、いくら高齢ドライバーが危ないとは言っても日本の田舎で暮らしていると車がないと生活ができない現状についてを掘り下げる予定だったのだ。
事故としては大きなものではあるが、内容としては最近よくある単純なものだと思っていたのだが、現地で聞き込みをするうちにどうも違和感がぬぐえなくなっていく。
果たして加害者は、本当に認知症だったのか?
もし認知症でないのなら、これは本当に事故だったのか?
事故でないというのなら、いったいなぜこんなことが起こったのか――ー
上記を軸としながら、コンビニのフランチャイズの問題、未成年の起こした死亡事故の扱い、自然災害まで切り込む(ちょっと多い気もしたけど)、なかなかに社会派な一冊である。
そしてタイトルの天秤とは、真相を知ったときにジャーナリストである律が、それをどう扱うべきかの話である。
個人的には特に最近の現状として品のないマスコミ、それに同調して側面だけを見て糾弾する人たちがめちゃくちゃ嫌いなので、律がどう決断するのかが非常に気になった。
真実を暴く、そしてそれを公表する――ーそれは一体本当はどこまでが正義なのかを考えさせられる一冊である。
なかなか面白かった。

こんな本もオススメ!


・『流浪の月』凪良 ゆう

・芦沢 央『夜の道標』

・『朝と夕の犯罪』降田 天

見る場所が違うと全く違う様相を表す話って面白いし、何より自分の視点の狭さを反省しちゃうんですよね。

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,263件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?