読書感想『笑う森』荻原浩

神森の小樹海で5歳児が行方不明になった。
無事に保護されるまでの一週間、少年に何があったのか?

ASD児であり意思の疎通が普通の子のようにできない真人が、小樹海とも称される神森の森林で迷子になった。
シングルマザーである岬は、真人をわざと森林に置き去りにしたかのような誹謗中傷に晒される。
一週間という絶望的な日数が過ぎ、諦めムードが漂ったが、奇跡的に真人は発見された。
見慣れぬマフラーを巻き、あまり体重減少もみられない真人は『クマさんが助けてくれた』としか答えない。
秋深い森で迷子になった一週間、いったい真人に何があったのか?
一週間の空白を埋めるために岬と、真人の叔父・冬也は調査を開始する。


小さな子供が犠牲になる話はそれだけで胸が痛いのだが、この本はまず真人が元気に無事に帰ってきているので安心して読み進めていただきたい。
発達障害であり普通の子とは少し違う真人、なかなか意思の疎通を図るのは難しく真人が何を思い何を考えているのかが手探りなのだ。
ただ彼には、気に入ったフレーズを何度も繰り返す癖があり、自分にかけられた言葉をオウム返しすることも多い。
岬のもとに帰ってきた真人は、一週間のうちに嫌いな食べ物が減り、今まで岬の記憶にないフレーズを口にする。
冬に差し掛かろうとする森の中で1週間も迷子だった間に、真人に何があったのかを知りたいと岬たちが紐解いていく物語である。
いやいやいやいや、そりゃ無理があるでしょ、ファンタジー?と思いながら読み始めたら、なかなか斬新な展開で非常に面白かった。
小樹海と称される神森の森は観光客もあまりなく、ここを訪れるような人は若干後ろ暗い人々で、真人はそんな人々に出会うことで森の中を生き抜くのだ。
死体を隠したい女、偽りのソロキャンプを配信するユーチューバー、組から金を持ち出して逃げるやくざ、自殺する場所を探していた中学教師…と、小樹海に入り込んでいる人々はそれぞれに事情を抱え簡単に人前には姿を晒せないのである。
真人をそのまま保護することこそできない彼らは、それでもその時にできる最大限をして真人を助けてくれるのである。
自分勝手だなぁとは思うものの、同時にこの話の良いところは、出てくる大人たちがみんな真人を助けようと手を貸してくれることだろう。
森の中で突然出会った子供に対し、無視をしたり邪険に扱ったりするわけではなく、手持ちの食料を差し出し、少しでも寒くないように気を配り、捜索隊の目につくような場所までは真人を誘導しようとしたりする、後ろ暗いところは抱えつつもそういう良識はある大人たちではあるとこだろう。
いや、ズルいけど。特にユーチューバー、お前それは…感半端ないけど。
かすかな手掛かりを頼りに、真相に迫る岬たちと森の中で出会った人たちの話が交互に展開され、少しずつ真人の一週間が明かされていく。
無事に戻ってきた真人の一週間の冒険譚はハラハラドキドキさせられつつ、とても優しい終焉を迎えます。
なかなか読みごたえもあって面白い一冊でした。満足!

こんな本もオススメ

・辻村 深月『青空と逃げる』

・東野 圭吾『レイクサイド』

・『カフネ』阿部 暁子

本当のことを知ってる人が口を閉ざして、そこには誰かを守りたい意志がある話って多岐にわたるよね…全然類似小説は思いつきませんでした(笑)

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