読書感想『トヨタの子』吉川 英梨

トヨタのために、命を懸ける

日本企業最大利益を誇るトヨタ自動車。
そんなトヨタ自動車を立ち上げたのは、豊田喜一郎の情熱だった。
紡績工場の二代目として生まれ、自動機織機を完成させた喜一郎は、日本に一大産業を築くべく国産自動車の開発に乗り出した。
その孫として生まれた豊田章男。
トヨタのボンクラ御曹司と揶揄され、どこに行っても何をしても個人としては見てもらえない章男は自分の境遇に打ちのめされていた。
そんな二人は不思議な遭遇を繰り返しながらトヨタを支えていく。


トヨタの社史みたいな超絶経済小説でありながら、喜一郎と章男が時を超えて出会うファンタジーでもある。
…うん、うーん、個人的には、ものすごく面白いんだけど超絶現実的かと思ったら突然ファンタジーになるからちょっと読みにくかったかな…。
トヨタの創業についての喜一郎パートと、成長したトヨタの中で創業者一族というだけで疎まれる章男パートは見える世界も話の論点も全く違ってものすごく読み応えがあった。
ゼロから国産車を作り、日本に新しい産業を興そうとしてる喜一郎の奮闘は壮大。
時代にも恵まれず、辛酸をなめる姿にトヨタにこんな苦労があったのか!?と目から鱗。
そしてすでに大きくなりすぎたトヨタの中で、ボンクラ御曹司として扱われる章男のパートは喜一郎とはまた違う苦労の連続で、自動車産業小説というより社内政治の側面が強い。
時代の全く違う、トヨタの二人の苦労はどちらも規格外でめちゃくちゃ読みごたえがあり面白かった。
んだが、この本は…そんな二人が不思議な力によって度々時代を超えて出会い、お互いを励ましながらすすんでいくという若干特殊な設定なのである。
いや、うーん、おもしろかったんだが…その設定トヨタの実名でやる必要あるのかしら…と、感じてしまったというか…。
トヨタの実名を使って、フィクションとは言いつつある程度社史にも沿った展開を見せるので現実的な経済小説として楽しんでたら突然めちゃくちゃファンタジーになっちゃうので個人的にはだったらトヨタの名前でなくてもよくない???と思ってしまったり…。
その現実的すぎる世界が急にファンタジーになることが気にならない人は多分普通にめちゃくちゃ面白いと思うんだが、僕は若干その部分が違和感として拭いきれず…のめりこんでたら急に別の本読んでるみたいな感覚になってしまった感があり、面白いのになんか腑に落ちてない感じです。
うん。いや、めちゃくちゃ面白かったんだけど…
明らかにトヨタってわかるけど違う名前で完全創作物ですよ!な顔されたほうが僕は面白かったかなぁ…。
いや、本としてはめちゃくちゃ面白い…トヨタは当たり前に日本にある超巨大企業だっていう認識で生きてきたので、そのトヨタが生まれるまでの苦労も、巨大企業に成長してしまったが故の本質がズレていく感じも重厚で引き込まれました。
喜一郎と章男の邂逅も別に悪いわけじゃなく…時代を超えた、トヨタを愛する二人がトヨタのために何ができるのかをアドバイスしながら切磋琢磨していくのもなかなか斬新で面白かったことは面白かった。
んだが、完全な創作物としてはトヨタの名前が邪魔をしちゃって、一気に嘘くさくなって冷めてしまうというか…。
なんか、創作物なら創作物、トヨタモチーフの歴史小説なら歴史小説、ってはっきり分かれて欲しかった感じですかね…
滅茶苦茶…滅茶苦茶面白かったんだけど…。
面白いなら文句言うなやって怒られそうな感想になっちゃうなぁ…。
いやこれはもう、ほんと好みの問題だと思うので…そこ気にならない方は多分普通にめっちゃ面白いです。

こんな本もオススメ


・池井戸潤 『下町ロケット』

・葉真中 顕 『コクーン』

・黒川博行 『後妻業』

事実は小説より奇なり…だけど、それをモチーフに再構築された小説は重厚で面白さが増す気がする。

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