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読書感想『少女マクベス』降田天

あなたにとって、設楽了は『神』でしたか?

劇作家を目指し演劇女子高・百花演劇学校に入学した結城さやかだったが、同学年に天才・設楽了がいたことで、いつも二番手に追いやられていた。
了は俳優の能力を引き出し、観客を魅了する舞台を作り上げる卓越した才能をもっており、彼女の舞台に出たいと俳優志望の生徒たちはいつのころからか彼女を『神』と呼んでいた。
了は良い舞台を作り上げることしか頭になく、そのためには執拗に誰かを責め立てることを厭わない横柄な態度を繰り返していたが、仕上がった舞台の完成度からそれすらも許容されていた。
百花演劇学校で『神』と崇められていた了、しかし彼女は自分の手がける演劇の上演中に舞台から転落死してしまった。
不幸な事故として片づけられたが、翌年、新入生の藤代貴水が全校生徒の前で高らかに宣言したことで学園は不穏な空気に包まれる。
「わたしは、設楽了の死の真相を調べに来ました」
事故死では納得できない貴水に巻き込まれる形で了のことを調べることになったさやかは、了と彼女に関わっていた生徒たちの間に何があったのかを知ることになる。
演劇を愛する生徒達が内に潜んだ「殺人者」を暴き出す、眩く鮮烈な学園ミステリー。


演劇学校という普通の学校とは少し違う環境の中で、それぞれに夢に向かっての目標のはっきりしたプライドの高い少女たちの葛藤が繰り広げられる学園ミステリーだ。
名門演劇学校の中ですでに大人顔負けの舞台を作り上げる、それでもまだ10代の少女たち。
その学校の中で『神』だった設楽了と、設楽了の学校での生活はよく知らない、地元で友人だった貴水。
『神』として死んでしまった了のことを知るために、貴水とさやかは寮の舞台に関わった生徒たちを調べていくのである。
狭い、そして一つ軸のしっかり決まっている『演劇学校』という特殊な環境の中で、素晴らしい舞台を作れることからすべての生徒から認められていた設楽了。
何処か歪なその人間関係が暴かれて行きながら、同時に次の定期公演に向けての脚本の選考会やオーディションが始めっていくのである。
それぞれのプライドと、了の存在によって砕かれた自尊心が入り乱れ、彼女が事故死した時の脚本『マクベス』までもが鍵を握る、なかなか濃厚な一冊である。
女子高、それも寮生活の中での生徒の死、というめちゃくちゃ王道な設定だがそれがむしろこの本の強さを際立てている気がする。
最初から最後まで息をつく暇のない、疾走感あふれる一冊でした、
うん、面白かった。

こんな本もオススメ


・芦沢 央『カインは言わなかった』

・呉 勝浩『Q』

・東野圭吾『ガリレオの苦悩』

圧倒的なを有する人と対峙すると人はちょっとおかしくなっちゃうのかもしれないね。

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