ヤギの本屋さん・テンガイ

リアル書店で10年店長をやってました。お店はなくなってしまいましたが、読みたい本を探す…

ヤギの本屋さん・テンガイ

リアル書店で10年店長をやってました。お店はなくなってしまいましたが、読みたい本を探すお手伝いがしたくてとりあえず書評というには拙い個人的感想文を書いていこうと思います。あなたの読みたい本が見つかりますようにーーー

最近の記事

読書感想『さくらのまち』三秋 縋

二度と戻らないつもりでいた桜の町に彼を引き戻したのは、一本の電話だった。 「高砂澄香が自殺しました」…たった一言だけのその電話に尾上は動揺した。 高砂澄香…彼女は尾上の青春を彩り、同時に彼を一番傷つけた少女の名前だったからだ。 澄香の死を確かめるべく桜の町に舞い戻った彼は、かつての澄香と瓜二つの妹・霞と出会う。 かつて自分を欺いた少女と瓜二つの霞、そして尾上は霞を欺く役目を与えられる。 霞を欺きながら尾上は澄香の真実を探し始める。 設定は若干近未来、すべての人々が手に付ける

    • 読書感想『ダブルマザー』辻堂 ゆめ

      うだるような真夏日に、一人の女性が列車に飛び込んで死んだ。 彼女の持っていた所持品により、彼女は『馬淵鈴』であると警察は判断し、彼女の遺体を母親である馬淵温子に引き渡した。 彼女の葬儀をしましたものの鈴の死を受け止めきれていない温子は、彼女が死んだその日に持っていたカバンの中から見覚えのない財布とスマホを見つける。 鈴のものではないそれらは、どうやら『柳島詩音』という音大生のものらしい。 詩音に返却するべく連絡を取ろうとしたが、詩音には繋がらず、代わりに彼女の母がそれらを引き

      • 読書感想『大樹館の幻想』乙一

        大きな大樹を中心に渦巻のように設計された広大な洋館・大樹館。 小説家であるご主人様が作り上げたこの屋敷で、住み込みの使用人として働く穂村時鳥。 彼女は大樹館の建設時に現場で働いていた父親が事故死し、その後母親の無理心中で生き残ったという壮絶な過去を背負い、生きてきた。 大樹館のご主人様により現在の仕事を与えられ、彼女は大樹館もご主人様も深く敬愛している。 そんなあるとき、彼女のお腹の中の胎児だと名乗る声が彼女に語り掛けてくる。 「…おかあさん、逃げてください。大樹館は炎にのま

        • 読書感想『小説 ふれる。』額賀 澪

          同じ島で育った幼馴染、秋と諒と優太。 子供のころから一緒だった彼らは、20歳になっても関係性は変わらず東京での共同生活を始めた。 タイプの違う彼らを結び付けたのは、島の言い伝えである生き物『ふれる』 『ふれる』には不思議な力があり、お互いの体に触れあえば考えてることを共有できるのである。 ずっと考えることを共有してきた3人は東京へ来るときも『ふれる』を連れてきた。 上手くいっていたはずの共有生活は、2人の女の子が家に転がり込んできたことと、『ふれる』の今まで知らなかった能力を

        読書感想『さくらのまち』三秋 縋

          読書感想『嘘か真言か』五十嵐 律人

          念願がかなって志波地方裁判所の刑事部に配属された、任官して三年目の裁判官・日向由衣。 しかし、移動先の先輩・紀伊真言裁判官は癖が強いことで悪評が名高い。 理系大学院出身の変わり種で、プログラムを組むように淡々と裁判を進めバグを処理するように有罪判決を宣告するといわれる紀伊…それだけでなく彼は『嘘を見抜ける』とも言われている…。 赴任したばかりの判事補には仕事がない由衣が裁判に参加するには、紀伊が合議審を執り行ってくれないといけない。 ところが、紀伊は単独審しか開いてくれず、合

          読書感想『嘘か真言か』五十嵐 律人

          読書感想『塔のある図書館にて』麦野弘明

          「科学」に不審を抱き大学を休学している池田哲のもとに、かつての同級生・藤崎雪葉が訪ねてきた。 彼女は一本の鍵を池田に託し、謎を解いてほしいと言って去っていった。 謎がある場所は「桂の森図書館」、それは雪葉の祖父であり有名な小説家だった桂城翔葉が建てた、時計塔のある図書館だった。 池田は現在そこの管理人をしている恩師・北岡を訪ね、そこで北岡が預けられたという自分の託されたものと対になる鍵をうけとる。 塔の謎を解き明かしながら、徐々に明かされる塔の正体…そこに込められた思いとは?

          読書感想『塔のある図書館にて』麦野弘明

          読書感想『春のほとりで』君嶋 彼方

          高校の教室で、藻掻く高校生たちを描く連作短編集。 放課後の教室で同じ人を見つめる男女、隠したい小学校時代の失態を知ってる同級生が同じ教室にいる少女、老け顔が理由で屋上に呼び出された少年、SNSでバズる友人に劣等感を抱く少年、馬鹿にされることが怖くて漫画を描いてることが言えない少女、一番の親友が異性だったというだけで恋愛の噂話として消費されてしまう二人… ひとつの教室を舞台に、その中で劣等感を抱える少年少女たちの日々の物語。 同じ教室を舞台に、高校生たちがそれぞれの劣等感を抱

          読書感想『春のほとりで』君嶋 彼方

          読書感想『ガチョウの本』イーユン・リー

          フランスの片田舎で暮らす13歳の少女、アニエスとファビエンヌ。 アニエスの一番の理解者はファビエンヌであり、ファビエンヌの一番の理解者はアニエスであるべきだった。 すべての物事が二人で完結していたはずなのに、ファビエンヌが持ち掛けた『ゲーム』が二人の運命を変えていく。 それは、ファビエンヌが語った物語をアニエスが書き、本として出版させることだった。 アニエスの名前で発表された物語は思わぬ評価を受け世間の注目を集めるが… 2023年度ペン/フォークナー賞受賞したシスタ

          読書感想『ガチョウの本』イーユン・リー

          読書感想『一ノ瀬ユウナが浮いている』乙一

          幼馴染みの一ノ瀬ユウナが、17歳で死んだ。 バイトの帰りに大雨に見舞われたユウナは、水難事故にあい死んでしまった。 子供のころから一番近くで、いつからか恋心を抱きながらそばにいた大地はそのことを伝えることもできなかった…。 ユウナのいなくなった現実を何とか受け止めようと、彼女との思い出に区切りをつけるために二人でするはずだった線香花火に一人で火をつけた大地。 すると、ユウナが目の前に浮かびあがって…。 ユウナの好きだった線香花火、それに火をつけた時にだけ彼女が姿を現すことに気

          読書感想『一ノ瀬ユウナが浮いている』乙一

          読書感想『モノ』小野寺 史宜

          浜松町から羽田空港をつなぐ『東京モノレール』 普通の電車よりどこか特別感のあるモノレールの日々の運行を支える『東京モノレール』の職員たちと、乗客たち。 そんな東京モノレールを舞台にした深夜ドラマが撮りたいというオファーが入り、職員たちは協力しながら同時に改めてモノレールの魅力を感じる。 日常に混ざる非日常な空間で繰り広げられる、お仕事小説。 僕はめちゃくちゃ関西、大仏のお膝元の民なので全く馴染みはないんだが…それでも知ってる東京モノレール。 きちんとした生活路線でもありなが

          読書感想『モノ』小野寺 史宜

          読書感想『夜空に泳ぐチョコレートグラミー 』町田 そのこ

          みたらし団子にかぶりついたら差し歯がとれた… その差し歯が、サキコの記憶が溢れるのを防ぐストッパーだったらしい。 差し歯がとれたことがきっかけで、サキコの記憶が溢れだす。 それは、前歯を折った張本人であり、サキコの一番愛する人・りゅうちゃんとの思い出だった。 すり鉢状の小さな町で、そこに閉じ込められたような閉塞感にさいなまれながら必死に足掻く短編5本からなるデビュー作。 同じ町を舞台に、年齢も立場も違う5人のそれぞれの物語が繋がる連作短編集。 差し歯がとれたサキコの話から始

          読書感想『夜空に泳ぐチョコレートグラミー 』町田 そのこ

          読書感想『臨床のスピカ』前川 ほまれ

          動物介在療法に携わるDI犬のスピカと、そのハンドラーの凪川遥…遥がハンドラーとして生きていくまでの物語。 遥は看護師として就職をした時津風病院で、同期の武智詩織と仲良くなる。 かつて犬に助けられたことがある詩織は、動物介在療法導入を推し進めるべく、愛犬と共に自らハンドラーになろうとしていた。 ところが愛犬には介助犬の特性がなく、詩織にも病魔が襲う。 そんな彼らのそばにいた遥は、その意思を継ぐ形でハンドラーへの道を歩み始めることとなる。 スピカと出会い、犬と人との関係を通じ、人

          読書感想『臨床のスピカ』前川 ほまれ

          読書感想『透明な螺旋』東野圭吾

          南房総沖で、男の銃殺体が見つかった。 行方不明届が出されていたため、死体の身元はすぐに判明したが、何故か行方不明届を出した同居人の女性が姿をくらませた。 捜査にあたった草薙俊平と内海薫は、その過程で湯川学の名前を見つける。 事件の停滞がみられる中、草薙は横須賀の両親のもとにいるという湯川のもとへ向かうが――― ガリレオシリーズ第十弾。 もちろん文芸書の時にしっかり数回読んでるのだが、文庫になったので喜びいさんで再読である。 とりあえず文庫化おめでとうありがとう、巻末収録の『

          読書感想『透明な螺旋』東野圭吾

          読書感想『少女マクベス』降田天

          劇作家を目指し演劇女子高・百花演劇学校に入学した結城さやかだったが、同学年に天才・設楽了がいたことで、いつも二番手に追いやられていた。 了は俳優の能力を引き出し、観客を魅了する舞台を作り上げる卓越した才能をもっており、彼女の舞台に出たいと俳優志望の生徒たちはいつのころからか彼女を『神』と呼んでいた。 了は良い舞台を作り上げることしか頭になく、そのためには執拗に誰かを責め立てることを厭わない横柄な態度を繰り返していたが、仕上がった舞台の完成度からそれすらも許容されていた。 百花

          読書感想『少女マクベス』降田天

          読書感想『とわの庭』小川 糸

          目が見えない女の子・とわ。 とわの世界は、お母さんと暮らす家とその庭がすべてだった。 大好きなお母さんは言葉や物語を、香り豊かな庭の植物たちは四季の移ろいを、クロウタドリの合唱団が朝の訪れを教えてくれる。 お母さんと二人、満ち足りて暮らしていたはずなのに、ある時からお母さんはとわを置いて仕事に出かけるようになってしまい、徐々にその生活が崩れていく。 濃密な時間が薄れ、徐々に家の中にごみが溢れ、そしてついにお母さんはいなくなってしまった…。 目が見えず、家の中に取り残されたとわ

          読書感想『とわの庭』小川 糸

          読書感想『魔者』小林 由香

          週刊誌の記者をしている今井柊志は、今話題の本『ゴールドフィッシュ』を読んで愕然とした。 そこに書かれている、幼い姉と弟の物語はどう考えても自分の過去がモチーフになっているからだ。 既に姉が他界してしまった柊志には、この過去を誰かに語った記憶はなく、どうしてこんな本が存在しているのかが全く分からない。 作者である雨宮世夜は自分のことを一切公表しておらず、柊志との接点の有無さえ推測できない。 柊志には事故死した姉と、未成年で殺人を犯した兄がいた。 『ゴールドフィッシュ』の刊行と同

          読書感想『魔者』小林 由香