ヤギの本屋さん・テンガイ

リアル書店で10年店長をやってました。お店はなくなってしまいましたが、読みたい本を探す…

ヤギの本屋さん・テンガイ

リアル書店で10年店長をやってました。お店はなくなってしまいましたが、読みたい本を探すお手伝いがしたくてとりあえず書評というには拙い個人的感想文を書いていこうと思います。あなたの読みたい本が見つかりますようにーーー

最近の記事

読書感想『愚か者の石』河崎 秋子

明治18年初夏、自由民権運動に参加していた瀬戸内巽は国事犯として捕縛され、懲役13年の判決を受けてしまう。 家族にも見放され、許嫁だったはずの女はあっさりと自分の兄に嫁ぎ、その薄情さに恨みの塊となっていた巽は北海道の樺戸集治監に収監された。 沸々と沸き起こる恨みを抱え、自分が捕まったのは冤罪だ、俺は人を殺したりしたわけじゃないと腐っていた巽は、女の話や食い物の話など囚人の欲望を膨らませる夢のような法螺ばかり吹く男・大二郎と同房になる。 大法螺を吹いては周りの囚人たちを煙にまき

    • 読書感想『笑う森』荻原浩

      ASD児であり意思の疎通が普通の子のようにできない真人が、小樹海とも称される神森の森林で迷子になった。 シングルマザーである岬は、真人をわざと森林に置き去りにしたかのような誹謗中傷に晒される。 一週間という絶望的な日数が過ぎ、諦めムードが漂ったが、奇跡的に真人は発見された。 見慣れぬマフラーを巻き、あまり体重減少もみられない真人は『クマさんが助けてくれた』としか答えない。 秋深い森で迷子になった一週間、いったい真人に何があったのか? 一週間の空白を埋めるために岬と、真人の叔父

      • 読書感想『城崎にて 四篇』森見登美彦 他

        奈良県ゆかりの作家4人が大和八木駅近くの焼鳥屋に集まり、しょうもない話を繰り広げていた。 その中で森見登美彦氏の何気ない一言をきっかけに、彼らは城崎温泉へ遊びに行くことに。 宿は川口屋城崎リバーサイドホテル。 カニ料理のフルコースに舌鼓を打ち、遊技場でスマートボールや射的に興じ、ロープウェイに乗って温泉寺に詣で、城崎文芸館を訪問した…そんなユカイな旅程の思い出からできた、作家四人による「城崎にて」 …くだらないぃ~…なんてけしからん!!!最高か!!!(褒めてる) 奈良県の大

        • 読書感想『沙を噛め、肺魚』鯨井 あめ

          世界が沙嵐に襲われて、すべてが沙に埋まりゆく世界。 どこにでも入り込む沙のせいで、世界は大きく展開できなくなってしまった。 通信は途切れ、交通は乱れ、それでも人々はそれぞれのコミュニティに集まり営みを続けている。 護られた街の中で、安定した仕事で稼いで、どこに遠出することもなく、安全で快適に暮らすことが至上となってしまい、芸術は機械任せで享受するものであり、人が時間を割いて生み出すものではなくなってしまった。 それでも、音楽が好きな少女・ロピは、音楽を生業にして生きていきたい

        読書感想『愚か者の石』河崎 秋子

          読書感想『悪いものが、来ませんように』芦沢 央

          不妊治療に励むも子供に恵まれない紗英。 何も長続きがせず、うまく回りとも溶け込めない紗英だが、彼女にはなんでも共有できる親友・奈津子がいた。 なっちゃんがいてくれれば大丈夫…何もかもうまくいかなくてもなっちゃんが味方だから耐えられると本気で思っている。 奈津子は奈津子で所属するボランティア団体にはうまく馴染めず、今ここに紗英がいてくれればいいのに、と心の支えにしていた。 べったりとお互いに依存する紗英と奈津子、やがて彼女たちは取り返しのつかない事態を巻き起こす…

          読書感想『悪いものが、来ませんように』芦沢 央

          読書感想『一番の恋人』君嶋 彼方

          何事でも一番になれるように、そんな父親の想いをこめて名付けられた道沢一番。 男らしく生きろと説く父親に失望されないように、ずっと努力をしてきた一番はそれで人生がうまくいってきた。 普通の結婚をして、普通に子供を育てて…何の疑問もなくそう思ってきた一番は、交際が2年目になり30歳になった恋人・千凪にプロポーズをする。 喜んでくれると思った一番に対して、千凪は予想外の返事を返した。 「私には恋愛感情が分からない。番ちゃんのことは好きだけれど、愛してはいない」 今まで恋愛感情も性的

          読書感想『一番の恋人』君嶋 彼方

          読書感想『東京ハイダウェイ』古内 一絵

          大手の通販会社に勤め念願のマーケティング部に配属されたのに、仕事のやり方が同期の直也と折り合わず息苦しさを感じていた桐人。 直也に馬鹿にされ疲弊していた昼休み、無口で真面目な同僚の璃子が軽快に歩いていくのを見かけ思わず追いかけてしまう。 彼女の行く先にあったのは、プラネタリウムだった… 現代を取り巻く様々な歪みの中で疲弊した社会人たちが見つける、ささやかな息抜きの連作短編集。 真面目に、自分のことだけではなく取引先や周りの人たちに敬意を払いながら働く桐人を中心に、彼の同僚の

          読書感想『東京ハイダウェイ』古内 一絵

          読書感想『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』白石 一文

          89歳までの健康長寿を保証する世紀の発明"Timer" 現在88歳のカヤコは、目前に迫る死について疑問を持っていた。 その日が来たら私の心と身体はいったいどこへ行くのか?  知らないままにその日を迎えることに疑問を持ったカヤコは、Timerを開発し失踪したサカモト博士を探すことにする。 装着したTimerを外すことが出来れば不老不死にもなれるという噂まであり、その秘密を知りたいと願うカヤコは夫婦で情報を集め始める。 死、を89歳に設定できてしまう世界で、それを目前に迎えた夫

          読書感想『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』白石 一文

          読書感想『カフネ』阿部 暁子

          法務局に務める野宮薫子は、12歳年下の弟・春彦が急死したことで悲嘆に暮れていた。 まだ29歳という若さで亡くなった弟が遺言書を残していたことに疑問を感じながらも、彼が残した意志を叶えてあげたいと彼の恋人だった小野寺せつなと会う約束をする。 ところが待ち合わせに遅れてやってきたせつなは、春彦の遺言にある遺産の受け取りを拒否するという。 せつなのことをいけ好かない小娘だと思いながらも、何とか春彦の意思を通そうとした薫子だったがその場で倒れこんでしまい… ボロボロの傷ついた人たちが

          読書感想『カフネ』阿部 暁子

          読書感想『震える天秤』染井 為人

          高齢男性ドライバーの運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員が死亡する事故が起きた。 アクセルとブレーキを踏み間違えたと語る運転者には認知症の疑いがかけられた。 フリーライターの後藤律は、高齢ドライバーが運転をする実情を書くため加害者の住む村・埜ヶ谷村を訪れる。 奇妙な風習の残る閉鎖的なその村で、律は奇妙な手ごたえを感じる。 この村は、何かを隠している… 取材を進めるうちに暴かれる、事故の真相とは? 今や社会問題にもなっている高齢ドライバーによる事故を題材にしたミステリ

          読書感想『震える天秤』染井 為人

          読書感想『なんどでも生まれる』彩瀬 まる

          一羽のチャボが巻き起こす、人の出会いと再生の物語 外敵に襲われ逃げ出したところを茂に助けられたチャボの桜。 まだ幼い桜を大事に守ってくれた茂だが、茂は仕事がうまくいかず心に深い傷を負ってしまい部屋から出ることさえできなくなってしまう。 茂の力になりたい桜だが、如何せんチャボの桜は何もできず弱りはてていた。 そんな茂と桜を助けてくれたのは、金物店を営む祖父母だった。 東京下町の商店街の金物屋の二階に保護されたものの、そこで引きこもる茂。そんな茂を外へ連れ出してくれる人を探しに

          読書感想『なんどでも生まれる』彩瀬 まる

          読書感想『告白撃』住野 よる

          三十歳を目前に婚約した千鶴は、結婚式の前にどうしても決着をつけたいことがあった。 それは大学時代からの友人で、今もそばにいると一番安心する響貴のことだ。 千鶴にとってかけがえのない親友である響貴だが、いつのころからか響貴が自分を好きなことを感じていた。 自分は結婚してしまう、けれど響貴を傷つけたくない…出来るなら響貴には思いを引きずらずに前に進んでいってほしい―― そのために千鶴はとにもかくにも響貴に自分への想いを告白してもらわなければならない…そして彼を振らなければならない

          読書感想『告白撃』住野 よる

          読書感想『クスノキの女神』東野 圭吾

          不思議なクスノキを祀る月郷神社、そこでクスノキの番人を務める玲斗。 ある日玲斗が神社の掃除をしていると、神社に詩集を置かせて欲しいと女子高生の佑紀奈とその弟・妹が頼んできた。 月郷神社には売店がないため断ろうとした玲斗だったが、彼女たちの切実な表情に負けうけおうことに。 そんな折、叔母・千舟の付き添いで訪れた認知症カフェで玲斗は眠るとその日の記憶を失くしてしまう少年・元哉と出会う。 類まれない絵の才能を持つ元哉は、月郷神社にある詩集にインスピレーションを受け… 人の想いを伝え

          読書感想『クスノキの女神』東野 圭吾

          読書感想『そして、海の泡になる』葉真中 顕

          バブル絶頂の1990年、個人としては史上最高額・4300億円の負債を抱え自己破産した朝比奈ハル。 彼女の買う株は上がる…証券マンたちに『北浜の魔女』まで言われた稀代の投資家のハルだったが、彼女の伝説はバブルとともに崩れ去った。 挙句の果てに彼女は殺人を犯し無期懲役の実刑を受け、平成の終わる年にそのまま獄中で息を引き取ることとなる――ー 2020年、コロナ真っただ中に、ハルの人生を小説に書きたいと思った『私』は、彼女の関係者たちに話を聞きに行く。 日本全体が浮かれていた時代にな

          読書感想『そして、海の泡になる』葉真中 顕

          読書感想『万両役者の扇』蝉谷 めぐ実

          江戸森田座気鋭の役者・今村扇五郎。 彼の役者として芸を追求してやまないその姿は、彼に関わる人を魅了し狂わせていく…。 芝居のためになら犬を殺す彼の妻、犬の形のまんじゅうをリアルに作りこむ和菓子屋、自分の衣装を仕立てるために教えを乞う若手役者… 芝居のために全てを捧げる扇五郎…果たして「芸のため」ならどこまでの所業が許されるのか。 芝居という偽りの世界で現実との境目があやふやになっていく人々を描くエンタメ時代小説。 うおおー…気持ちわるぃぃぃ(褒めてる)…!!!!!!! 舞台

          読書感想『万両役者の扇』蝉谷 めぐ実

          読書感想『ロスト・ケア』葉真中 顕

          前代未聞、43人を殺した男に死刑判決が下った。 その報を知ったとき、正義を信じる検察官の大友の耳の奥では『悔い改めろ』という叫び声が響いた。 戦後犯罪史に残る殺人鬼の≪彼≫は、何故そんな犯行に及んだのか‥‥ 43人を殺すに至った男の人生は、現代の抱える闇に取り込まれたものだった―― テーマになるのは介護、である。 物語は43人を殺した男に極刑が下るところから始まるが、大半はその殺人の描写ではなくそこに至ってしまうだけの理由があるのだという絶望を知らしめてくるようなストーリー

          読書感想『ロスト・ケア』葉真中 顕